語り合うなら拳で
リドル「よお」
バケット「今回は来たようだな…」
手紙の指示通り、リドルは昼間の山へ戻った。ブルードラゴンによって木々を焼き払われ、殺風景となった森にバケットが1人立っていた。
リドル「いつもの奴らは?」
バケット「今はいねぇよ。元々は勝手に俺に着いてきて、いつのまにか子分みたいになった奴らだからな」
リドル「ふ〜ん…」
リドル「…なんで俺達の邪魔…新米狩りをするんだ…?」
バケット「ふっ…建前じゃなくて本当の理由を知りたいって顔だな」
バケット「…今日は星がよく見える」
バケット「ここから緑が消えてくれたおかげでな」
バケット「側から見れば森が焼かれ荒れ果てた山かもしれないが、俺は星空がよく見えて悪くないと思うぜ」
リドル「それが、いいことだと思うのか?」
バケット「少なくとも、俺はそう思ってる…」
バケットはそう言うと、牙をリドルへ投げた。
リドル「なんだよ…あっさり渡すじゃねぇか…」
バケット「それはお前を誘き出すためだけのものだからな」
リドル「じゃあ…どうする?俺とやるか?」
バケットとはリドルの一言に少し驚いた。
バケット「いつもみたいに帰らないのか?」
リドル「なんだよ、お前が1番やりたがってたことだろ?」
バケット「いや、まさか帰らないとは思ってなくてよ、こいつは必要なかったっぽいな」
そう言うと、バケットは背後に隠していたものを手に取る。それは顔面をボコボコにされた冒険者だった。原型がどうなっているかわからないが、年はリドルと同じくらい、白目をむいて気絶している。
リドル「そうだな…」
バケット「じゃあ、やるか…」
バケットは鞘から剣を抜く。
リドル「ちょっと待て」
リドル「男の喧嘩はいつだって、素手だろ…!」
バケットはその言葉を聞いてほくそ笑み、剣を鞘に収める。そして剣ごと鞘を放り投げた。
両者一斉に走り出す。思いを込めた拳が、お互いの顔面にめり込んだ。
リドル「おらぁっ!」
バケット「がっ…!」
バケット「はぁっ!」
リドル「ぐっ…!」
誰も目覚めない真夜中で男2人による熾烈な殴り合いが繰り広げられる。
リドル「うおぉっ!」
バケット「ぐあっ…!」
リドルがバケットを背負い投げる。
バケット「だらぁっ!」
リドル「うおっ…!?」
バケットはすぐに体勢を立て直し、回し蹴りでリドルの足を突く。
バケット「はぁっ!」
リドル「かはっ…!」
バランスを崩したリドルの腹に拳がめり込む。吹っ飛んだリドルに追い打ちを仕掛けるが、リドルは拳を受け止めた。
バケット「まさかここまで強いとはな…!」
リドル「そういうお前もめちゃくちゃ強ぇじゃねぇか…!流石はBランクなだけあるな…!」
リドル「おらぁ!」
バケット「がはっ…!」
バケットを押し返し、反撃の一撃を決め込む。
バケット「ランクなんてただの飾りだ…お前を見たら余計にそう思える…」
リドル「この前はあんなにBランクだの威張ってたのに…」
バケット「あれは脅しだ脅し…そういえばお前、実際ランクはいくつなんだ?」
リドル「いやぁ…ランクとかそういうのやってないんだよ」
バケット「なっ…冒険者じゃないのか…?」
リドル「冒険者といえば冒険者だけど…ただ世界を巡ってるってわけじゃないからな…」
バケット「じゃあ何を…」
リドル「魔王を討伐するための旅、だから俺が何者かと言われたら…」
リドル「勇者だな」
バケット「勇者…くっっっだらねぇな…」
リドル「俺は魔王が復活したってマジで信じてるぜ。実際、二十魔将に…」
バケット「魔王はどうでもいい、お前が勇者を一丁前に名乗ってるのがくだらねぇってだけだ」
バケット「お前みたいなそんじょそこらの冒険者より強いだけで自分の力を過信して、ヘマして死ぬ奴は腐るほど見てきた…!」
バケット「自分の力を分かってんのか?その魔王とやらは二十魔将クラスを侍る存在だぞ?お前はそれを倒せるっていうのか…?」
リドル「…確かに俺にはまだ魔王を倒せるとは思えない…けどよ、今が俺の限界とも思えない」
リドル「俺は旅始め、二十魔将じゃない魔族に殺されかけた、でもこの前は仲間と力を合わせて二十魔将を倒せたんだ。まだ短い旅だけど、力はついていってる」
リドル「旅はまだ序章だぜ?オチをつけるには早いだろ…!」
バケット「そのオチが見え透いてんだよ…!」
リドル「なら本当にそうか見せてやるよ!」
リドルとバケットは再び距離を詰める。2人の拳が顔へと向かう瞬間
バケット「何…ごふっ…!?」
リドルはバケットの拳を躱し、バケットの腹へ拳をめり込ませた。
バケット「おらぁ!」
リドル「ぐあっ…ふんっ!」
バケット「がはっ…!」
バケット(くそ…何なんだよ…!何でこういう類は死にたがりが多いんだよ…!魔族に殺されかけたんだろ…!?)
バケット(なのに何で魔王を倒すとか馬鹿げたことを…!二十魔将を名乗る奴がいるったって、魔王なんてどこの噂だ…!)
バケット(そんなのに命張って、今こうして俺とも殴り合いして…!痛くねぇのか…死ぬのが怖くねぇのか…!?)
殴り合いは数時間続いた。気付けば2人の体は血だらけ、痣だらけだった。
リドル「はぁ…はぁ…だいぶ…キツくなってきたな…!」
バケット「はぁ…はぁ…そう…だな…!」
リドル「まだ…やるか…?」
バケット「当たり前だろ…!」
リドル「おらぁ!」
バケット「がはっ…!」
バケット「この…!」
リドル「ぐっ…!」
リドル「ふんっ!」
バケット「ごふっ…!」
バケット「はぁ…!」
リドル「ぐあっ…!」
バケット「はぁ…はぁ…あっ…!」
殴り合いの末、バケットがとうとう膝をついた。
リドル「俺の勝ちだな…」
リドル(なんか持ってたかな…おっ…!)
リドルはポーチからセノから貰ったポーションを取り出し、バケットに渡した。
バケット「俺には…お前の考えが分からん…」
バケット「目的は知らんが…死ぬ可能性の方が高い道に何故進んでいく…」
リドル「直球な言い方すると…復讐と使命感…」
バケット「ありきたりだな…」
バケット「…平穏の理って名前の組織がある…もしお前が魔王討伐の旅を続けるなら、必ずお前に接触してくるはずだ…もしその名前を聞いたら絶対に関わっちゃいけない奴らだ…」
リドル「なにそれ…」
バケット「一種の宗教だな…」
リドル「あぁ、わかったよ」
リドル「今夜の件は秘密にしとくか?」
バケット「いや、隠さなくていい。始めたのは俺だからな…」
バケットがそういうとリドルは少し黙り込み、そしてポーチからまた何か取り出しバケットに渡した。それは青色に輝く綺麗な鱗だった。
バケット「これ…ブルードラゴンの…」
リドル「戦ってる時どさくさに取ったやつ、綺麗なものって、貰うと嬉しいだろ?」
リドル「昨日の敵は今日の友、それは友情の証ってやつだよ」
リドル「まぁ嫌なら売るなりなんなりしても大丈夫だけどな。それ、1枚でも数年は遊んで暮らせるらしいぜ…?」
リドル「じゃあな!」
そういうとリドルは山を降りていった。
バケット「はは…友情ね…」
バケット「…」
バケット「もう…やめてくれよ…!」
ー・・・
ロエル「ん…くぁあ〜…!」
朝日に照らされロエルが目を覚ます。
ロエル「ん…?」
ロエルは目覚めてすぐに、リドルがいない事に気付いた。
ロエル「あいつが俺より早く…?珍しいな…」
ロエルがそう言うと、部屋の扉ガチャりと開き、少々怪我を負ったリドルが入ってきた。
ロエル「どうしたんだその傷…?」
リドル「昨日ブルードラゴンの牙をよこせって言ってきた奴いただろ?あいつに牙を盗まれたから、取り返しに行ってたんだよ」
そう言うとリドルは机にドラゴンの牙を置いた。
ロエル「えっ…マジかよ…」
リドル「まぁ取り返せたから結果オーライだな」
リドル「けどすげぇ疲れた…今日は寝るわ」
リドル「あっ、デリーヌにはこの事「ボコボコにしたから深追いするな」って言っといてくれ」
リドル「じゃ、おや…があぁ〜…」
リドルはおやすみと言い切る前に寝てしまった。
ー・・・
リドル「ふぁあ〜…」
リドルが目を覚ます、日が昇ったかと思えば、すぐに沈んでいた。
リドル「ん…?」
リドルが目覚めると、ベッドに手紙が置かれていた。
リドル「おいおいまさかまたとはいわねぇだろうな…」
手紙にはこう書かれていた。
「起きたら宿屋のロビーに」
リドル「なぁんだ…」
リドルは安堵した。
デリーヌ「あっ…!」
リドル「よっ」
デリーヌ「今度は本当にやり合った見たいね…全くあいつは…」
デリーヌ「でもあんたが成敗してくれたみたいだし…これで少しは反省したらいいんだけど…」
リドル「さぁどうかな…」
デリーヌ「けどまさかバケットに勝つとは…本当に強いわね」
リドル「まぁ小さい頃から特訓とかして来たからな…」
デリーヌ「それは私も同じよ。7歳から魔法を勉強してもう14年…自分でいうのも何だけど、才能はある方なのよ?」
デリーヌ「それでもバケットと本気でやり合ったら…多分負けるわ…」
デリーヌ「でも、あなたは倒した」
デリーヌ「あなたは才能あるとかそういう次元じゃない…まさしく天才ね」
リドル「きゃっ…!」
デリーヌ「照れ方キモ…」
リドル「じゃあバケットはどんな感じか分かるか?」
デリーヌ「あいつの幼少期なんて知らないわ。何があいつをあんな風にしてしまったのか…」
デリーヌ「ひとまず無事そうでよかったわ。せっかくパーティに入れてもらったのにいきなりトラブル発生だもの…」
リドル「あいつ殺す気はなさそうだからな」
デリーヌ「それが唯一の救いね…」
リドル(本当に…なんであんなことをするのか…)
バケット「(平穏の理って組織がある…)」
リドル「なぁ…平穏の理って知ってるか…?」
デリーヌ「なにそれ?」
リドル「いや、やっぱ何でもない…」




