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4 こき使う家令

 夫との衝撃の会話の翌日から私の日常が変わった。


 ジョンソン公爵夫人として、それなりに社交はしていたが(その際に、生家での私の扱いを言い触らして生家を窮地に追い込んでいたのだ。……ノアに言わせれば、その程度でスミス伯爵家は潰れないと断言されたが)それがなくなった。フェリクス様は、いい加減もう私と仮初でも仲のいい夫婦を演じたくないからだろうか。


 領地経営は社交がなくなっても変わらずしているが……以前より自由がなくなった。夫が本音を話す前はまだ休憩のためのお茶の時間があったが、それが一切なくなった。食事と入浴と睡眠とトイレ、人としての、いや生物としての健康と生命を維持するための時間以外を領地経営のために働かされているのだ。


 それでは、生家といた頃と変わらない。いや、生家にいた頃は学園に通っていて、その間は家の仕事から解放されていたから、今よりずっとマシだった。


 だから、ノアの忠告を忘れて家令アダム・ブラウンに文句を言った。


「どういうつもりよ⁉ 主家の女主(公爵夫人)である私をこんな馬車馬のように働かせるなど正気なの⁉」


 アダムが何の躊躇もなく主家の女主(公爵夫人)である私をこき使っているのは、主家の当主(公爵)である夫の指示だと分かっている。でなければ、仮にも女主(公爵夫人)である私に、こんな無茶ぶりはできない。


 だから、本当はジョンソン公爵家の当主である夫にこそ文句を言いたかったのだが、彼は私に本音を告げて以来私の前に姿を現さないし、私から本館にいる夫に会いに行こうにも使用人達に阻止されて叶わなかった。


 アダムに文句を言うのは間違っているだろうが、彼を通して夫に私の抗議が伝わればいいと思ったのだ。


 けれど――。


「社交もできず、休む間もなく仕事をさせても、この程度の成果しか上げられないくせに、文句だけは一人前だな」


 兄弟だけあってノアと同じ黒髪黒目、酷似した端正な顔に、はっきりと呆れと軽蔑を浮かべて、アダム・ブラウンは言い放った。


「は?」


 アダムの言葉と反応は想定外だったので、私は思わず間抜けな声を上げてしまった。


 てっきり当主()の命令で私に無茶ぶりをさせた事を申し訳なく思っているのだろうと思っていたのに。


 だが、そうではなかった。


「こういう事が本当に不得手だった『彼女』とは違い、実家で領地経営をしていたというから多少は使えると思っていたのに、これでは弟が見限るのも納得だ」


 アダムが言っている「彼女」が誰で、私を誰と比べているのか、追求する気はなかった。そんな事は、どうでもいい。この時の私は、現状を改善する事だけに頭がいっぱいだったのだ。


 アダムは私に対して以前は敬語だったのに今は違う。それは、当主である夫の態度に(なら)っているというより、自分自身が私を敬意を払うに値しないと評価を下したから、そうしているように思えた。


「社交はできず能力不足でも、()()()と違って、最低限の責務は果たしているから多少は見直していたのに、これでは私も見限りたくなるな」


「社交はしていたわ。旦那様が私にやらせなくなっただけで」


「何をしていた? ただ実家の悪口を言っていただけでジョンソン公爵家の益になる事は何一つしてなかっただろう」


「……そんな事」


 ないとは言えなかった。アダムの言う通りだからだ。社交をしていたのは、婚家のためではなく私を虐げていた実家を潰すためだったのだから。


 黙り込んだ私に、アダムは、ただ呆れた視線を向けてくるだけだった。





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