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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第三章 月への道
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27 武甲温泉

小岩剣と坂口拓洋がホワイトレーシングプロジェクトに戻ると、蒼いS660も戻ってきていて、愛衣がTOYOTA86の入換をしていた。

「どこへ行っていた?」

と、坂口愛衣が聞く。

「秩父サーキットにね。エスロクで、ちょっとばっかり教えてやった。NSXでやったらわけわからなくなると思ったんで。」

小岩剣はぜぇぜぇ言っていたが、坂口拓洋はそれでも冷淡に言う。

「どうだ?解かるだろう?同じ軽でも、N‐ONEとS660じゃ全然違う。確かに、N‐ONEのレースは開催されているし、弄り方次第では良い走りはする。だが「良い走り」止まりで、本物のスポーツカーと比べると全然違う。とにかく、まずは自分の車の事を知り、その上で、どう走るのかがベストかを考える。そして、それに向けて車を作るんだ。だが、どうやっても、限界ってものがある。俺がS660にしろって言うのは、単に、蒼いS660を押し売りしたいってわけじゃないんだ。小岩君のやりたいこと、更にその先へ行く事を考えると、S660の方が、可能性が高いからだ。まっ、十分考えるんだ。自分はどう走りたいのか、どうしたいのかをね。」

と、拓洋は言った。

「はい。あの、ありがとうございました。今日は、初めてサーキットを走って、レーサーの走りを見れて、とても充実しておりました。自分がどうしたいのか、ゆっくり考えさせていただきます。」

「お前、きっと、速くなるだろうな。走る気になれば。おうそうだ。これ、よかったら使いな。」

と、拓洋はおもむろに、何かを渡した。

温泉の割引券のようだった。

「初めてのサーキットだ。おまけにこれから群馬まで帰るのだろう?だとしたら疲れが溜まっている。温泉入って、汗だけでも流してから帰れ。」

「えっと、この温泉は―」

「ウチのスポンサーでもあるんだがね。隣町の横瀬にある。299出て、踏切渡って、140号越えて、横瀬小学校のとこを左曲がったとこにある。看板も出てるから、それを頼りに行け。」

小岩剣は一礼して、紹介された武甲温泉に向かう。

国道299号を走って、秩父鉄道の踏切で貨物列車と遭遇し、国道140号を渡って、横瀬小学校の交差点を左に曲がったところに、武甲温泉があった。

まあまあ年期の入った建物に入り、入浴料金を払い、タオルを借りて風呂場へ向かう。

100円玉が帰って来ないタイプのコインロッカーが脱衣所にあったが、あまり使っている人はいないようで、ほとんどの人が、蛸壷のような棚に籠を突っ込んでいる。

その蛸壷ですら、ガラガラで閑古鳥が泣いている有様。

なので、小岩剣は籠に衣服を入れ、それを蛸壷にぶち込んで風呂に入る。

カランで身体を洗って、内湯に入る。

内湯の端にはジェットバスがあった。

背中の凝りを感じた小岩剣は、そこで、背中を解す。

おもしろい事に、内湯の中には他にも取って付けたような小さな浴槽があった。

何かと思えば、炭酸泉。血行促進や新陳代謝を良くすると言うのだが、入ろうという気にはならない。

露天風呂に行くと、虫の声がよく聞こえた。風呂に入ると、疲れが一気に和らいだように感じる。

(S660凄いなあ。)

と、小岩剣はS660の走りとN‐ONEの違いを思い出しながら思う。

そして、蒼いS660の事を思い出す。

「やりたいこと、更にその先へ行く事を考えると、S660の方が、可能性が高い。」と言う、拓洋の言葉。

(買ってもいいかなぁ。)

と、一瞬考えてしまった。

だが、N‐ONEはずっと離れ離れで暮らしていた両親が、せめてもの罪滅ぼしとして、自分に買い与えた車である。

(自分の私利私欲のために、N‐ONEを売って、それでS660を買うってのは、親不孝もいいところじゃないのかなぁ。)

と、思う。

風呂上がりに、冷水機で水を飲んで、服を着て、帰路に着く。

帰り際、間瀬峠を攻めてみる。

さっき、拓洋がやった4WDドリフトというものをやってみようと試みるが、うまくいかない。

タイヤは鳴るけど、拓洋のそれとはまるで違う。

左コーナーに入った時、何かが流れているのにタイヤが乗った。その瞬間、滑ってスピンして行く。

「しまっ―!」

小岩剣はこのとき、アクセルを踏んでいたままだった。

それが幸運にも、スピンしても綺麗なスピンになって、道路内に車を留めた状態で止まった。

「うわぁやっべぇー。」

と、小岩剣は冷や汗をかきながら、車外へ出る。

そして、自分の車が乗った物が何かを見ると、それはオイルのようだった。

何者かが、オイルをここへ棄てたらしい。それに、小岩剣は乗ってしまったのだ。

(とにかく、無事でよかったぜ。)

と、思いながら、小岩剣は家路を急いだ。

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