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ココロノツバサ - distant moon  作者: Kanra
第二章 月明かりに照らされて
19/78

17 秩父・ホワイトレーシングプロジェクト

「まさか、そのN‐ONEをチューニングして欲しい。とか吐かすんじゃぁねえよなぁ?」

と、自分と同い年くらいに見えるが、気が強くてキツイ感じの女が言う。

ここは埼玉県。

武甲山から産出される石灰石で栄え、宝登山神社、三峰神社、秩父神社の宮前町でもある埼玉県秩父市。

群馬の倉賀野を出て、神流川を渡って、間瀬峠を越えて、埼玉県秩父市にやって来た小岩剣。

三人姉妹の仲間になった時、赤城山にいたNSXとS2000。

その2台が付けていたエンブレムに描かれていた場所。

埼玉県秩父市の「ホワイトレーシングプロジェクト」に行ってみる事、そして、そこで、三人姉妹や群馬の車仲間に追いつくための方法を相談する事が、小岩剣がやりたい事だった。

三姉妹の不在の間に、小岩剣は三姉妹に追い付ける方法を見出して、驚かせたいと思ったのだ。

だが、そこは、スポーツカーやチューニングカーをメインに扱うチューニングショップだったのだ。

「N‐ONEオーナーズカップにでも出るつもりぃ?あんた、ライセンスはあるの?」

「えっ?ええ。」

と、小岩剣は自分の運転免許証を見せるが、

「アホかお前?」

と言われる。

「JAFのモータースポーツライセンスよ!」

「えっ、えっと―。」

「あんた、まさかと思うがそれも無いの?」

「―。」

溜め息を吐く女。名前は坂口知恵と言うらしい。

「ねえ。改めて聞くけど、ウチになんの用?」

「―。速くなりたいのです。」

「あのさ、アタシの話聞いてた?ウチは見ての通り、リーガルなチューニングショップよ。そりゃ、ご近所の商店街の商業車や地元のタクシーも入ってくるけど、基本的には、スポーツカーやチューニングカーを相手にしている。それも、モータースポーツで走る人が中心で、ストリート系はそんなにやっていない。まして、そんなチンケな車でストリートチューニングなんて、ロクなこと無い。バカやって、周りに迷惑ばかりかけるだけ。そんな奴に対して、仕事はしない。ウチのメンツだってある。」

知恵は、オイル交換を終えたNISSANフェアレディZをピットから駐車場に移動させる。

そして、

「ねぇ。あんた、ウチに何しに来たの?」

と、小岩剣に聞く。

「速くなりたいのです!」

「ちっ。だぁーかぁーらぁー!」

「追い付きたいけど、追い付けない人が居るのです!」

と、小岩剣が言った時、

「ふーん。おもしろい事言うねぇ。」

と、別な女が言う。

彼女は明らかに、自分や知恵よりも年上のようだった。

「ちょっと真穂姉ちゃん。」

「いいから。車はそのN‐ONE?それで、JAFのレーシングライセンスもなし。で、追い付きたいけど追い付けない人がいるので、自分も速くなって、追い付きたい。なるほどねぇ。知恵。誰かに似ていない?」

「えっ―?」

知恵は少し考えたが、「あぁっ」と言う。

「ちなみに、相手の人は?」

真穂が聞く。

「えっと、今日、草津温泉でレース?してます。後、その他にも、走り屋?というか、車好きの同好会みたいな人達も居ます。」

「要するに、その人達の中で、一番のビリっけつ。」

「うっ―。」

小岩剣は黙り込む。

これでは、自分は最下位なので、なんとかして這い上がりたいだけだと思われてしまうと思ったからだ。確かに、間違いではないが。

「まぁ、せっかく来たのだから、何か情報でもって分けにもなぁ。」

真穂は少し考え、

「知恵。後で連絡して。拓洋と愛衣に。こんなのが来たって。」

と、知恵に言う。

「知恵も言ったけど、アホに仕事はしない。でも、何かをしたい君の気持ちは分かった。だから、この日あたりに改めて来てくれれば、良いアドバイスをしてくれる人がいるかもしれない。ウチの連絡先、教えるから、今度来る時は、連絡してから来てね。」

と、真穂は連絡先を渡す。

「それから、もうすぐかなぁ?」

真穂は時計を見る。

「始まるよ。もう。」

知恵が言った。

「あっなら、時間ある?」

「ええまぁ、夕方までに群馬へ帰れば良いので。」

「なら、これ見られるだけ見て行きな。草津温泉のレースよ。私達のチームも出ているから。」

真穂は言いながら、店舗内の特設スペースに案内する。

テレビと椅子が用意されていて、テレビでは、まもなく草津温泉で開催されるJAF公道レースの様子が流れていた。

小岩剣も席に着く。

「続いて、プロBの選手紹介です。まずは―。」

どうやら、選手紹介が行われているようだった。

「カーナンバー703。秩父ホワイトレーシングプロジェクト坂口愛衣S2000GT1!」

と、紹介された瞬間、特設スペースで見ていた人が拍手。

「続いて、カーナンバー215。秩父ホワイトレーシングプロジェクト坂口拓洋S660!」

こちらも拍手だ。

「カーナンバー88。赤城ディスタント・ムーン東郷日奈子ロータス・エリーゼ!」

「カーナンバー89。赤城ディスタント・ムーン東郷恵令奈ロータス・エキシージ!」

「カーナンバー90。赤城ディスタント・ムーン東郷玲愛ロータス・エミーラ!」

小岩剣は驚いた。

なんと、三人姉妹がテレビの向こうで、これからレースに挑もうとしているのだ。

選手紹介が終わってまもなく、スタートだった。

三人姉妹のロータスは前半、あまり写らず、写るのは先頭とクラッシュしている場面が多い。

だが中盤を過ぎたあたりだった。

「ホワイトレーシングプロジェクトの坂口拓洋が、ロータスの三人姉妹に捉えられている!」

と伝えられてから、この坂口拓洋と三人姉妹のバトルに注目が集まり始めた。

ここで見ている人の多くは、秩父のチームであるホワイトレーシングプロジェクトを応援していたが、小岩剣だけは、密かに、三人姉妹を応援する。

だが、日奈子が最後の最後でパンクして戦線を離脱。

「表彰台独占は消えてしまったが、3位争いは残っている!坂口拓洋か東郷玲愛か!?拓洋か玲愛か!?」

手に汗握る展開になった。

そして、最終コーナー。

「拓洋だぁ!拓洋が最後の最後に逆転勝利!!」

その瞬間、「わっ!」と、特設スペースが沸き立った。

だが、小岩剣はそそくさと、そこを抜け出て、群馬への帰路に着く。

三人姉妹が今日、帰ってくるので、それまでにログハウスに行こうと思ったからだ。

N‐ONEで出発するとき、真穂が見送りに出てきたので、

「また後日、連絡させていただきます。」

と言った。

「一つだけ教えてあげる。最後逆転したS660は軽自動車。軽でも、車や、やり方によっては、大革命を起こせる。でも、N‐ONEでS660と同じことは不可能に近い。私としてはS660か、せめてGRコペンに乗り換える事を、お薦めするね。」

と、真穂は言った。

帰り際、間瀬峠を攻めてみる。前には、ランエボ。

しかし、ランエボとN‐ONEでは月と鼈。

ランエボと同じ4WD仕様ではあっても、全然違う。追い付けない。

間瀬峠を抜ける。

自分のN‐ONEでは、どうやってもスポーツカーに勝てない。

(S660やGRコペンって車に乗り換えないといけないのか―。)

と、小岩剣は溜め息を吐く。

途中、ベイシアで夕食を買い、ログハウスに着き、恵令奈から借りたキーで門を開け、駐車スペースに車を止めると汚れていた。

なので、食品を冷蔵庫に押し込んでしまい、洗車しようと考えた。

(そういえば、今頃だけど。)

からっ風街道まで歩いて出る。

(N‐ONEで県外、群馬を出たのは初めてだったな。実家に顔を出した時は電車だったしなぁ。今日、得た物は多くないけど、でも、何か手掛かりは掴めそうだ。)

と、小岩剣はからっ風街道から見える関東平野を見ながら思う。

ログハウスに戻って洗車を始める。

洗車用品も自由に使っていいと言われていたので、その通り、洗剤やスポンジを借用して洗車していると、ロータスが帰ってきた。 


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