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1 家出、そして、結婚

 物語であれば、めでたしめでたしで終われる。


 けれど、ここは現実だ。


 ざまぁした後も人生は続いていく。


 ざまぁされた後、幸福になる事もできるし、ざまぁした後、幸福になるとは限らないのだ。


 死ぬまで物語(人生)は終わらない――。





 エヴァことエヴァンジェリン・スミス伯爵令嬢からエヴァンジェリン・ジョンソン公爵夫人となった私の不幸は家族に恵まれない事だった。


 貴族の令嬢として生まれ、美しさや聡明さなど人が羨むほとんどを手にしている私だが、家族には恵まれなかった。


 私の容姿は、お祖母様に似ているらしい。女性にしては長身で、すらりとした肢体。整っているが、きつい顔立ちと長く真っ直ぐな銀髪と宝石のようなアイスブルーの瞳が、より冷たさと厳格さを醸し出していると言われている。


 その私とは真逆で、妹のマリアことマリアジェーンは、母に似た可憐な美少女だ。真っ直ぐな髪質こそ私と同じだが腰まであるストロベリーブロンドに翡翠色の瞳、小柄で華奢ながらグラマラスな肢体の持ち主だ。


 両親は、姉娘(わたし)が厳しかった姑や母親に似ていて、妹娘(マリア)が自分や愛する妻に似ているというくだらない理由で、私を虐げマリアだけを可愛がっていた。


 両親の妹への愛は愛玩動物に向けるものと同じに見えた。そんな愛ならば()らない。だから、愛されなくても構わなかった。


 決して、自分だけが愛されない事への負け惜しみなどではない。本当に愚鈍な両親からの愛など要らなかったのだ。


 そう、両親は愚鈍だ。娘達を平等に愛せなかっただけではない。姉の物ならば何でも欲しがる(マリア)を諫めもせず「姉なのだから妹に譲れ」と強要してきたクズ達なのだから。


 (わたし)の物なら何でもよく見えるのか、マリアは私の物を欲しがった。


 ドレス、アクセサリー、果ては婚約者まで――。


 まあ、婚約者に関しては奪ってくれて感謝している。


 婚約者、チャールズ・ウィリアムズ侯爵令息は、全く私の好みではなかったからだ。


 平民の中では整っているのだろうが、美形が多い貴族の中では、さして目立たない平凡な容姿で、学年毎に張り出されるテスト順位においても常に学年で十位前後に入る私よりもずっと下、真ん中あたりだ。


 ()()()の婚約者として、全くもって相応しくないと本気で思っていた。


 美しさと聡明さを兼ね備えた夫となったフェリクス・ジョンソン公爵こそ、まさに、この私の隣に並ぶに相応しい理想の男性だった。


 妹が婚約者を奪った事については何とも思わなかった。


 けれど、両親がスミス伯爵家の当主を妹に替えればいいと言い放った時には、怒りで、どうにかなりそうだった。


 婚約者はウィリアムズ侯爵家の次男だ。彼が次期スミス伯爵の婿となる事は家同士の契約で決められていたから、そう言ったのだろうが。


 貴族であれば大半は幼い頃に婚約は決められている。もう良縁は望めないだろうと、伯爵家当主として教育されていた事を無駄にしないためにも、妹の補佐をしろと両親は私に言い放ったのだ。


 両親であるスミス伯爵夫妻の子供は、私とマリアの姉妹だけ。第一子である(わたし)がスミス伯爵家を継ぐはずだった。


 だから、幼い頃から「次期伯爵になるのだから」と厳しい教育を課せられてきた。「休みたい」と言っても「我儘を言うな」と一蹴され、スミス伯爵家の領地経営をさせられてきた。そんな私への接し方とは違い両親は妹には何も強要せず甘やかし続けてきた。


 今になって妹を当主にする。さらには、その補佐をしろと言われ、ついに私の心も折れたのだ。


 そんな頃、元々好意を寄せていたフェリクス・ジョンソン公爵に求婚されたのは、実に都合のいいタイミングだった。


「君ほど公爵夫人に相応しい才覚を持つ令嬢はいない。どうか私と結婚してジョンソン公爵家を支えてほしい」

 

 だから、学園を卒業したその日、心おきなく家出してジョンソン公爵家に向かった。


 私の家庭の事情を聞いて同情してくれていたフェリクス様は、家出してきた私に何も言わず、そのまま結婚してくれたのだ。


 だから、フェリクス様も自分と同じ気持ちなのだと私は思い込んでいた。






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