目的地を目指して
サモ「なぁ、どこへ向かうんだ?」
ロエル「この先を歩いて行けば街につく。そこから列車を何回か乗り継いでケイオラムって村に行くんだ」
サモ「ケイオラムだと…!?」
リドル「ケイオラムってなに?」
サモ「魔族含めた色々な種族が共存する唯一の村で、世界でも有数のスラムだ」
リドル「えぇ…なんでそんなところに行くんだ…?」
ロエル「あそこの村長が魔族らしくてな、リメリアで聞いた噂によれば300年前の魔王軍だっだとか…もしかしたら今の魔王軍の情報を持ってたりしねぇかなって思ってな」
サモ「噂の真偽以前にあの村を統べているなんて碌なやつじゃない。関わらない方がいいんじゃないか?」
ロエル「俺らは今魔王を相手にしてるんだぜ?危険云々は覚悟の上だ」
ロエル「なぁリドル?」
リドル「確かに、それもそうだな…!」
サモ「う〜ん…」
ロエル「おっ、街が見えたぜ」
街へ着いたロエル達は、早速列車へ乗った。列車に乗ってしばらく経つと、景色は青々とした草原から植物がほとんど生えていない荒野へと変わって行った。
リドル「なぁ、この辺りの景色ってなんか変じゃないか?」
ロエル「ん?あぁ、確かにそうだな…」
列車の窓から景色を見ると一見ただの荒野だが、右も左も地平線には緑の山々がそびえている不思議な景観だった。
老人「ここにはのぉ、かつては山に囲まれていた土地だったんじゃが、人類が魔王軍と交戦したことで荒野になったと言われているんじゃ…」
リドル達の隣に座っていた老人が突然話し始めた。
リドル「へ〜…」
老人「乱戦が起こる中、ある魔族の一撃で山々を消し飛ばし、魔族諸共人類を一掃したそうな…」
リドル「まじか…!?」
老人「恐ろしいものじゃのう…今じゃこの土地には草一つ生えん…さて、わしは別の車両へ移動するかの…」
リドル「聞かせてくれてありがとな、爺さん」
ロエル「…誰だあの爺さん?」
リドル「さぁ…?」
そんな会話をしているうちに最初の乗り換え場所へ着いた。
リドル「あぁ〜…長かったぜ〜…」
ロエル「情けねぇな〜、ケイオラムまでまだまだ先…」
男「誰かー!ひったくりだー!」
一同「…!」
ひったくり「ひひっ…!」
警官「おいっ!止まれ…!」
警官「くそっ…!なんて速さだ…!おい!魔法を使うなんて卑怯だぞ!」
ひったくり「へっ!卑怯もクソもあるか!嫌なら取り返してみろってんだ!まっ、お前らじゃ到底追いつけな…」
ひったくりがふと横を見ると、そこにはひったくりと並走するリドルがいた。
ひったくり「えっ…おわっ…!?」
呆気に取られたひったくりはつまづき、ボールのように転がって街灯へ衝突した。
ひったくり「ぐえぇ…!」
リドル「盗まれたのってこれ?」
警官「はぁ…はぁ…あ、あぁ…」
警官「助かるな…こいつはひったくりの常習犯でな…いかんせんすばしっこくて中々捕まえるに至れなかったんだ」
男「はぁ…はぁ…やっと追いついた…!」
リドル「はいこれ」
男「おぉ、ありがとう…!中に大事なものが入ってたんだ…!」
男「そうだ…!なにかお礼を…」
リドル「礼なんてそんな…俺はひったくりが出たから捕まえただけで…」
男「いやいや、言葉だけじゃとても感謝しきれん…!菓子の一つだけでも…」
ロエル「おーい!リドルー!もう次の列車来るぞー!」
リドル「あっ、そろそろ行かなきゃ。もう盗まれんなよ!」
男「あぁ…少年!またどこかで会ったら!お礼をさせてくれー!」
男は去っていくリドルに手を振った。リドル達は駅へ向かい、再び列車へ乗った。
ロエル「やるじゃねぇかリドル。あのひったくり野郎も結構速かったのにな」
リドル「俺も正直びっくりしたぜ…ちょっと走っただけであんなにスピードが出るとは…」
サモ「魔法もなしにあのスピードを出せる人間はそういないぞ」
ロエル「そういえば二十魔将と戦ってる時、ガキの頃しか出来なかったやつも出来るようになったよな」
リドル「あぁ、理由はよくわかんねぇけど…なんかあいつぶっ飛ばしいって思ったらな」
ロエル「意味わかんねぇけど、強なった証拠ではあるな」
リドル「へへっ…」
サモ「…ん?おい…何かこっちへ向かって来てないか?」
ロエル「あ…?」
窓から外を見ると、何かがこちらへ急接近していた。
サモ「伏せろ!!」
サモが叫んだ次の瞬間、リドル達の乗っていた車両がバラバラに切り裂かれた。
リドル「うおぉっ!?」
リドル達は外へ投げ出される。しかし列車は逃げるように走り、リドル達を荒野へ置き去りにしてしまった。
???「ちっ、しくじったな…」
リドル「ってぇ〜…!誰だお前!」
ザヘス「俺は魔王軍のザヘスだ。目的は言わずとも…だよな?」
リドル達を襲ったのは銀色の鎧に身を包み、兜から四方に角を生やした魔族だった。
リドル「…おい」
ザヘス「あ?なんだよ?」
リドル「お前さぁ!もう少し場所考えろよ!こっから次の駅までめちゃくちゃ遠いんだぞ!せめてもうちょっと進んでから襲えよこの野郎!!!」
ザヘス「えっ…なんかごめん…って知るか!どうせお前らここで死ぬだからよ!」
リドル「あんだとぉ…!ならお前の面を兜ごとぶった斬って…!」
ロエル「いや、俺がやる」
リドル「ロエル…!」
ロエル「実はリメリアで二十魔将を倒した後、このままじゃよくねえと思ってちょっと修行しててな…いい感じの成果出たから試したかったんだよ」
ロエル「それにここ最近リドルばかりが活躍してんだから、たまには俺がやらなきゃな」
リドル「よし分かった!思いっきりやってくれ!」
ザヘス「なんだぁ?1人で来るのか?随分自信があるみてぇだなぁ…」
ロエル「まぁな、ありがたいだろ?」
ザヘス「あぁ、こうやって慢心でバカな真似をする奴はすごく助かるぜ」
ロエル「でも俺が勝つんだけどな」
ザヘス「がはっ…!?」
ロエルが鞘から剣を抜いた刹那、ものすごいスピードでザヘスを斬り捨てた。
ロエルは新たな魔法を取得した。
その名も「隼雷」。自身の体へ電気を流すことでまるで雷のように素早く動けるようになる魔法。効果は使用者本来の身体能力と魔法の技術量によって左右される。現在のロエルの場合、最高速度は亜音速に匹敵する。
ザヘス「なん…だと…」
ザヘスは灰となって消えた。
ロエル「おぉ、こりゃあいいぜ…!」
サモ「おぉ…!」
リドル「はえぇ〜…」
ロエル「どうよ!俺の新しい魔法は!」
リドル「すげ〜!さっきのひったくりよりめちゃくちゃ速かったぞ!」
ロエル「あんなやつと比べるじゃねぇ…」
サモ「すごいな…目で追えなかったぞ…!」
サモ「しかし…魔王軍の兵士を倒せたのは良いとして…列車、行ってしまったな…」
リドル「やだー!歩きたくなーい!」
ロエル「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇ馬鹿野郎!」
リドル「ぐほあぁ…!」
リドルは渾身の蹴りをお見舞いされた。
リドル「は…腹が…」
サモ「ロ、ロエル…?」
ロエル「こいつが生意気なこと行った時はない、こうやって喝を入れんだよ…!」
サモ「そう…なのか…」
サモ「おほんっ!…幸い、この辺りならモンスターに気をつけさえすれば、日が沈む前に次の街まで行けそうだな」
ロエル「だとよ、さっさと行くぞ」
リドル「うぅ…どうして…」
ー・・・
ロエル「やっと着いたぜ…」
サモ「本当は正午には着く予定だったんだが、すっかり暗くなってしまったな」
ロエル「しゃあない、今日はここの宿屋で一泊して、明日の朝に出発するか」
ロエル「おい、もう街に着いたんだからしけた面してんじゃねぇよ…」
リドル「おぅ…」
ロエル「ったくよぉ、魔王を倒すと意気込んだ勇者がだらしねぇな…」