巨人の村
あれから2日が経過、リドルの傷は既に完治し、次の目的地へ出発しようとしていた。
ロエル「これからティタイルって村に行くが、あそこは鉄道が通ってないからケルペロに乗って向かう」
ロエル「準備はできたか?」
リドル「バッチグー!」
ロエル「よし、行くか!」
冒険者「おいおいちょっと待ってくれよぉ!」
冒険者「ブルードラゴンと本当に張り合えたのかぁ!?」
冒険者「まだブルードラゴンの素材余ってないか?金は払う、カケラでもいいから!な?」
デリーヌ「キング…!」
冒険者「うわー!!!逃げろー!!!」
ロエル(締まりが悪い…)
リドル達はコミュールドを後にした。
ケルペロ「ブヒヒイィン!」
広大な草原をケルペロ達が駆けぬける。
リドル「うぉ〜…でけぇ〜…」
草原には時速100キロを超えるスピードで走る鳥型モンスターの群れ、木よりも大きな体を持つモンスターと様々なモンスターが生息している。
セノ「この地域は緑豊かで、たくさんのモンスターが繁栄してるんです」
リドル「初めて見る生き物ばっかだ…」
セノ「僕もここに来たのは初めてで…!観察欲求が…!」
モンスター「グウゥ…!」
そんな話をしていると、いつまにかリドル達の周りをモンスターが並走していた。
デリーヌ「なんか…囲まれてない…?」
セノ「グラスガータ!恐らくケルペロを狙ってるのかと…!」
グラスガータ「ゴアァ!」
モンスターがデリーヌの乗っているケルペロに襲いかかる。
モンスター「キュアアァ!」
グラスガータ「ゴァ!」
上空を飛んでいたモンスターがグラスガーターを足で捕まえ、再び上空へと去っていった。
セノ「なんて迫力…!」
デリーヌ「何でこんな危なっかしいところから行くのよ!ケルペロで行くにしても、整備された道があるでしょ!」
ロエル「近道!」
デリーヌ「おい!」
モンスター「グオアアァァ!」
また新たなモンスターがケルペロを狙って襲いかかる、今度はグラスガータより更に大型のモンスターだ。
セノ「うほぉ〜…!」
デリーヌ「ケルペロ!もう少しスピード出せないかしら!ちょっと追いつかれそうなんですけど…!」
ケルペロ「ブヒィ!」
ケルペロは「無理」と答えるように鳴いた。
デリーヌ「ロエル!言っとくけど討伐対象か特別な許可がなければモンスターには手をだせないのよ!」
ロエル「んなこと分かってるさ!」
デリーヌ「じゃあどうやってこの状況切り抜けるの!?」
ロエル「とりあえず走り続けるんだよ!」
デリーヌ「走るって…どう見てもこの先崖…!」
ロエル「それでいい!」
ケルペロに乗ったロエル達は崖から飛び降りた。飛び降りたケルペロは綺麗に地面へと着地した。
ロエル「ふぅ…意外とタフなんだなお前って…!」
セノ「ケルペロの原種は山岳地帯にも生息しているので、傾斜の上り下りが得意なんです」
セノ「それにしてもいいものが見れたな…」
ロエル「ここまでは追ってこねぇか…」
崖の上から襲って来たモンスターが崖下を覗き込んでいる。
デリーヌ「あなた達はこの荒っぽさがセオリーなのね…」
ロエル「まぁ正規の道で行くと2日は掛かるからな…ここは後この森を抜ければティタイルに着くぜ」
ロエル「かといってだらだらしてたら日を跨いじまう。行こうぜ」
サモ「ここが…巨人族の村ティタイル…!」
日が沈みかけたら頃、リドル達はティタイルに到着した。巨人の村ということもあって人も建物も何もかもが大きい。
リドル「なんか俺達小人みたいだな…!」
ロエル「ガキか…」
???「お?こりゃあ小さいお客さんだ!」
村を歩くと巨人の1人が話しかけて来た。第一印象はただただ大きい。人間が住む2階建ての建物程の大きさはあるだろうか、それ程の大きさが巨人族の平均身長だそうだ。
メイナイ「俺はメイナイ!あんたらここは初めてか?」
ロエル「あぁ、ここに世界有数の鍛治師がいるって聞いたんだが…」
メイナイ「あぁ〜あの婆さんか…あの人に何か装備でも?」
ロエル「そう」
メイナイ「なるほどな、じゃあ案内してやる!」
そう言うとメイナイはその鍛治師がいるところへと歩き始める、ロエル達もその後についていった。
メイナイ「そういえばどうだいこのティタイルは?全部が大きくてすごいだろう!」
リドル「あれコップか…!バケツみたいにでけぇ…!」
サモ「まるで木の幹みたいな杖だな」
セノ「あの大きな肉…なんのモンスターなんでしょう…!」
メイナイ「はっはっはっ!楽しそうでなにより!」
メイナイ「しかしあの婆さんに用か…あの人技術は確かだが、上物しか作らないっていうこだわりがあってな…並の素材だけじゃすぐに突っぱねられちまうぞ?」
ロエル「へぇ〜…けどこの素材なら作ってもらえるだろ」
ロエルはそう言ってブルードラゴンの牙を取り出す。
メイナイ「こいつはドラゴンの…!?それもかなり強え種類じゃねぇか…!」
ロエル「どうだ?超上物だぜ?」
メイナイ「素材は申し分ねぇな…けど…どうだかなぁ…」
ロエル「え?素材はあるじゃねぇか…」
メイナイ「あの婆さんは他にも面倒くさいところがあってよ…まぁ見れば分かる」
メイナイ「そうこう話してるうちに到着だ、ここが世界有数の鍛治師がいるとこだよ」
そこは巨大な木に金属でできた重厚な扉が構えていた。木の上からは煙がモクモクと上がっている。
ロエル「木の中に鍛冶場があるのか…!?」
メイナイ「この木は耐火性に優れててよ、ちょっと燃やすだけじゃ焦げもしねぇ、村の建物のほとんどはこの木で造られてるんだ!」
メイナイ「お〜い婆さん!客だ!装備が作りたいんだとよ!」
そう言って扉をガンガン叩くと、扉がゆっくりと開く。出て来たのは巨人族の半分程度の大きさしかないが、それでも3m以上はあるお婆さんが現れた。かなり年老いており、眉間に皺がよって無愛想な顔をしている。
???「素材を見せな…」
ロエル「あ、あぁ…」
ロエルはブルードラゴンの牙を鍛治師に渡す。
???「…」
鍛治師はブルードラゴンの牙を見つめる。
???「…今使ってる武器も出してみな…」
ロエル「え、あぁ…」
そう言われロエルは素人技術で修復したボロボロの剣を渡した。
???「…」
鍛治師はロエルの剣を見つめる。そして建物の中へ戻り、扉をバタンと閉めた。
ロエル「えっ、おっ…ちょい…!俺の素材と武器!」
ロエル「待てよ!何でいきなり閉めるんだよ!俺のもの盗るんじゃねぇよ!」
???「うるさいね!私が盗るなんて一度でも言ったかい!?これは盗んでるんじゃなくてちょっと拝借してるだけだよ!」
ロエル「はぁ!?」
???「いいから黙ってな!」
メイナイ「こんな感じだな…」
ロエル「俺のもの…」
メイナイ「まぁ本当に盗もうとしてるわけじゃねぇさ…多分…」
ロエル「多分…?」
建物に戻った鍛治師が再び扉を開けた。
???「あんた、なんで新しい武器を作ろうと思ったんだ」
ロエル「そりゃあ、その剣がもうボロボロだから…」
???「やっぱりそんな理由か…」
???「この剣はちゃんと治せばまだまだ使える。まだ熱があるんだよ」
ロエル「熱…?」
???「それも感じられないようじゃ…私に装備作りを頼む資格はないね…」
???「これは返す。作る気になれん」
ロエル「なっ…ちょっと待てよ…!」
ロエルの言葉に鍛治師は耳を傾けず、扉を思いっきり閉めた。
メイナイ「あちゃ〜…」
ロエル「クソ…めんどくせぇな…!」
メイナイ「俺も婆さんとは結構関わるけど、あの「熱」って奴はいまだによくわからないんだよなぁ…」
メイナイ「まぁ気にするな…あの人程じゃねぇけど、いい武器を作れる鍛治師は他にも…」
ロエル「いや、あの婆さんに武器を作って欲しい」
メイナイ「え?」
ロエル「さっき話してる時、あの婆さんが作ったであろう武器がちらっと見えたんだ」
ロエル「見ただけで分かる、どの武器も上物だ。置いてあるだけですげぇ気迫だよ…」
ロエル「最高の素材と最高の鍛治師が組み合わされば最高の剣が出来るってもんだろ…!」
メイナイ「けど、突っぱねられたじゃねぇか…」
ロエル「要は熱ってのが何か分かればいいんだろ…!皆で苦労して獲った素材なんだ、妥協はしたくねぇ!」
メイナイ「…ハッハッハッ!いいこと言うじゃねぇかお前さん!」
メイナイ「やっぱり人と関わるってのはいいもんだ!気に入った!もう夜だ!飯奢ってやる!」
突然鍛治師が建物から出て来て、扉に木の板をかけ、再び扉を勢いよく閉めた。
「閉店」
ー・・・
リドル「これが巨人飯…」
やって来たのはティタイルにある飯屋。巨人族の村にある飯屋といったところか、飯も大盛り
だ。
リドル「とんでもねぇな…」
セノ「お、多いですね…」
デリーヌ「太っちゃうなんてレベルじゃないわ…」
ロエル「バクバク!」
サモ「もぐ…」
リドル「よく食えるなぁ〜…」
メイナイ「巨人の飯は美味いか!?たんと食えよ〜!」
デリーヌ「結構食べたはずなのに…ネズミが齧った跡みたい…」
メイナイ「そういえば、あんたら冒険者か?旅の目的は?」
リドル「最近強力な魔族が活発に動いてるんだ。だからそいつらのリーダー、魔王を討伐するための旅してるぜ」
メイナイ「魔王…魔王…ブワッハッハッハッハッハ!」
メイナイ「ほんとおもしれなぁ!魔王かぁ!確かに最近は魔族がらみの事件がよく起きてるなぁ!」
メイナイ「しかし魔王つったら俺がガキの頃の話じゃねぇか!」
リドル「300年も前から生きてんの…?」
セノ「巨人族は長命種で、長生きな人は500年以上も生きるんです」
メイナイ「懐かしいなぁ魔王なんて…」
リドル「なぁ、300年前の魔王ってどんな奴なんだ?」
メイナイ「あの時はまだ子供だったから俺もよく知らねぇなぁ…けど世界中で戦争でも起きたのかってくらい話題になったな。まぁ実際世界を騒がせた戦争ではあるんだが…」
メイナイ「しかしいくら魔族が暴れてるとはいえよ、魔王っつうのは大袈裟じゃねぇか?」
リドル「いるかどうかが確かじゃなくても、俺はこの魔族騒動の真相が知りたい。俺の故郷を焼いた黒幕も…」
メイナイ「…全力の男は嫌いじゃないぜ」
そういうとメイナイは小さな紙(巨人族目線)に地図を描いてリドルに渡した。
メイナイ「この村の図書館だ。こんな長生き種族の図書館なら、なにかあるかもしれねぇな…!」
リドル「ありがとう、助かるぜ」
ー・・・
リドル「だめだ…腹一杯…」
セノ「き、キツイ…」
サモ「流石に苦しいな…」
ロエル「ご馳走様!」
巨人の飯をリドル達は2割、サモは半分程食べ、ロエルは完食してしまった。
メイナイ「はっはっはっ!いい1日の終わりだった!ティタイルにはまだまだいいところがあるから、楽しんでけよ!」
そう言ってメイナイは飯屋を出た。
ロエル「飯食い終わったし、宿探すか!」
リドル「もうちょっと待って…」
ー・・・
ロエル「この宿…明らかに周りの建物と比べて小さいな…」
リドル「人間用の宿があるんだな」
リドル「でも巨人族の宿もどんなのか気になるよな〜」
ロエル「巨人族があのデカさとなると、多分人間が泊まるには不便だろうよ…ちょうどいい、ここに泊まろうぜ」
リドル達が宿の中に入ると、1人の女性が受付で退屈そうにしていた。しかしリドル達が目に入ったやいなや、目を輝かせながら受付のカウンターを飛び越えた。
???「いぃらっっしゃまいせえぇ!!!ご宿泊ですかぁ!?」
ロエル「へ、部屋を3つ…」
???「3部屋ですね!なんなら全部屋使ってもらっても構いませんよぉ!」
ロエル「なんかテンション高ぇな…」
???「そりゃあもう久しぶりのお客様ですから!」
???「せっかく巨人族の村に宿を作れば、人が行き来しやすくなって、観光としてもビジネスになると思ってたのに…結果は一月に一部屋埋まればラッキーな方…」
???「そりゃあそうですよね!宿だけ人間サイズでも他の施設が大きすぎますもんね!そもそも鉄道が通ってないし!ちくしょおおおぉぉ!!!」
???「あっ…失礼、はしゃぎすぎました…」
エメルナ「私はこの宿のオーナーを勤めているエメルナ・マイスと申します。名前だけでも覚えてくださると…」
エメルナ「お部屋にご案内しますね…!」
リドル「おぉ、手厚い…」
エメルナ「いつも私1人しかいないのでそりゃあもう暇で暇で…!せめて出来る限りのサービスはさせて頂きたいんです…!」
セノ「飲食のサービスなどはされてるんですか?見た感じ、結構小規模な宿に感じるんですが…」
エルメナ「最初はそういうサービスもやってましたし、従業員も複数人いたんですが…あまりに人が来なくて皆離れました…」
エルメナ「今はお客様がこない日を予測しながら、巨人族の皆さんのお手伝いをしてなんとか食い繋ぎ…お客様が来そうな日は1日中受付で待つ日々…」
セノ「経営って…大変ですね…」
エルメナ「うぅ…!なんて哀れな私…!」
エルメナ「でもめげません!いつか大金持ちになる日を夢見て…!」
エルメナ「あっ、こちらがお部屋になります!」
エルメナはリドル達をそれぞれの部屋に案内する。
エルメナ「ではごゆっくり〜…!」
エルメナ「永遠に泊まって頂いても構いませんよ…?」
エルメナはそう言って部屋の扉を閉めた。
リドル「こわ…」
ロエル「宿選び間違えたか…?」
ロエル「けど、いい部屋だな。めちゃくちゃ綺麗だし、宿屋の中じゃいい方だぞ」
ロエル「もったいねぇなぁ…人間の街に建ててたら絶対繁盛するだろうに…」
ロエル「さて、明日に備えて寝るか…!」
リドル「そういえば明日はどうするんだ?図書館と、武器」
ロエル「俺は武器の方を頑張るかな」
リドル「あの婆さん納得させろよ〜?」
ロエル「任せとけ…!」
ロエル(熱…か…)




