16 加賀美の本音
N-ONEの先輩である、加賀美咲と走る小岩剣。三姉妹は今居ない。
だが、加賀美が相手ではマンネリ化が進行していた。
更に、両毛連合を中心に一部からは、小岩剣が加賀美と三姉妹に二股をかけていると思われていた。
そのため、加賀美からも徐々に距離を置かれるようになっていた。
そして、一部区間は三条神流との重連運転ながら、加賀美の持つN-ONEの赤城サンダーボルトラインのコースレコードを小岩剣が塗り替えた事で、加賀美も我慢の限界を迎えたらしい。
「ちょっと距離置いて欲しい。」
と、言われてしまった。
「私としてはね、つるぎ君と走るのは楽しい。けど、つるぎ君、三姉妹にも尻尾振ってさ。しかも、サンボルで私のコースレコード塗り替えといて、自分は遅いって、私の事バカにしてる?悪いけどそんな事するなら、距離置きたくなる。」
「加賀美さんー。いや、そう、ですよね。」
小岩剣、涙を堪える。
だが、今回は小岩剣に非がある。
故意ではないが、二股のような事をしたのは、小岩剣だからだ。更に、自分の気持ちも曖昧で、加賀美に尻尾を振って、かと思えば三姉妹に尻尾を振る。おまけに無自覚ながらも、加賀美の持つ物を壊してしまった。そんな事をしていたら、相手はいい気分では無い。
(ああ。恐れていた事が起きてしまった。)
と、肩を落とす小岩剣。
「加賀美さん。あのー。」
「私が来るとこに来るなとは言わない。ただ、自分の気持ちを曖昧にして、あっちへフラフラこっちへフラフラしているのはダメだよ。」
「はい。加賀美さん。俺、明後日、秩父に行きます。それで、更に早くなる方法見つけて、加賀美さんのみならず、群馬の皆さんと対等に走れるテクニックを身につけて来ます。」
「N-ONEでは無理よ。」
切り捨てる加賀美。
「N-ONEは楽しい止まり。好きだけど。」
加賀美は言うと、小岩剣を置いて行った。
小岩剣、涙を流した。
「見ず知らずの年上の女の子に抱かれる淫乱野郎」と言う烙印が、小岩剣の中で痛む。
だが、加賀美の言う通りだ。
次の日も、淡々と仕事をしている。
昼過ぎ、昼飯を食べている時に、玲愛から連絡があった。
「ワンコ君!仕事、頑張っている?私もレース頑張っているよ!何をやりたいのか解らないけど、やりたいことも、頑張れ!」
と、写真付きのLINEだった。
写真は、玲愛のロータスと玲愛のツーショット写真。
玲愛は、胸にぬいぐるみを抱いている。
次いで、恵令奈から、
「このぬいぐるみ、HONDAのASIMOってロボットのぬいぐるみ。玲愛とおそろいで、ワンコ君にも買ったよ!ちなみに玲愛は、ワンコ君の代わりって言っている。」
と、ASIMOのぬいぐるみを持つ恵令奈の写真。
「敵を撃つのみ!一刀両断よ!」
日奈子と来たら、自分の自堕落な格好で破天荒なポーズを取る写真を送ってきた。
「日奈子さん、相変わらずだなぁ。」
と、小岩剣は溜め息を付きながらも笑ってしまった。
なぜなら、その写真に、苦笑いを浮かべる恵令奈と、無理にでも写り込もうとする玲愛の姿を見つけてしまったからだ。
昼の休憩の後も、淡々と仕事をし、夜の仮眠時間。
今度は、玲愛だけから連絡。
「今日は予選だったんだ!疲れちゃったぁー。おやすみ!」
と、三人姉妹とチームメイトと思われる人達との集合写真、三人姉妹の写真。そして、3台のロータスの写真が送られてきた。
夜も遅いが、一応、
「お疲れ様でした。また明日も頑張ってください。」
とだけ、返信した。
そして、仮眠を終えて残りの仕事を終えると、今日から公休。
なので、小岩剣は三人姉妹に言った「やりたいこと」をやることにしていた。
(やりたいことって言うか、相談しに行きたいって言ったほうがいいのかなぁ。)
と、小岩剣は思う。
そこへ、玲愛から連絡。
「今日はいよいよ、レースだよぉ!ワンコ君、応援please!」
「頑張ってください!」
小岩剣は不器用なりに、自撮りをしてみるが、見事に失敗した。
そして、N‐ONEのエンジンをかけて、出発した。




