亜人会議
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亜人会議が始まった。出席するのは、獣人族、人魚族、エルフ族、ドワーフ族、ラミア族、ハーピー族、アラクネ族の7氏族の王子王女である。人魚族のマリエルのみが人族を後見人としているが、他は同族の者が付き添っている。エルフ族のシルヴィア姫も無事に同族と落ち合えたらしい。横によく似た雰囲気のエルフの男が座っている。
主催の獣人族のヴォルフ王太子が開会を宣言し、会議を進行していく。序盤、シルヴィア姫の横のエルフが発言した。
「我がエルフ族の船がクラーケンに襲われた件ですが。早急に当該海域の調査をさせていただきたい」
やはりそこを突いてくるか。マリエルが困った顔で皇子を見上げた。
「その件については人魚族と人族で解決済みだ。調査の必要は無い」
皇子は女王と口裏を合わせておいた。証拠としてクラーケンの魔石を出す。エルフの男はしつこく食い下がって来た。
「マリエル姫の病は何と説明される?」
「姫はクラーケンに喰われて呪われた。それは俺が祓った。すでに海に穢れは残っていない」
姫の若返りは代償だと言っておく。エルフの男は不服そうに引き下がった。何故か憎々し気に睨まれる。シルヴィア姫はすまなさそうに小さく頭を下げた。人魚族と人族に不利な発言をしないという約束を覚えているらしい。
他に幾つかの議題について話し合いが行われ、昼休憩となる。各氏族ごとに控えの間が用意されていた。皇子とマリエルも人魚族用の部屋で昼食を取った。
「どうしたマリエル。もう食べないのか?」
特別に供された魚料理に手も付けず、マリエルはぼんやりとしている。皇子が声をかけるとはっとして顔を上げた。
「いえ。あの。殿はすごいなって思って」
「何がだ」
「エルフ族の宰相と堂々と渡り合ってたでしょう?私、あの人苦手で。いつも他の種族を見下してる感じがして」
あの男は宰相だったのか。随分若いなと思ったところで、エルフは見た目通りの年齢ではないと思い出す。
「人魚族は下に見られがちなんです。海から出られないから」
「そんなに卑下することは無い。他の王族を海底宮殿に招くと良い。きっと皆気に入る」
亜人にも上下意識があるらしい。皇子が励ますと、マリエルは少し元気が出たようで、昼食を食べ始めた。
◇
食後の茶を飲んでいるとドアがノックされた。ハーピー族の王女が訪れたらしい。入室を許可すると王女は賑々しく侍女たちを連れて入ってきた。
「御機嫌よう!マリエル様。モーリー卿。先ほどはあのいけ好かない耳長男を、よくぞやり込めてくれたわね」
「耳長男。エルフの宰相殿のことか」
「人化が要らないからって威張ってるのよ。見た?モーリー卿を睨んじゃって。未来の王配の地位が危ういんじゃない?」
ハーピーの王女はまくしたてるように話す。鳥の囀りのようだ。手土産だと言って高山にしか生らないという果物をくれた。返礼にマリエルが人魚の涙を渡すと大喜びで受け取る。
「あの。ぜひ人魚の国へ遊びにきてください」
「ありがとう!喜んで伺うわ!」
マリエルの誘いにも笑顔で応じる。だが帰り際、また羽根を寄こそうとするので、皇子は丁寧に断った。
◇
次にラミア族の王女がやってきた。銀髪銀瞳の無表情な女だ。会議でもほとんど発言しなかった。全てに無関心に見える。
「これを…マリエル様に」
ラミアの皮で作られたマントを贈られる。銀色の皮は、魔力を流すと着た者の姿を隠してくれるらしい。
「この皮は…」
「大丈夫…ラミアは脱皮するから…」
皮の出所を心配するマリエルに、王女は淡々と答えた。さらにもう1枚を皇子に渡してきた。
「あの…黒髪の男の子に…」
ノアのことらしい。歓迎の宴で見染めたと、白い頬をほんのり染めて言う。マリエルが返礼の品を渡し、海へ招待する。蛇人の王女は淡々と礼を言って帰っていった。
「ノア兄さま、気に入られちゃったみたいですね」
ラミア族に男子は生まれず、必ず他種族から婿を取るそうだ。皇子は銀のマントをノアに渡すべきか迷った。
◇
昼休憩も終わろうという時、ドワーフ族の王子がやって来た。背は低いが整った顔立ちの青年だ。
「モーリー卿の側室でも構わない。ぜひヒナ殿を妃に」
こちらはヒナを見染めたらしい。折り目正しく皇子に頭を下げる。夕べの獣人と比べるべくもない。皇子はこの小さな青年が気に入った。
「ヒナは預かっている娘だ。王子の気持ちは伝えておこう」
王子は喜び、山ほどの宝飾品を置いていった。マリエルが渡した人魚の涙も、海の素材は希少だからと、大事に抱えて帰っていった。
「ヒナお姉さまに訊かなくていいんですか?」
「伝えるだけだ。決めるのはヒナだ」
あの青年なら大事にしてくれそうだ。小柄なヒナと同じ背丈の王子。似合いの夫婦になるかもしれない。
◇
「上手く社交をしていたな。その調子だマリエル」
会議場に戻りながら、皇子はマリエルを褒めた。彼女に足りないのは自信だとリコリスが言っていた。幼い身体は今のマリエルの自尊心の大きさだ。
「はい…!」
人魚族の王太女として堂々と歩くマリエル。皇子は彼女の手を引きながら、会議場へ入った。
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昼休憩の間にシルヴィアは人魚族の控えの間へ行こうと思っていた。約束に反し、宰相が人魚族を疑うような発言をしたからだ。そそくさと昼食を食べ終え、部屋を出ようとすると、
「人魚族との接触は禁止します。シルヴィア姫」
宰相に止められる。彼は姫が人族に助けてもらったことを、人魚族と人族の陰謀だと疑っている。午前中の会議では引いたものの、納得はしていないようだ。
「モーリー卿に謝らないと。恩を仇で返すような真似をしてしまったわ」
「人族など放っておきなさい。100年も生きられない連中です」
美しいはずの顔が侮蔑の笑みを浮かべた。宰相はエルフ至上主義だ。シルヴィア姫も以前はそうだった。だが神殿で聖女と誼を通じ、考えが変わった。人族にも親切で高潔な者はいる。
「だからこそ会える時に会っておきたいのよ。あなたには分からないでしょう」
「まさかあの人族に惹かれている?エルフの姫君が?」
怒りを含んだ声で宰相が問うた。否定できない。あの黒髪黒目の男には抗いがたい魅力がある。姫の沈黙を肯定と捉えた宰相は意地悪く言った。
「あの人族の側女がヴォルフ王太子の弟に襲われたそうですよ。何でも弟王子は半殺しにされたとか」
「え?!」
「よほどその側女を愛しているのでしょう。弟王子の処刑を求めていると聞きました」
シルヴィアは青ざめた。宰相は畳みかける。
「貴女がいかに美しくとも、人族は人族同士ということです。諦めなさい」
それ以上聞きたくない。シルヴィアはバルコニーへ逃れた。そして昼休憩が終わるまで一人海を眺めていた。




