12 倉賀野貨物ターミナルと女子高生
次の勤務を終えた明けの日もまた、AK50にやって来てしまった。
今日は、三条神流と松田彩香と一緒に草木ドライブインまで走った後、赤城山を走って二人と別れて、AK50でコーヒーを一杯だけ飲んで帰る。
日奈子は、メルセデス・ベンツ・Eクラスの点検作業中だった。
チューニングショップや、カートコースの方は人の入りが多いのだが、カフェの方はその辺の爺さん婆さんがやって来る程度で、小岩剣が入店した時には、閑古鳥が泣いていた。
なので、小岩剣のN‐ONEがやって来て、店内に小岩剣が入店すると、玲愛は目の色を変えて寄ってきて、向かい合って座っても文句は言われなかった。
小岩剣は無理矢理、大人だとアピールしようと、苦手なコーヒーをブラックのまま飲むが、苦くて結局、砂糖を入れる様子を「かわいい」と言われながら見られてしまった。
翌日も仕事なので、コーヒーを飲み終えるとすぐに出発する。
「あっ次はいつ来る?」
と、出発間際に玲愛が聞く。
「次の休みは明後日と明明後日かと。」
「なら、明後日は夕方に家へ来て。それで、泊まって行ける?」
「別にいいですよ。どうせ―。」
「どうせ家にいても一人だから」と言おうとしたが、それを飲み込んだ。「余計なことだ」と思ったからだ。
翌日も隔日勤務の仕事をする。
客車列車や貨物列車のように機関車が牽引する列車は、その日の状況に応じて、列車の編成や重さが変化する物で、例え僅かな区間であっても、同じような状況で運転することはほとんどない。
福岡からの貨物列車が到着する。
今日は空のコンテナ車は無く、全ての車両にコンテナが少なくとも3つ以上積載されている。
入換を淡々と進めていく。
コンテナ車と言っても一括りに全て同じではない。
特に、コキ200とコキ100系はその違いが分かりやすい。
コキ100系は12フィート級の一般的なコンテナと、20フィート級の中型コンテナ、ISO規格の大型コンテナを積載可能な形式が混在しているが、車両間隔はほとんど同じだ。しかし、コキ200はコキ100系より一回り小さい車体で、12フィート級の一般的なコンテナは積載不能。
基本的には、誘導員が指示してくれるので、その通りに列車を動かせばいいのだが、それでも気を抜いたら事故が起きる。
例え貨物列車でも、乗っているのは人々の生活に必要な物だ。
事故を起こせば、その必要な物がちゃんと届かず、人々の生活に多大な影響が出るだろう。
夕方頃、倉賀野貨物ターミナルを突っ切る公道を、女子高生達が多数渡っていく。
近くの倉賀野高校の生徒だ。
かつては女子高だったのだが、数年前に共学となった。小岩剣とかつて行動した連合艦隊の男子のメンバーが、日教組の陰謀で、無理矢理、倉賀野高校に放り込まれたためだ。だが、そのメンバーは、散々、性的暴行を加えられた挙句、最後は、草木ダムから飛び降りて死んだと言う。
悲劇の第三艦隊。通称「キリシマ」と言われて居る。
そして、キリシマの後釜として、連合艦隊は第四艦隊を編成し、当時一匹狼で活動していた三条神流を叩き上げの指揮官としたのだ。また、キリシマの代わりに倉賀野高校へ放り込まれたのもまた、新潟から転校して来た転校生で、三条神流を慕って連合艦隊に入ろうとしていた男だった。その男が一人で住んでいた場所が、今、小岩剣が住んでいるアパートなのだ。
だが、その男もまた、結局はいじめられて、鉄道自殺した。
北関東で最大勢力を誇る鉄道マニアの大部隊であった群馬帝国帝都防衛連合艦隊からはそれ以降、倉賀野高校に男が放り込まれる事はなくなったが、特に、三条神流は自分を慕っていた者を殺したとして、未だに倉賀野高校の女子高生に恨みを持っているようだった。
三条神流が部下達に厳しく当たるのは、自分の大事な部下を第三者に殺されたくないと言う思いからで、それを小岩剣はまともに受けているのだ。
夜間の作業が少なくなる時間に、仮眠休憩。
小岩剣は「ふう」っと、一息ついて、自宅のアパートで仮眠休憩。
「やっ!」
と、事務所前の公道で声をかけたのはなんと、玲愛だった。
「えっなんで―。」
「仕事、今終わったの?」
「違います。一旦仮眠です。」
自宅アパートにまで着いてくる。
と、言うより、来客用の駐車場にロータスを入れていた。
(ああそうか。あのとき、連絡先やら住んでる場所やら、べらべらしゃべっちまったんだよな。バカやったなぁ。)
溜め息を付きながら、アパートに戻る。
一応、作業の合間にカップ麺で夕食は食べているので、仮眠するだけなのだが、1人用ベッドに、ニトリの布団三点セットで寝ているため、玲愛の分の布団がない。
なので、玲愛は小岩剣の布団に潜り込む。一応、昨日の出かけている間に布団は干したのだが、小岩剣はいい気分ではない。これでは同衾しろと言われているような物だ。
一応、シャワーだけは浴びたが、自分は座布団に頭を置いて寝た。
(なんでこうなる。)
と、思いながら。
翌朝、再び勤務に向かう。
玲愛は朝食用にと、コンビニでうどんを買ってきてくれていた。
自分の職場に出勤する時間に間に合わず、小岩剣はHD300の車内から、自分の職場へ向かうロータス・エキシージを見送った。
(厄介者に絡まれているような気がする。)
と思う小岩剣の運転するHD300は、登校する倉賀野高校の女子高生達の前を、タンク車を引き連れて通り過ぎた。




