表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第二章 月明かりに照らされて
25/78

23 桐生の町

松田彩香のGR86が先頭。その次位に三条神流。最後部に小岩剣の隊列で、国道50号に出る。

三条神流と松田彩香の影響で、二人の聞いている曲を自分でも聞く小岩剣。

曲のリズムや波長が、群馬の道にベストマッチで、すぐにテンションが上がっていく。

だが、速度違反には注意だ。

(燃料も満載しているし、松田さんのペースに合わせて走れば、問題無し。)

と、小岩剣は思う。

しかし、途中でペースを乱した。

と言うのも、前方から、日奈子のロータス・エリーゼが来たからだ。

日奈子は小岩剣に気付くと、直接連絡せず、隊列の中にいた三条神流にハンズフリーマイクで通話して事情を聞く。

三条神流は「俺たちがワム地下に誘ったんだ。確かに何か変だとは思ったが。」と言う。

「玲愛連れて行っていい?」

「来るなとは言わねえし、状況知った俺からすれば、むしろ来て欲しいな。アヤにも話しとくよ。」

「分かった。」

「つるぎには言わないでおくが、それと無くこっちから事情聴取するよ。」

三条神流は言う。

(けっ!なんか変だと思えば。)

と、三条神流は舌打ちした。

桐生の町に入った。

「桐生は日本の旗どころ」と、上毛かるたで詠まれている通り、織物工業で栄えた町であると分かる。そして、現在でも、町の北側の桐生天満宮付近には、本町通りを中心に、かつての織物工場の建て屋であったノコギリ屋根工場等が残っており、それを活用した町作りが行われている。また、この辺り一帯は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。

三条神流は長野から群馬に戻って来てからしばらく、このあたり、特に、重要伝統的建造物群保存地区に指定されているあたりには近寄らなかった。

長野の松本城の近く、深志のあたりを思い出してしまうからだった。

(まっあの深志辺りのゲストハウスにもよくお世話になっていたが、彼処は失敗だな。風情あった消防署ぶっ壊して、クソデッカイコンビニ作ったせいで、風情ある町並みだったのが台無しになっちまった。)

と思いながら、重要伝統的建造物群保存地区の真ん中を走る本町通りを、三条神流は松田彩香に続いてBRZを走らせる。後方には、しっかりと、小岩剣が付いてきて居る。

小岩剣は桐生の町に来るのは初めてである。

なので、信号待ちの度に、周囲をキョロキョロと見回す。

桐生天満宮を通過して、桐生川に沿って山道を走り、桐生の町から更に山奥まで行った場所にある桐生川ダムまで来た。

ダムサイドの休憩所で、トイレ休憩後、ダム湖を一周走って、また同じ休憩所に戻り、3台並べて写真を撮る。

「桐生の町並みはどうだった?」

と、松田彩香が小岩剣に聞く。

「えっと、その、なんて言えばいいのか、一言で言うなら、落ち着いていて、えっと、まるで、別の世界、あっ、アニメかマンガの世界にでも迷い込んだような雰囲気でした。」

相変わらず、不意の質問にはオドオドしながら答える。

「言葉では言い表せなかった。ってとこかしら。」

「はい。そうです。」

「でも、桐生は実を言うと、治安が悪い場所でもあるんだよね。」

「あっ、確か桐生競艇がありますよね。それで―。」

今度は三条神流が眉を細めて突っかかる。

「あのさ、米軍基地問題じゃねえんだし、「オスプレイ反対ドバンババンバン祭り!」じゃぁねえんだ。桐生競艇如きでそうはなるかよ。」

「スミマセン。」

「ゴッ!」と、松田彩香が三条神流に本気の拳骨。

「お前も、直ぐに突っかかるな。気ぃ短けぇの分かってっけどさ、そうやって直ぐに突っかかるから、つるぎ君もビビるんだよ。つるぎ君の昼飯代、お前が半分払え!」

「ふーい。」

「返事は「はい」だ!」

また拳骨。

「はいはい。」

「はい、は一回!」

今度は尻を蹴飛ばされる。

「ちっうるせぇなぁ。」

三条神流は頭を掻きながら、

「まぁ、治安の悪い場所ではあるけど、いい場所だよ桐生は。ちなみに、上毛かるた県大会で優勝回数が一番多い町は、桐生だよ。」

と言う。

「そうなのですか。」

「ああ。よし、そんな桐生の名物食わせてやる。付いてきな。」

「はい。」

今度は、三条神流が先頭で走る。

再び、桐生の町へ向かって山を降り、桐生天満宮付近の重要伝統的建造物群保存地区の中にある、うどん屋に車を停める。

三条神流と松田彩香は揃って、「天ざるうどん(ひもかわ)」と頼み、小岩剣も流れで同じものを頼む。松田彩香は大盛り。

頼んだ物が運ばれてきたが、小岩剣は驚いてしまった。

(えっうどん?でも、幅が広くて弾力がある。何より―。)

「噛み切るのが大変か?」

と、三条神流。

「ええ。」

「普通のうどんと異なって、平たい。桐生の郷土料理の一つだ。生地を薄く伸ばした物で、食べご堪えがあるだろう?」

「はい。それに、美味しいです。」

食べ終えると、3人揃って、桐生天満宮に参拝。すると今度は、

「あの、レンガ作りの建物はなんですか?」

と、小岩剣。

「行ってみる?」

「えっ食ったばっかりで?」

松田彩香が言うのに、三条神流は驚く。

「コーヒーの一杯は入るでしょう?」

「まあね。」

「じゃっ行こ。」

連れられて入ったのは、工場だったノコギリ屋根の建物をリノベーションしたパン屋だった。

そして、パン屋の裏手では、機織り教室が催されていて、小岩剣はそれを見学させてもらう。

「宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」を読んだことはあるか?」

 と、三条神流。

「ええ。」

「あれに出てくる、てぐす工場。それがまさしくこれ。蚕の繭から糸を取り出し、それを織物にするんだ。」

「あっ「たぬきの糸車」も!」

「そっ。」

キーカラカラ、キーコロコロと音を立てる糸車を見ながら、

(あの人たちから教えてもらえなかったなこんなこと。)

と、小岩剣は思うと、不意に三姉妹に約束したことを思い出し、後ろめたくなる。

パン屋にはカフェスペースがあり、3人はここでお茶にする。

華奢な見た目の割に大食いな松田彩香は、ノコギリ屋根を模ったフレンチトーストを1つとツイストパンを2つ頼むが、三条神流と小岩剣はパンの耳の揚げパンを摘みながら、三条神流はコーヒー。小岩剣は紅茶を飲む。

「あっあの―。」

と、小岩剣が口を開いた。

「どうした?」

三条神流が答える。

「実は、告白されたのです。」

「ああ。玲愛にだろう?それで?」

「理由を聞いたのですが、どうも納得できない理由でして。あの、両毛線でSLにタクシーが突入した事故ってご存知でしょうか?」

「ああ。奴等がその遺族って事もな。」

「特に玲愛さんが、目の前で妹さんが亡くなったため、酷いショタコンになり、未だPTSDに悩まされていると。それで、それを話した上で私の弟になって欲しいと。」

「なんて答えた?」

「放置です。まるで自分が彼女の妹さんの代わりにされているように感じたからです。と言うか、自分は男であり、女の子ではありませんからね。そしたら、日奈子さんが襲撃してきて―。自分としては、「同情で玲愛さんを好きになることは無い」と。そもそも、自分の本命は加賀美さんです。そこに入り込んで来た玲愛さん達は、いい人ではありますが、せいぜい、でも特急です。」

三条神流は黙りを決める。

「実は昨日、日奈子さんに「今日行くから」って追い返したのですよ。」

「おいおい。そりゃぁ、約束破りではないか。」

三条神流が咎める。

日奈子から話は聞いているので、厳しく追求はしない。ただ、小岩剣の言い分を聞く。

(これが両毛連合なら、片方の言い分だけしか聞かないで、勝手につるき君を悪者に仕立てて悪口罵声大会ね。なんでHONDAの奴等って、そんな事しか出来ないのやら。だからスーパーGT連覇出来ないのよHONDAは。)

と、松田彩香は思いながら、フレンチトーストを口に運ぶ。華奢な体型からは想像が付かない程大食いなのは、GR86と同じく燃費が悪いのだろうか。

「先ほども言いましたが、自分の本命は加賀美さんで、自分は加賀美さんを目標にしてますが、玲愛さん達は、まるで自分を玲愛さんの妹さんの代わりにしているように感じた上、最近は、目の前にいる三条さんや松田さんと共に過ごす時間が最近無い事。そして、先ほど、松田さんに「最近は玲愛さんと―。」って言われたのが、自分は、「三人姉妹の仲間なので自分達とは遊ばない」「自分の相手は玲愛さんだ」と思われているように感じてしまい、車両故障を偽ってこちらに―。」

と理由を言った。

松田彩香はそれを聞いて(変な言い方しちゃったかな)と思う。

「まっ咎めないよ。」

と、三条神流は言った上で、

「そういう理由で、お前に惚れたは確かに反感買うな。お前は人間であって、道具ではない。俺から言えることとしては、これだ。お前はお前で、俺は俺。お前が群馬に来て、俺達も変化したし、三姉妹こと、「distant moon」も変化した。だが、俺たち「サンダーバーズ」にしても「霧降艦隊」「ADM」にしても、お前は一人の車好き仲間って見ているのであって、お前をいじめの標的にして、ストレス発散だかサンドバックだかそう思ってんのか知らねえが、「赤城distant moon」がお前をそういう道具として見た事は一度も無い。」

と言い、

「親睦を深めようって意味合いかもしれねえが、見方によっては無理矢理にでも仲間にしようとしているようにも見えるなぁ。その上で、俺としては、そういうのとは付き合いたくない。お前だって、長野で痛い目にあった俺の過去を知っているだろう?」

と言う三条神流に、小岩剣は肯いた。

「あまり褒められるやり方とは言えないが、今回はここへ来て正解だ。ただ、お前のやり方もまずい。車壊れたのは確かに事実だ。現に警告灯付いて、慌ててマルシェに来たんだからな。その後、俺とアヤが誘ってこっちに来たんだ。なら、正直に「車の調子悪くてマルシェに行ったら、俺とアヤから誘われたのでこちらに行きます。」って言い、その上で「もしよろしければ、皆さんも来られますか?」とか言うべきだったな社会人として。」

三条神流は言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ