熱とは
ロエル「よし…探すか、熱…!」
翌日、ロエルは熱を探しに、リドル達は300年前の魔王について知るべく図書館へと向かった。
巨人族の鍛治師「熱か…いやぁ…そういうのはあんま考えたことねぇなぁ…」
ロエルはティタイルにある別の鍛冶屋を訪れ、熱について聞いていた。
巨人族の鍛治師「名匠のこだわりって奴だろうよ。俺は鍛冶屋のはしくれだから、装備の注文は全部受けるからな」
ロエル「なんかこう…武器への向き合い方とか…」
巨人族の鍛治師「う〜ん…特に…」
巨人族の鍛治師「強いて言うなら…当たり前の話だが、装備を作るなら絶対に手を抜かねぇ」
巨人族の鍛治師「そしてその武器を丹精込めた分、大切に使ってくれたら嬉しいなぁ…」
ロエル「なるほど…」
貴重な意見だ。熱というものは武器を大切に扱ということなのかと、ロエルは考える。
巨人族の鍛治師「あの婆さんには直接聞いたのか?」
ロエル「それがさ…」
ロエル「なぁ、熱って…」
???「自分で考えな」
ロエル「って速攻で追い返された…」
巨人族の鍛治師「やっぱりな…気難しい婆さんだぜ…」
ロエル「教えてくれてありがとな。参考になったぜ」
巨人族の鍛治師「へへっ、熱探し頑張れよ!」
ロエル「さて次は…」
次にロエルがやって来たのはギルドだった。
ロエル(武器を知りたいなら、直接触って考える…!)
受付「おぉ!人間か!珍しいなぁ!」
見上げるほどに巨大な受付が、小さな人間に顔を覗かせる。
ロエル「おっさん、今討伐依頼ってあるか?」
受付「あぁ〜今ある依頼はさっきで全部埋まった…あっ!」
受付「なぁ兄ちゃん!パーティでの討伐依頼なら平気か?」
ロエル「おう、構わないぜ」
受付「おーーい!!サンベ!ちょっと来てみろよ!!」
受付の巨人族が大きな声で名前を呼ぶ、すると1人の巨人が受付までやって来た。巨人族の中でも一際でかく、とてつもない存在感を放っていた。
ロエル(でっか…)
受付「そこの人間と討伐に行って欲しいんだよ。今依頼が埋まってっからな、いいだろ?」
サンベ「ほんとか!?そりゃ助かるべ!!おら、1人だと何も出来ねぇからよ!」
ロエル(その体格で…?)
受付「こいつはよ、体はでけぇくせにビビりなんだよ。1番弱いFランクのモンスターだってまともに狩れねぇのさ」
受付「だから討伐依頼を受けても尻尾巻いて逃げて来てよ、しょんべんピーってしながら」
サンベ「そこまでじゃねぇべよ!」
受付「がははっ!」
受付「まぁこのビビり小僧の討伐の手助けをして欲しいわけよ。見た感じ、兄ちゃん強そうだからな!」
ロエル「まぁ他の依頼が埋まってるならしゃあねぇなぁ…」
受付「よかったなサンベ!この兄ちゃんがいれば初めての討伐なるかもな!」
サンベ「おら、足引っ張らねぇよう頑張るべ…!」
熱を知るためにギルドに来たロエルだが、急遽ビビリの巨人族、サンベとパーティを組んで討伐依頼に臨むのであった。
サンベ「ついてきてくれてありがとうだべ兄ちゃん…!」
ロエル「ロエルでいいぜ」
ロエル(けどFランクもまともに討伐出来たことない奴が受ける討伐依頼って…)
モンスター「グルル…!」
討伐対象が生息する場所へとやって来たロエル達、するとロエル達の前にそのモンスターの群れが現れた。体の大きさはロエルより少し小さく、群れとて大抵の冒険者は苦戦することのない相手だ。
ロエル(まぁFランクのモンスターだよな…)
ロエル(熱を探すならもう少し強いモンスターがよかったぜ…)
ロエルはふとサンベの方を見た、汗をだらだらと流し、脚がめちゃくちゃ震えている。
ロエル「嘘だろ…ビビリとは言ってたけどよ、あれすらも怖いのかよ…!?」
サンベ「無理だ…すごく怖いべ…」
ロエル「サンベから見ればあのモンスターなんて子犬みたいな大きさだろ…!?」
サンベ「ゆ、油断はできねぇ…小さくてもおらより強いモンスターなんてたくさんいるべ…」
ロエル「い、1回戦ってみてくれよ…」
サンベ「た、戦いてぇけど…脚が動かねぇ…!」
巨人族というのはその巨大さながら、普通の人間よりも身体能力が高い。Fランク程度のモンスターなら一般人でも倒せる。
ロエル「そんなビビんなって!相手は武器を扱ってるなら倒せて当然レベルだぜ!?」
サンベ「ぐ…うぅ…!」
しかしサンベは違った。決して他の巨人族と比べて身体能力が低いわけではない、ただ極端なビビりである。Fランクモンスターにもビビる。それ故モンスターはその感情を読み取り、サンベに対しては全く怖気付かないのである。
ロエル「まじかよ…ちょっと見とけよ…」
そう言ってロエルは剣を抜き、群れのうちの1匹を斬り裂いた。
モンスター「ガアァ…!」
ロエル「これだけ!どうってことはないぜ?」
サンベ「お、オラだって…!」
ついに勇気が出たか、サンベもモンスターへと近づき始める。
しかし遅い。10秒間でたった数cmしか距離が縮まっていない、実質近づいてないも同じだ。
ロエル「はぁ…」
呆れたロエルは隼雷でサンベ後ろのに一瞬で回り込む。そして…
ロエル「えいっ」
サンベ「痛えぇぇ!?」
サンベのお尻を剣で少し突いた。パニックになったサンベはモンスターの方へと突進し、そのままモンスターの群れを薙ぎ倒した。
ロエル「やるじゃん…」
サンベ「ひいぃ…怖えぇ…!」
ロエル「おい…おい!ビビってないで良くみろよ!」
サンベ「えっ…?」
うずくまっていたサンベが顔を上げる。周りにはさっきのモンスター達が横たわっていた。
ロエル「全部お前が倒したんだぜ」
サンベ「お、おらが…?」
ロエル「お前にはそんくらいの実力があんだよ。だからビビるこたぁねぇって」
サンベ「で、でも…おらいきなり誰かにお尻つつかれて…」
ロエル「いやいや気のせい気のせい…」
モンスター「キュロロロ!」
サンベ「ひいぃ…!?」
また別のモンスターが現れた。雰囲気から見てさっきよりワンランク上のEランクレベルのモンスターだろう。
ロエル(おっ、今のあいつに丁度いい相手が来たな…)
しかし今回このモンスターは討伐対象ではない。討伐対象外のモンスターは原則手を出すことが禁じられている。
だがそれは原則であり、例外として許容される場合がある。それは「そのモンスターからの逃亡が困難であると判断された場合、モンスターへの攻撃を許可する」というものである。
ロエル(俺は普通に逃げられるし…多分あいつも逃げるだけなら余裕だよな…だったら…)
サンベ「ロ、ロエル…!早く帰るべ!」
ロエル「ぐあ…!」
サンベ「ど、どしただロエル…!?」
ロエル「目がぁ!たまたま触った植物が毒の胞子を撒き散らしやがったぁ!」
サンべ「えぇ!?」
ロエル「クソ…!痛すぎて動けねぇ!このままじゃモンスターに食い殺されちまう…!」
ロエル「サンベ!申し訳ねぇけど、俺の代わりにあのモンスターを倒してくれ!」
サンベ「んなこと言われてもよ…!おらがロエルを担いで逃げれば…」
ロエル「ダメだ!今下手に刺激されると最悪失明…いや死ぬかもしれん!とにかく今俺に触れたら不味いことになる!」
サンベ「けど…オラには…」
ロエル「ぐあああぁぁぁ!!目がああぁぁ!!」
モンスター「キュロロロ!!」
サンベ「ぐっ…!」
サンベ(落ち着くんだべ…!今戦えそうのはオラ1人…でも…!)
サンベの脚がまた震え始める。
モンスター「キュルル…!」
サンベ「ち、近づくんじゃねぇべ…!」
野生のモンスターに言葉が分かるはずもなく、モンスターがじりじりと距離を詰める。
モンスター「キュロロロロ!!」
サンベ「うわぁ!?」
モンスターがサンベへ攻撃を仕掛ける。
サンベ「ひいぃ…!」
モンスター「キュアアァ!」
サンベが攻撃されていることに気づいたロエルは、目をやられた演技をしつつサンベの方を見る。サンベは頭を抱えてうずくまり、モンスターにされるがままだった。
ロエル(おいおい襲われてんのにうずくまっちまうのかよ…!?)
ロエル(逃げられない状況に追い込めば戦ってくれると思ったんだが…やっぱり俺が倒すか…!?)
ロエル「大丈夫かサンベ!目がぁ…!」
サンベ「ロエル…おらもうだめだ…!」
サンベ「目が痛ぇだろうけど…頑張って逃げてくれ…!」
ロエル「え…?」
サンベ「もう…怖くて脚が…」
サンベ「だから…ロエルが頑張って村まで戻って…助け呼んでくれ…」
サンベ「おら、頑丈さだけには…自信あるからよ…」
モンスター「キュロロアァ!」
サンベ「ひいぃ…!」
ロエル「サンベ…」
ロエル「…サンベ!」
ロエル「そのままうずくまってされるがままでいいのか!?ビビりな割にはよ、自分を置いてく勇気はあんじゃねぇか!」
ロエルはサンベの度胸につい熱くなり、目が痛いことを忘れサンベに向かって叫ぶ。
しかしサンベはモンスターに襲われている真っ只中で、ロエルの言葉を聞く余裕はない。
だが、ある言葉だけがサンベの耳に届いた。
ロエル「だったらよ…!その勇気をもっと振り絞ってみろよ!お前の「熱」を見せてみろよ!」
サンベ「熱…?」
サンベ「おらの…熱…」
その言葉を聞いたサンベが、先程までされるがままだったモンスターを押し返した。そして再び武器を構える、先程までの弱腰なサンベの姿は半分消えかかっていた。
サンベ「おらは…ビビリだけど…」
サンベ「おらには熱がある!夢見てることがあるんだ!」
サンベ「婆ちゃんの仕事継いで、世界一の鍛治師しになってやるんだべ!!!」
ロエル「サ、サンベ…!」
サンベ「そのためには武器をよく知るためにビビリを治せ…って婆ちゃんに言われてんだべ!」
モンスター「キュロロアアァ!!」
吹っ飛ばされたモンスターが起き上がり、再びサンベに襲いかかる。
サンベ「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
サンべはその大きな武器をモンスター目掛けて思い切り振り下ろす。先程まで防戦一方だったモンスターを一撃で仕留めた。
サンベ「や…やったべ…!おら、初めて1人でモンスターを倒したべ…!」
ロエル「一撃って…マジか…」
戦えれば勝てると思ってとはいえ、一撃で倒すその力はロエルの予想を超えていた。
サンベ「あっ、ロエル!目はどうなっとるだ…!」
ロエル「あ、あぁ〜…もう平気だ、ちょうど解毒薬持ってたからよ」
サンベ「良かっただ〜…!おらロエルが戦えないっていうもんだからすごく焦ったべ…」
ロエル「すまんな…けど…」
ロエル「やるじゃねぇかお前!そこら辺の奴より全然強ぇぞ!」
サンベ「いやぁ…いきなり熱って言葉が頭に入ってきてよ、おらの婆ちゃんが熱って奴をよく話すんだべ」
ロエル「えっ、もしかして…お前の婆ちゃんって鍛治師か?」
サンベ「おう!しかも腕もすごく良くてな、怖いとこもあるけどおらの自慢の婆ちゃんだべ!なんで知ってるだ?」
ロエル「あの婆さんに武器を作ってもらおうと思ったら熱がどうのこうので突っぱねられてよ…」
サンベ「あ〜…婆ちゃんそういうとこあるべな…」
ロエル「サンベは熱が何か分かるか?」
サンベ「おらもまだちゃんとは分かってねぇけど、婆ちゃんには小さい頃からたくさん聞かされてきたべ」
サンベ「熱ってのは闘志みたいなものらしいべ。武器に触れると、まだ闘えるとか、闘うことに満足したかどうか分かるんだとか…」
サンベ「だから武器には熱があるのに、握る物に熱がなけりゃ意味がないんだそうだべ」
ロエル「闘志か…」
サンベ「おらすげぇよく分かるべ!武器の意志と持つ人の意思が一致しなきゃ、その本領を発揮できないって!」
サンベ「おらがそうだべからな…武器は婆ちゃんが作ってくれたすげぇいい剣だけどよ…おらがビビりでまともに振ったことねぇから…だから初めてまともに剣を振れて嬉しかったべ…!」
サンベ「モンスターもちょっとは克服できた気がするべ…」
ロエル「さっきみたいにビビるんじゃねぇぞ?お前強いんだからよ」
サンベ「へへっ…」
サンベ「おら、憧れてるんだ…婆ちゃんに…」
サンベ「ちいさい頃に親が死んじまって…婆ちゃんが1人でおらのこと育ててくれたんだべ…」
サンベ「婆ちゃんのことずっと見てきて、武器を作ってるところとか、武器への信念がすげぇかっけぇなって…!だからおらも鍛治師になりてぇと思ってるんだ…!」
サンベ「でも婆ちゃんに「装備を扱うならあんたの熱を見せろ」って言われて…今頑張って討伐依頼とか受けてるべ…」
ロエル「じゃあ今日はその熱を少し見せられたってわけだな」
ロエル「俺もあの婆さんが武器にどういう想いがあるのか、分かった気がするぜ」
サンベ「なぁ、また今度婆ちゃんに武器を作ってもらえねぇかもう一回頼んでみねぇか?おらも頼んでみるからよ…」
ロエル「おっ、ほんとか…!?」
サンベ「受けてくれるかわかんねぇけど…」
ー・・・
一方リドル達は…
リドル「すげぇ〜…!」
サモ「やはり本も全て巨大だな…」
セノ「巨人の図書館だとしてもこの巨大さ…!何か珍しい図鑑があるかも…!」
ティタイルの図書館にやって来たリドル達は、見たことのない大きさの図書館に、特にセノは大はしゃぎだ。
???「おや、これはこれは小さな来訪者で」
現れたのは巨人族のように巨大だが、黒いローブと黒い仮面を身につけた、一風変わった巨人だった。
グレセント「はじめまして、私はこの図書館の司書、グレセントと申します」




