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トンネルを抜けるとそこは——。4

 冷えた肉まんとあんまんを生贄に捧げて、カリーナの機嫌を取る作戦は、誠に残念なことに失敗した。

 中華まんも食べ終えて、本を片手に、こちらをシラッとした目で見ているニートエルフにイラッとするが、予定よりも帰るのが遅れたのは俺なので、グッと堪える。


 やはり、冷めていたのがダメだったか。


「大体何を考えているか分かるが、違うぞ」


 呆れたようにそう言って、カリーナはパタンと本を閉じる。


「むしろなんで、そこを気にしてると思った……私、そこまで食いしん坊じゃないぞ、むしろそういう扱いに私は不満を持っているわけなんだが……」

「でも、山くじら飯に付箋張ってただろ」

「ジビエの丼ものは普通に気になるだろ……」


 わからなくはない。


「獣臭そうだけどな」

「だよなあ……そう思うよなあ。それがなきゃ食べてみたかったんだけどなあ……」


 そう言って、肩を落とすカリーナ。

 エルフの食文化何ぞ知らないが、勝手に菜食文化だと思っていたが、こいつを見ているとその考えが間違いだったことがよくわかる。


 まあ、自然の中で自然と共に生きるのなら、肉も食うか。アイヌとかこの世界のそういった民族もそうだしな。


 どうりで、でっかいわけである。何がとは言わないが。


「おい、今どこを見た……?」

「胸」

「……殴るぞ?」


 そいつは勘弁願いたい。


「ラーメン食わせてやるから許してくれ」

「だから、私は食い物では釣られないと……」

「チャーシュー丼も頼んでいいぞ」

「よし、行こう。肉が私を待っている」


 やっぱり食い物に釣られてんじゃねえか、この肉食エルフ。

 急いで本を片付け準備――フードを被るだけなので準備もクソもないが――を始めたカリーナに、俺が呆れていると、彼女は思い出したように「そういえば」と切り出す。


「外食なんて、こっちに来た最初の三日間ぶりじゃないか?」

「あー、言われてみればそうだな」


 あの時は、ちょうど徹夜明けで冷蔵庫に何も入ってなかったからなあ。


「外食って、あんま好きじゃねえんだよ」

「ほう? 何故だ?」

「実家じゃ家で飯食うことの方が少なかったからな。いいだろ? なんか、普通っぽくて」

「そういうものか?」


 そういうものなんだよ。


「それに、外食するにも一人じゃ入り難い店もあるし、一緒に飯食うやつもいないしな」

「ああ……友達とか、いなさそうだもんな」

「いないんじゃなくて、作らない、な。他人とのコミュニケーションとか、面倒以外の何物でもない」


 付き合いで飯食うとか考えたくもないしな。飯ぐらいは心落ち着く環境で食いたい。

 そんなことを思っていると、カリーナがニヤニヤとしたいやらしい目付きで、こちらをからかうように言う。


「そう言う割に、私の事は家に置いてくれているようだが?」

「家も服も無い女をそのまま外に追い出すとこまでは落ちてねぇってだけだよ」


 実際、さっさと元の世界に帰って欲しいし。お前がうちに来てから、光熱費の上がり方が半端じゃないんだよ。


「あと、別にただ飯食いに外出るわけでもないぞ」

「ああ、なるほどな」


 一言で察したらしく、カリーナの表情がスンと大人しくなる。


「手掛かりが見つかったってのに、なんだその顔」

「いやあ、別にぃ? 何でもないが?」


 何でもあるだろうが。

 腹立つな、こいつ。


「つーかお前の方はどうなんだ、なんか見つかったのか?」

「ああ……それなら、お前の祖母が残した資料の中に面白いものがあったな」


 残りは店まで歩きながらでいいか、とカリーナが言うので一先ず二人で家を出る。


「じゃあ、話の続きだが」

「ああ」


 街灯の灯った道を並んで歩きながら、カリーナの話に耳を傾ける。


「狭魔山という山に、他界と言う場所に繋がるという伝承が残っているらしい。山の神の目に着いた人間は、心が清らかなものは楽園に、歪んだものは地獄のような場所に、それぞれ送られてしまう。ざっとだが、そんな内容だった」

「……へぇ」


 これまた丁度いい話題だな。


「なんだ、驚かないんだな」

「いや、まあ帰って来るまでに色々とあってな」


 そう言って、俺は涼子さんに聞いた話を聞かせてやる。


「それで、今日、大学の図書館で見つけたんだが、トンネルもどうやら他界に繋がるらしい。狭魔山の伝承とそこにある狭魔トンネルで起きている失踪事件。何か関係ありそうじゃないか?」

「確かに、な。調べてみる価値はありそうだ」

「んじゃ、飯食ったら行くぞ」


 カリーナが頷いたのを見て、一度この話は終わりにする。


 これから飯を食うのだ。その間に、小難しい話なんぞしても、飯が不味くなるだけだろう。


 そしてカリーナは、俺が話を切り上げるや否や、


「それにしても、お前にもそんな忠告をしてくれる友人はいるなら、友達がいなそうと言う発言は撤回しなければな」


 何を思ったのか、そんなことを宣った。


「友人じゃない。腐れ縁だ」

「いや、それは友人だろう?」

「違うッつの」

「何故そこで頑ななんだ、お前は。いいじゃないか、友達」

「良い悪いじゃねえんだよ……いや、どちらかと言うと悪いのか」


 主に、世間的な外聞と言う意味で。


「昔はお前の言う通り友達だったのかもしれない。けどな、今はお前とは別の意味で、あいつも俺とは別の世界で生きてんだよ」

「……なるほど? アイドル? だとか、そういうやつなのか?」

「まあ、そんなところだ」


 そう適当に返してみせると、カリーナは納得したように頷いた。

 もっとも、涼子さんは、アイドルなんて陽の当たる世界の人間などではないんだけどな。


 どんなに人が良かろうが、人々の平和に貢献していようが、抗争を起さなかろうが、結局はヤクザだ。法を犯すことを手段として考える。そういう輩の集まり……無法者の集団であることに変わりはない。


 だが、それを彼女に言うことはない。そこに関しては些末な問題で、別に彼女が知る必要のないことだ。


 気まずそうに「すまん」と言ったカリーナに、気にしていないと伝えて、その後は他愛もない会話をして、ラーメン屋までの道程を歩いた。


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