19 N-ONEの限界
「ちっ!」
加賀美、舌打ちする。
一方で、三条神流は冷たい。
三条神流は高崎の観音山のワインディングエリアで、N-ONEとZD8型BRZのバトルをしていた。
が、ヒルクライムではおもしろいようにBRZが真価を発揮し、FFの N-ONEでは埒が開かない。
結局のところ、N-ONEは嬲り殺しだ。
「あんたどっちの味方よ!つるぎ君を傷付けたから見せしめ?」
加賀美はかなり怒気を込める。
三条神流は「ああ。お前で無く、つるぎへの見せしめだ。」と言いながら、加賀美のN-ONEのドライブレコーダーの映像と自分のドライブレコーダーの映像を、自分のノートパソコンに移す。
「俺はあいつに、テメェの気持ちをはっきりさせろって言いたいんだ。お前か玲愛か、はたまた別の奴か。でねえと、今にアホンダラ野朗共がアオアオー!って喚く。」
言いながら、N-ONEのドライブレコーダーの映像を小岩剣に送る。
「つるぎ君は、私を切るつもりないと思う。」
「俺も同じく。ただ、車に関してはN-ONEから乗り換えるかもしれない。マルシェにまだいたはずだ。俺が乗ろうとしたS660が。アレにな。」
しかし、その後、三条神流と加賀美咲は、霧降も交えて山岡家でラーメン会をしたが、その際、霧降は、
「三条を拒絶したS660は、秩父のチューニングショップが引っ張って行く事になった。」
と言い、三条神流の言った事は実現しないだろうと思った。
帰り際、三条神流と霧降要は赤城道路へ繰り出す。
SUBARUが2台。
「ブルーサンダーのロゴが似合うな。」
と、霧降。
「よせ。俺はあまり気に入って無い。」
「自分で付けたクセによ。そう言えば、3人姉妹の秘密、つるぎの奴知ったらしいぞ。」
「ああ。アレか。」
三条神流は何も思わない。
無線交信しながら赤城山に入ったが、その刹那、後ろからベンツが来る。
「退け。」
と、霧降。三条神流も退く。
追い越していったのは、ベンツAクラスセダンだ。
「ベンツかよ。死ね。」
三条神流、舌打ち。
元カノの浮気相手のオッさんが乗っていたからだ。
「お前のZD8型BRZの方が、ベンツよりいいぜ。」
「そりゃどうも。」
と、三条神流。だが、ベンツは突如、道を塞ぐように止まると、何故か三条神流に絡んで来た。
日本語らしい言語を喚くが分からない。三条神流は110番通報するが、フロントバンパーを蹴飛ばしたベンツのチャラ男に怒り爆発。
走り出した瞬間、三条神流はブチ切れてベンツを追い回す。
霧降要も加わる。
が、その背後から更におっかない奴がやって来た。
「三条!避けろ!ロータス!」
霧降要のBRZが緊急回避するも失敗してスピン。
「うわっち!」
三条神流とベンツの合間に、ロータスが割り込む。玲愛だ。その背後から恵令奈も来る。
恵令奈は、三条神流のテールエンドに追突すると、三条神流を盛大にスピンさせた。更に怒りを募らせた三条神流は、制御不能。
ロータスまで追跡を始めた。
だか、追い付いたと思った時、ガードレールが破られている箇所を見た。
更に、そこから何かが落ちたような痕跡。
目もくれず、ロータスを追うが霧降からの通信。
「サンボルから逃げろ!ベンツだ!ベンツが落ちてる!」
「あそ。ベンツは自業自得だ。ロータスナンパに失敗して、俺で発散しようとしたんだな。俺、関係無いからな!」
「警察のとばっちりじゃ無い。山火事!」
「はっ?」
「だぁから、山火事になってんだよ!ベンツが火元!ドライバーは知らん!ほっとけ!死ねばいいあんな奴は!巻き添え食って焼け死にたくなけりゃ逃げろ!」
「分かったよ。」
だが、ロータスにまで追突された三条神流は怒りが収まらない。
ロータスを探したが、ロータスは見つからず、三条神流は怒り任せにサンダーボルトラインをメチャクチャに攻め込んで、今度はサイドミラーを壊してしまった。
小岩剣は加賀美のN-ONEと三条神流のZD8型BRZのバトルの映像を見、そして、再び秩父に行く。先日、訪問した秩父の「ホワイトレーシングプロジェクト」に連絡したところ、今日なら都合が付くと言う相手が居るので、秩父へ行く。明日も長時間勤務だが、背に腹は切れない。さっさと行って、用事だけ済ませて帰るつもりだ。
間瀬峠を越えて、秩父にやって来ると、ホワイトレーシングプロジェクトに入る。
今日もまた、あの気の強くて根っからの跳ね返りである知恵と、温厚な真穂の姿もあったが、その他にも、先日不在だった者もいた。
ホワイトレーシングプロジェクトのエース坂口愛衣と、NSX type R NA1と軽スポーツカーのS660を手足のように操り、エースの後を追い回す坂口拓洋だ。真穂が先日、「良いアドバイスをしてくれるかも」と紹介したのは、拓洋だった。
「話は聞いているよ。」と、拓洋。
拓洋は、小岩剣が持って来た、N-ONEとZD8型BRZのバトルの映像を見る。
「腕はいいが、下手だなこのBRZ。N-ONEの方が限界分かってるな。」
と言った後、三条神流がブチ切れて赤城山を走る映像まで見つけた拓洋。
それを見て「アホだなコイツ」と一蹴した後、
「N‐ONEも確かに、軽ワゴン車の中では速く走れる方だよ。N‐ONEレースも開催されている。でもね、あのレースの別名は「N‐ONE横転グランプリ」。なんでこう言われているかと言うと、ほらこれ見てみ?」
と言いながら、パソコンで袖ケ浦フォレストレースウェイのN‐ONEオーナーズカップエキシビジョンマッチの映像を見せる。
袖ケ浦フォレストレースウェイの最終コーナーでひっくり返った挙句、壁に激突しているN‐ONEが映し出された。
他にも、富士スピードウェイのアドバンヘアピンでひっくり返る様子。
筑波の1ヘアで玉突きクラッシュや、最終コーナーで3回転してクッションに体当たり。
「同じ、筑波サーキットで行われたハチロク祭りの時の映像を見てみると、ほら。」
AE86は先日観た映画に出てくる車だと分かった。
車高は低く、遠心力もそれ程発生していない。足回りもまるで違うらしい。
N-ONEではぶつけ合いになっていた1ヘアも、最終コーナーもすんなりと抜けてしまっている。
「一応、ウチでもホンダツインカム(FEEL’S)製を中心に、N‐ONEカスタムパーツを扱ってはいる。」
と、言いながら拓洋は、N‐ONEのパーツリストを印刷した物を渡す。
「群馬のカーショップ以上に、豊富です。自分の行くのはSUBARUがメインで、HONDAはあまり―。いや、知人の店で、たまに顔を出すので―。」
「カーショップは基本、HONDAはHONDA。SUBARUならSUBARUって感じだな。確かに、HKSのように、なんでも扱えるパーツショップもあるし、ウチのように日本車ならなんでも可って場合もある。だけど、ウチは基本HONDAだからなぁ。」
とは言われたが、小岩剣はそのパーツの豊富さに驚いた。だが、拓洋は冷淡だった。
「それはやるけど、そこから速くなるパーツを探しても無駄になる可能性のほうが高いぜ。」
と、拓洋は言う。
「まず、相手は何だ?」
「えっと―。」
小岩剣は少しの間を置く。本当に目指している相手は加賀美のN-ONEなのだが、坂口拓洋の厳しい目を見た途端、N-ONEだと言えば「話聞け!」と追い返されると思ったのだ。
「SUBARUのZD8型BRZと、TOYOTAのGR86それから、MRのロータスもいます。」
と言った。
「無理だ無理!」
逆に拓洋はバッサリと切り捨てた。
なら、やはりN-ONEオーナーズカップとでも言うべきだったのか。
「N‐ONEは確かにレースも開催されるけど、スポーツカーじゃないから、それに追い付くのは不可能だ。現にその映像。下手くそのBRZ相手に嬲り殺しだろ?」
と言うのが、今日、ホワイトレーシングプロジェクトで得られた物だった。
坂口拓洋は三条神流のBRZを「下手くそ」と侮辱した。自分の尊敬する上官が侮辱されることは小岩剣にとって、許せない事だ。しかし、坂口拓洋の痛い指摘や三条神流のBRZの映像を見せ付けられ、「下手くそ」呼ばわりされた三条神流のBRZに小岩剣の大本命である加賀美のN-ONEが手も足も出ない様を解説されれば、もう言い返すことはできなかった。
拓洋は「どうしてもと言うのなら、軽スポーツカーに乗り換えるのをおすすめするよ。」と言った。




