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その勇者どこで拾ったの、返してきなさい。2

「はぁ、なるほどなァ」


 カップを手に取りながら、どこか呆れたようにそう言って、涼子さんは苦笑した。

 涼子さんが正気に戻ってから、カリーナに涼子さんを紹介したり、カリーナがうちで暮らしている経緯を話したりなどして、何だかんだ一時間程度。つまり、涼子さんは非現実的な内容の話をそれぐらいの時間で、理解してしまったのである。

 頭の回転が良いというか、なんと言うか……


「おい、坊や。あまり失礼なこと考えてッと泣かすぞ」

「失礼なことなんて考えてねぇよ」


 ただ、子供の頃の夢ってのは色褪せないんだろうな、とそう思っていただけだ。

 思い出すのは、俺がまだ彼女が熊長組の組長の娘だとか知らず、彼女自身も引っ込み思案だった頃のこと。


 当時、祖母の家に遊びに来ていた俺が、彼女のことを引っ張り回していた。

その程度の話だが、今でも鮮明に思い出せるのは俺にとってそれが良い思い出だからなのだろう。


 久しぶりに彼女に会った時は、その豹変ぶりに驚いたものである。


「ったく、面倒なことに首突っ込みやがって…… 」


 昔を懐かしんでいる俺に、そう言って睨みを利かせる涼子さん。

 それに、俺は首を振った。


「首突っ込んだんじゃなくて、巻き込まれた、な」

「どうだかな。昔から、好奇心だけは旺盛だったじゃねェか?案外、その調査ってのも、楽しんでたりなァ?」

「好奇心だけで、人に関わるほど俺は人が好きじゃあねえよ。あと、必要がないなら家か

ら何て出たくないっつの」

「…… 本当に変わっちまったんだな、お前」

「お互い様だろ」


 十年も経てば、人は変わる。

 小学生やそれぐらいの頃の人格をそのままに、人生を終える人間なんてそうそういないだろう。

 だからこそ今の俺はダメな大学生で、彼女はヤクザの組長だ。


「まあいい。聞ける話は聞いた。これから、うちの組はお前たちには干渉しねェ。で、い

いか?」

「ああ…… んで、出来れば情報も欲しい」

「我儘だな、おい。まァ、いいけどよ」


 仕方ねェな、と言って苦笑して見せる涼子さん。

 この表情だけ見ると、ヤクザの組長だとは思えないんだよな。なんつーか、普通の人らしい。


「アタシの方で、そっちに関りそうな情報は出来る限り教えてやる」

「あと失踪事件周りの話も頼む」

「あァ?いや、そうだな。荒唐無稽と言えばそうだが、エルフがいるんだったら、そういうこともあり得るか…… 」


 こめかみを押さえてぶつぶつと呟いてから、涼子さんは「よし」と言って、俺を見た。


「わかった、そっちもこっちに入って来たものは教えてやる」

「ああ、ありがとう」

「んじゃ、アタシは帰るが…… カリーナさん、でいいか?」

「ん、あ、ああ…… 」


 今まで黙って話を聞いていたカリーナに、涼子さんが声をかけると、カリーナは驚いたように返事をしつつ、涼子さんの顔を見た。


「そこの馬鹿をよろしく頼む」


 そう言って頭を下げてから、涼子さんは「じゃあな」と言って居間から出て行く。

それを追うようにして、立ち上がり、カリーナと一緒に玄関まで見送ろうとしたのだが、そそくさと出て行ってしまったため、無駄足となってしまった。


「行ってしまったな」


 人の居ない玄関を眺めながら、そんなことをカリーナが呟いた。


「まあ、忙しいやつだし、それに根っこが照れ屋だからな」

少し格好つけたことを言い過ぎて、恥ずかしくなってしまったのだろう。

なんだよ、俺を頼むって。お前は俺の保護者か。

「そういうものか?」

「そういうもんだろ」


 二人でそんなことを言いながら、居間へと戻る途中、カリーナがぼそりと言った。


「彼女はすごいな」

「…… ん?何がだ?」


 思わず聞き返すと、カリーナはどこか気の抜けた声で続ける。


「あれほど若いのに、大きな組織を取りまとめるだろう?それは立派なことだし、若くとも実力で評価される世の中というのは、良いものだ、と思ってな」


 しみじみとしたその言葉に俺は「何言ってんだ」と、少々呆れ気味に返事をする。


「若いやつが組織の長になることはそりゃあるが、未だに世の中、歳だけ食った無能の親父共がふんぞり返ってることの方が多いぞ。はた迷惑な話だけどな」

「…… そういうものか」

「そういうもんだ」


 俺が頷くと、カリーナは少しだけ俯いて、しかし、数瞬後には顔を上げてニカリと快活な笑みを浮かべた。


「しかし、頼まれてしまったからには、私がここに居る間はお前を危ない目に遭わせるわけにはいかなくなってしまったな」

「いや、さっきからだけど、何言ってんのお前」


 というか、情緒どうなってんの?ジェットコースター?

 別にそんなに危ない橋を渡っているわけでもないのに、危ない目もクソもない。


「言っておくが、トンネルで何もわからなかったとはいえ、涼子さんの協力は得られたんだ。お前がここに居られるのも、そう長くはならないだろうよ」

「知っているか? そういうことは、結果が出てから言うものだぞ?」


 こいつ……


「…… 確かにお前の言う通りだな」

「おお、珍しく聞き分けがいいな。そうだ、目上の話はそうしてちゃんと…… 」

「結果を出さなきゃ話は進まねえもんなあ?」

「あ、ああ…… そうだが…… どうした?なんだか、目が怖いぞ、龍二」

「じゃあ、まず結果を出さなきゃならない場所があったよな?」

「え…… ?」


 言った途端に、カリーナの表情が固まる。

 瞬時に俺の言いたいことが理解できる辺り、余程トラウマになっているのだろう。

カリーナが逃げ出そうとする前に、ガシリと腕を掴む。

 そして、


「おい、トイレ行くぞ、クソエルフ」


 その日、一件の日本家屋から若い女性の悲鳴と破砕音が周辺地域に響き渡ったというが、そこに暮らすのは一人の男子大学生だけで、その正体は終ぞわからなかったのだそうな。

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