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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第二章 月明かりに照らされて
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24 ワム地下・三姉妹とつるぎ

結局は夕方近くまで桐生の町並みを見て歩いた、小岩剣と三条神流と松田彩香。

他のメンツが「何時にワムに着くと思う」と言う連絡をし、それに合わせてワムへ行くことにした。

有鄰館を見学していた3人は、見学を終えると、ワムへ向けて出発。その道すがら、三条神流は日奈子に「奴の言い分聞いた」と連絡し、小岩剣の言い分を話す。

日奈子は「なるほどね」と言う。

「ちょっと説教しといた。あと、奴には日奈子達がワム行く話しは敢えてして無い。」

「分かった。恵令奈と玲愛連れて襲撃するわ。」

「言い方キツイなぁ。」

と、三条神流は苦笑いした。


日奈子は仕事が終わると、恵令奈と玲愛に「ワム行くよ」と言う。

恵令奈は、強引に既成事実を作らせようとする日菜子や、惚れ込んで何が何でも我が物にしようとする玲愛に対し、小岩剣に寄り添いながら言い分を聞いてどうするのが適切かを考える姿勢を取っていたが、今回に関しては、小岩剣の出かたによっては、小岩剣にたっぷり灸をすえてやるつもりだった。

だが、相手の言い分を聞いた今、やはり、小岩剣に寄り添いながら言い分を聞いてどうするのが適切かを考える姿勢を取り、日奈子や玲愛のブレーキ役となる事にした。

「焼肉会には間に合わないから、赤堀のマックで軽く夕食ね。玲愛はどうする?一緒に襲撃する?」

と、日奈子が聞く。

「行く。でも、嫌われたくない。」

と、玲愛は答えた。


ワムの地下駐車場に入る。

「サンダーバーズ」や「ADM」のメンバーで、一番最初に着いてしまった。

メンバーが揃ったところで、焼肉屋に歩いて向かう。

馬鹿みたいな話で盛り上がった後、地下駐車場に戻って、消臭剤を掛け合って、集まっている車を見たり、その場で車談義をしたり、車の撮影会をしたりし、各々散っていく。

小岩剣が、三姉妹の住むログハウスに持っていくつもりだった、銚子電鉄の「ぬれ煎餅」を開けて、皆で食いながら、

「ありがとうございます!」

「いつも、皆さんにお世話になっているので。」

「でも、銚子電鉄じゃないと買えない物だ。群馬じゃなぁ。」

と話しながら、馬鹿みたいなことで爆笑し、久しぶりに笑いのツボに入った小岩剣は呼吸困難になりながらも、また馬鹿騒ぎしていた時だった。

ロータスが3台の隊列を組み、地下駐車場にやって来たのを見て身体が凍りつく。

それは、三姉妹のロータスだったからだ。


小岩剣の前に、東郷三姉妹が立ち塞がる。

「ようワンコ君!ここでなぁにしてんのかなぁー!?」

日奈子がニヤリと笑い、地べたに座る小岩剣を上から覗き込むように言った。

「待てど暮らせど来ないから、こっちから来ちゃったよ。」

と、玲愛。

「車壊れて、修理していたら誘われてこっちに。」

嘘ではない。

「なら、そう言え!」

恵令奈が怒鳴った。

「今夜はログハウス。良いね!?」

「はい。あっ、そうそう。これ、もしよろしければー」

言いながら、小岩剣は銚子電鉄の濡れ煎餅を渡す。

「モノで釣るな!って、えっ?」

日奈子は小岩剣が銚子電鉄の濡れ煎餅を渡したので首を傾げる。

「学生時代、銚子電鉄には世話になりましてね。今でも通販で濡れ煎餅買っているのです。最も、あっちまで行って買ったのと比べると、あっちまで行って買った方が美味いと自分は感じますが。」

「それは、実際に銚子電鉄まで行ったって言うことが、スパイスになっているって考えられる。まぁ、心理的なものね。」

恵令奈が言う。

「銚子電鉄とは、どんな付き合いが?」

玲愛が聞くと、他のメンバーも同じことを聞いてくる。

「大学1年のゼミの巡検で行きましてね。その際、自分は作品は嫌いですが「生滅!」のマンガを沿線の中学生と貸し借りしている車掌さんのエピソードを聞いて、お金はないけど如何に地域に寄り添った鉄道って言うことを実感しまして、以来、学生時代に時折遊びに行ってました。ただ、これには自分の夢無くした現実逃避の意味合いもあり、その状態で就活して見事に落とされました。」

と、頭を掻きながら言う。

「「生滅!」が嫌い」と言ったのは、三条神流への気遣いだと三条神流は思ったのだが、小岩剣もまた、「生滅!」に興味を示してはいなかった。

少々、空気が重くなったが、三人姉妹が小岩剣を怒鳴り回したり拉致したりする事も無かったため、小岩剣は意外に思う。

「日奈子の奴が、俺んとこに連絡寄越したんだ。お前が約束破ってるぞどうなってんだ?ってね。だから俺はちょっと説教したんだ。」

と、三条神流は言う。

御開きになる時、三条神流は、

「まぁ自分の気持ちに素直になりな。」

と言い、BRZのエンジンをかける。

「今夜はどこまで行くんだよ。」

「一発ぶっかませ!」

「テメェら、今度会ったら覚えとけ!」

と言いながら、三条神流は松田彩香に続いて、栃木方面へ向かって行った。

三条神流と松田彩香は明日、モビリティリゾートもてぎでTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupに参加。

そのために、マルシェに行っていたのだ。

これには加賀美も併催されるN-ONEオーナーズカップに参戦するため同行する。現に加賀美もここに居たのだが、小岩剣は加賀美との一件で声をかけられ無かったのだ。

「行きましょ?」

小岩剣もまた、玲愛に言われる。

だがその際に玲愛は、「また逃げ出さないように」と、小岩剣のスマホのGPSを登録してしまう。

ログハウスに向かって夜道を走って、深夜0時前にログハウスに着くと、玲愛はそのまま風呂へ小岩剣を引き摺り込む。

「私は、ワンコ君が好き。」

「―。」

玲愛のセリフに、黙りを決める小岩剣。

「ワンコ君は、誰か好きな人居るの?」

「いいえ。」

「なら、弟になって欲しい。」

身体を絡めて来る玲愛。嫌でも、初めてキスされた時のことを思い出してしまう。

「なんで、群馬に来たの?」

「なぜと言われても―。」

「導かれたから?」

「いえ。ただ、最初に来たのは、誘われたから。群馬に行かないかと、ダチに誘われて、そいつの伝手で、三条さんと知り合いました。」

「そのダチはどうしているの?」

「知りません。成人式の時に連絡があっただけで、奴は、長野に居るらしいです。」

風呂上がり、寝室で玲愛は小岩剣の身体の上へ馬乗りになる。

「私は、ワンコ君が好き。私は、貴方が好き。抑えられない。私は貴方が好き貴方は、私の死んだ妹よ。私と一緒になろう。美輝ミラ

と、玲愛は泣き笑いで言う。

その、悲しい顔に、一瞬、同情しかかる。

だが、最初に出てきたのは、

「何を言っているのですか?」

と言うセリフが、怒気と共に出た。

「ワンコ君が好き。ワンコ君は死んだ私の妹。ああ、帰ってきて。美輝。」

涙を流す玲愛に、またも、同情し、哀れに思う小岩剣。

しかし、先程の三条神流との会話が脳裏によぎった。


「そういう理由で、お前に惚れたは確かに反感買う。お前は人間であって、道具ではない。お前はお前で、俺は俺。お前が群馬に来て、俺達も変化したし、三姉妹も変化した。だが、「サンダーバーズ」にしても「ディスタント・ムーン」にしても、お前は一人の車好き仲間って見ているのであって、お前をいじめの標的にして、ストレス発散だかサンドバックだかそう思ってんのか知らねえが、そういう道具として見た事は一度も無い。親睦を深めようって意味合いかもしれねえが、見方によっては無理矢理にでも仲間にしようとしているようにも見える。その上で、俺としては、そういうのとは付き合いたくない。」


軍国主義で、極右主義の塊のような三条神流のセリフだ。

だが、その三条神流の影響を受けた小岩剣は、血も涙もない、無慈悲で横暴なセリフを、玲愛に突き刺す。

「違う!自分は自分で、玲愛さんは玲愛さん!貴女達の妹は貴女達の妹です。自分は人間です。自分は、貴女達の、玲愛さんの欠けた心を埋める道具ではありません。そして、自分は、玲愛さんの妹でもありません!」

突き放すセリフを、まるで、機関砲を乱射するかのごとく放つ小岩剣。

突き放されるセリフに、玲愛はとうとう泣き出した。

だが、小岩剣は同情しながらも、顔には出さない。

(同情などするものか!)

と、三条神流がいたら言うであろう。

泣き出した玲愛を見て、日奈子も黙ってはいない。

玲愛を退かすと、小岩剣に掴みかかった。

「よくも玲愛を泣かせたわね!」

「自分は自分です!」

「私はもう、大切な妹が泣くのを見たくない。玲愛がどんなに苦しんでいたか分かる!?そういうなら、なぜ、私達の前に現れたの!?」

(なんだと?先に手を出したのは、そっちではないか。勝手に俺に手を出しておいて、よくもそんなことが言えるな。)

と小岩剣は思った。

「確かに同情はします。しかし、だからといって、自分を死んだ妹さんに重なねるのは間違ってます。貴女達も御存知でしょう。自分だって、大切に思っていた姉さんを、どこの誰とも知らない奴に奪われてます。貴女達に会った時、その、姉さんを思い出しました。ですが、貴女は貴女で、姉さんは姉さん。自分は、貴女達に姉さんを重ねてません!貴女達といて、楽しいのは認めます。そして、自分は―。」

ここで、一瞬、息を飲んだ。

「自分は、玲愛さんの事が気になっていて、好きになりそうだと言う気持ちがあります。その気持ちに、嘘はありません。」

一瞬、玲愛が「えっ」と言った。

だが、恵令奈はそれを早く察していたらしく、何も言わない。

「でも、自分を死んだ妹さんに重ねるのは、間違いです。自分は自分で、貴女は貴女です。」

ギリっと歯を鳴らした日奈子は、

「何をこの野郎!」

拳を上げて殴り掛かろうとした。

だが、その腕を、恵令奈が掴んで止めた。

「恵令奈。何するの。」

「ワンコ君の言っている事が正しい。」

「何ぃ。」

「だから、ワンコ君は逃げ出して、約束を放り出した。私だって、玲愛が泣くのを見たくない。でも、だからってワンコ君に美輝を重ねて、ワンコ君で満たそうとするのは間違いよ。」

「間違い?」

「無理矢理、ワンコ君を美輝の代わりにし、ワンコ君で満たされる玲愛を、美輝はどう思う?月から見ているだろう、親と美輝は、ワンコ君で満たされようとする私達に、うんって言うと思う?」

日奈子は腕をおろした。

玲愛も、泣きながら首を横に振った。

「ワンコ君。玲愛の気持ちも、分かってあげて欲しい。でも、無理にとは言わない。ワンコ君の気持ちが、ワンコ君にとって一番大事だからね。」

小岩剣は助かった。

そして、普段は無表情でいることの多い恵令奈が、このときばかりは優しい目をしていた。

(一番、しっかりしていて、一番、お姉さんなのは、恵令奈さんなのかな。)

と、小岩剣は思った。


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