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亜神

            ◇




 安徳帝の庵に泊まった翌朝。皇子はルクスソリアへ転生した理由を知った。ここは前世で非業の死を迎えた皇子達を慰撫する場所だ。呪われた魂を浄化し再生する。その後は世界を守る1柱になる。早良親王は浄化に失敗した例だ。


 皇子もいずれ安徳帝のように神となるが、今はまだ人のはずだった。だがスキル“再生”のせいで亜神となった。


「俺はもう年を取らない。死にもしない。俺の妻や眷属たちもだ」


 ミナミとリコリスはまだ成長途中だが、皇子の妻となる時が来れば運命を共にする。2人には話してある。親兄弟、友を見送ることになる。人の理を外れ正気を保てなくなるやもしれぬ。それでも皇子と共にいてくれるかと。


『もちろんです。永遠に宮様にお仕えできるなんて。私は幸せです!』


『しょーがないなあ。ヨッシーが責任取るって南に言っちゃったし。皆いなくなっちゃったら、トキ君たちと遊ぼうか』


 一瞬の迷いもなく答えてくれた。皇子は嬉しかった…。




            ◇




 聞き終えたユリア姫は青ざめている。王と王太子も信じられないといった顔で口をつぐんでいる。王妃は何か言いたそうな顔をしていた。


「俺の妻になるということは、そういうことだ。諦めてくれ」


 冷たく聞こえないよう、優しく皇子は言った。叙爵の件は了承した。爵位は任せると告げ、皇子は立ち上がった。一家に背を向けドアへ向かう。


「待って!モーリー様!」


 ユリア姫がその背に飛び付いた。淑女らしくない素早さだ。思わず皇子は微笑んだ。


「構いません!私も、私も連れて行って!」


「父母を、兄を見送るぞ。息子や娘にも先立たれるやもしれん」


「だい…大丈夫…」


 泣きながら皇子の背にすがる。


「年も取らず、死なぬ。化け物と(そし)られてもか」


「その時は、助けてください。私も、助けます…」


「そうか…」


 皇子は上を向いて目を閉じた。胴にまわされた姫の手を取り、後ろを向くと涙に濡れた少女と目が合った。全てを捨てても皇子について行くと言う。彼は深い(えにし)を感じた。


 王女の前に膝をつき、部屋にいた護衛や侍従たちにかけていた認識阻害の魔法を解く。


「我、ヤマタイ皇国上皇護良は、ユリア・ノースフィルド王女に婚姻を申し込む。受けてくれるか?」


 ユリア姫は目を見開いた。すぐに涙の残る笑顔で頷く。


「はいっ!」


 皇子は父親である王にも許可を求め、王はこれを許した。姫は王妃と退出し、男たちが残る。王太子が皇子の肩に手を置いた。


「これで僕たちは義兄弟だね」


「まだ早い。姫が成人するまではな」


 王も立ち上がり、皇子の肩に触れた。


「いや。もうお前は俺の義息だ。今日から義父上(ちちうえ)と呼べ」


「じゃあ僕は義兄上(あにうえ)と。いいかい?義弟(おとうと)よ」


 皇子は声をたてて笑った。年の近い王が父で年下の王太子が兄とは。3人は心行くまで笑いあった。


 こうして皇子はユリア姫と婚約し、大公位を叙爵した。




            ♡




 皇子が亜神になったと聞いた時、ミナミはよく考えもせずに了承した。皇子とリコリスが一緒なら、何とかなる。ユリア姫が降嫁して仲間に加わるが良いかと訊かれ、またよく考えないで『良いよ』と言ってしまった。いつかあのお姫様は来る気がしていたから。


 大公となった皇子には家名が要る。皇子とリコリスが相談して『アスカ』にした。アスカ大公家には家長の皇子とその養子になったヒナとノアが属する。ミナミとリコリスは従業員兼皇子の婚約者的な立ち位置だ。


 王様にもらった東の広大な領地に土魔法で城を建てた。領民も一応いるのでたまに行く。普段は相変わらず王都の老師の家に居候をしている。


「いい加減、王都に屋敷を持て。ユリア姫を迎えられんだろうが」


 老師が呆れて命じる。皇子は学園と神殿の仕事と大公領の整備に忙殺されているうえ、たまにヤマタイ皇国にも行ってサララ女帝を助けている。絶対住まい探しなんか無理だ。ミナミはユリア姫に相談に行った。


「どんな感じの新居が良いですか?家族全員分の部屋と、ヨッシーの研究室にリコの鍛錬場、あたしの仕事部屋。あとヒナとノアが里帰りに家族とか連れてきたら、客間が必要ですかね」


 姫の部屋で不動産屋から借りてきた図面を広げる。結構大家族だから部屋数が半端ない。


「…ミーナさんは平気なの?私が、その、お嫁に行っても」


 ユリア姫がおずおずと訊く。このしとやかさが皇子好みなんだよなあ。


「良くは無いけど、ヨッシーが決めたことだし。姫様も聞いたでしょ?あの話」


「ええ。まだ覚悟を決めたとは言い難いけれど」


「大丈夫。トキ君ていう神様と会ったけど、お母さんと楽しく暮らしてたよ。あたしたちも、仕事して、勉強して、ヨッシーは魔法の研究とか魔道具作りまくって。そのうち子供とか生まれたら良いね。沢山産んで、一緒に育てよう。黒髪だらけはつまんないねー。姫様に似た金髪碧眼美男も欲しいなあ。リコに似たら茶髪巻き毛ちゃんか」


 楽しい妄想が止まらない。ヒナの子は孫になるのか。背の高いドワーフ王子。ノアの子は黒髪の蛇娘。皆に魔法や剣術、弓術、商売を叩きこもう。姫様は貴族のマナーとか教養を教えて。アスカ大公家の未来は安泰だ。


「まあ。ミーナさんたら…」


 ミナミの未来予想図を、ユリア姫は涙を流して聞いていた。泣かせてしまった。話を聞いていたらしい王と王妃が部屋に入ってきた。糟糠の妻が新妻を虐めてるように見えただろうか。慌てて謝る。


「すみません。楽しい話をしてたはずなんですが…」


「そうではない。ユリアも大公家にふさわしい実力を備えなければな」


 王が励ますと、ユリア姫は涙を拭いて笑った。王妃はミナミに、娘をよろしく頼むと頭を下げた。


「ご安心ください!お義父(とう)さん、お義母(かあ)さん。娘さんは僕が幸せにしてみせます!」


 男らしくミナミが胸を張ると、王が悶絶した。姫と王妃も口元を押えて震えている。笑いの耐性の低い一家だ。


 ついでに新居の件を王に言ったら、老師の屋敷近くの広大な森を下賜してくれることになった。ミナミがそこに好きな間取りの屋敷を土魔法で作った。部屋が足りなくなったら階を足せばいい。


 ユリア姫は17になるまで王城に住む。それまでは婚約者として通いで大公家にしばしば訪れた。皇子が師となり、姫に魔法を教える。王太子と婚約したイザベラも闇魔法の修行に来る。ミナミやノア、ヒナらも学園では右に出る者がいない。数多くの研究を指導し、成功させた皇子は、いつしか『魔導大公』と呼ばれるようになった。

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