第2話 サイコキネシス使えるけど質問ある?
俺は今、黒い車の中にいる。
窓の外では茜色に染まる空の色、目まぐるしく景色が変わっていく。
ボンヤリとそんな外を眺めていたところ
「生嶋千景くん。君がなぜここにいるかわかるかい?」
澄んだその声は俺の目の前から聞こえる。
黒く長い艶のある髪を左耳にかけ、タバコをくわえた、切れ長の目をした女性が長い足を組んでコチラを見る。
「あ、はい。たぶん。」
気の抜けたそんな言葉を紡ぐと、女性はふうっと白い煙を出して灰皿にトントンと灰を落とす。
俺の名前は生嶋千景。中学2年生だ。
「よろしい。君は先程、教室で昼休みに超能力を使ったね? 友達を怪我から救うために」
「はい。とっさでした。」
拳を膝の上でギュッと握る。
ぷいきゅあ達はいつも自分の正体を隠していた。
しかし、同じ仲間やぷいきゅあ、協力者達にバレてからお話が進展し、物語が加速する。
だが、現実はどうだ。
何がどうあれ、時間の進み方は一定だ。
学校の先生に怒られるよりも時間の進みが遅い。
なぜならこの状況は、明らかなら拉致なのだから。
心臓がバクバクと音を立てて早鐘のように鼓動する。
昼休みの時間が終わったあのすぐ15分くらいで、黒い車が学校の校庭に入り、そして放送で何者かに職員室に呼び出されたかと思えば、車に乗るように促されてこの状態だ。
展開が早すぎて頭がついていかない。
「ふむ。君はいつ頃からその能力を自覚しているのかな?」
グリッとタバコを灰皿に押し付け、両手を組んでこちらを覗き見る女性。
俺をこの車に乗せた張本人。
「ええっと、それって答えないといけない奴ですか? 名前も知らない組織の、名前も知らない人に。」
不信感というのは拭えない。
たしかにサイコキネシスを使った怪しい人物である俺を確保するのはまあわかる。
でも、俺を確保する組織が何者なのか。
それがいまいちわからないのだ。
「ふむ。それもそうだね。」
こもったタバコの匂いを出すように、女性は車の窓を少しだけ開けると、重苦しい空気とともに少しだけ握った拳からの力も抜ける。
ふっと息を吐いて彼女は胸ポケットの名刺入れから一枚の名刺をさし出す。
「私の名前は白鳥。白鳥沙彩だ。海上都市アクアエデンの異能保安局の研究職員だ。」
「あくあえでんのいのうほあんきょく」
「その通り。」
何を言っているのかよくわからない。
しかし受け取った名刺にはアクアエデン第五中央研究区画異能保安局所属 白鳥沙彩と書かれている。
「アクアエデンって、あれですよね。最近建設した人工島で、カジノとか運営してる新しい観光施設の」
「うん。その認識で間違い無いよ。」
アクアエデン。人工島。海上資源の発掘を目的とした、太平洋に浮かぶ政府の施設で、その人工島の上にはすでに生活基盤が整えられていて既に移住を行なっている人もいるとか。
さらにその人工島では観光を目的とした施設やアミューズメントパークなどもあり、今話題の観光スポット。
さらには9つの区画に分けられたその巨大な島にはいくつもの学校が建てられ、一種の学園都市のようになっているとか。
その学生に選ばれる人間がどのような基準で選ばれているのかは皆目検討もつかない。
しかし、この状況でわからないほどアホでは無い。
たぶん、超能力者を見つけたらそこに送り込むことになっているんだろう。
俺はふぅっと息を吐いて呼吸を整える。
「僕の能力を自覚したのは小学生の時。意識的に使うようになったのは中学生に上がってから」
「よろしい。君の能力について、教えてもらえるかな?」
この人がどこまで信用できる人間なのかわからない。
だけど、きっと、ぷいきゅあはごまかさない
「サイコキネシス使えるけど、質問ある?」
俺は唾を飲み込んだ。
「ほう。状況を聞いていたから間違いないとは思っていたが、やはりサイコキネシスか。いわゆる念動力。テレキネシスってところかな?」
「えっと、サイコキネシスとテレキネシスの違いがよくわかりません」
「ふむ・・・君は中学生だったね。わからなくてもしかたない。サイコは精神。サイコパスなんて聞いたことあるだろう? テレは離れたものを指す言葉。キネシスは動き。テレワークってのはだいぶ前に流行った言葉だね」
「なるほど。つまりテレキネシスは離れたものを動かす力。サイコキネシスは精神で動かす力・・・」
「ま、違いなんてあってないようなもんさ。これから君が向かう事になる海上都市にも、サイコキネシストはたくさんいる。あそこは、超能力を研究するための施設なんだ。ちなみに、君に拒否権はないし、君のご家族も一緒にアクアエデンへとご招待することになる。」
「は、はぁ・・・」
なにがなんだかわからないまま気の抜けた返事をしてしまう
「あとは、そうだね。君のサイコキネシスを目撃したクラスメイトや担任の先生には記憶処理をしてもらい、君が超能力を使った事実は無かったことになった。」
「…そんなこともできるんですね」
「まあね。超常現象が発生したら我々に即座に通報するようたくさんの教職員に教育実習の段階で催眠をかけてある。こちらの調査で発見しきれない能力者も多いからな。君のような、天然の超能力者などを確保するために。」
天然…。ということは養殖の超能力者も居るということなのだろうか。
「こんな拉致するような真似をして悪かったね。ここ数年で超能力者の数が増えているため、なるべくことを荒立たせないためにも秘密裏に研究と勧誘、誘致を進めているのだよ。」
「はぁ…」
なんて気の抜けたため息は何度目だろう
「ま、気楽にな。君よりも先輩サイキッカー達がそこそこ自由に暮らしている。補助金も出すし超能力者を島に隔離している以外のことは案外自由だ。君の自由を奪っておいて閉鎖空間に閉じ込めて言うことじゃないけどね。」
トントンとタバコを一本取り出し、ライターで火をつける白鳥さん。
「まあ、わかりました。友達と連絡は取れますか?」
「ああ。検閲する手紙のみだけどね。海上都市に呼んでくれてもいいよ。お金を落としてくれる観光客は大歓迎だ。」
こうして、海上都市、アクアエデンへの移住が決定してしまったのであった。
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次回【海上都市に来たけど質問ある?】




