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獣人の島

            ◇




 人魚族から与えられた海図を頼りに、会議が開かれる島に着いたのは5日後、会議前日だった。会場となるこの島は獣人族の領土だという。水先案内人に導かれ港に入ると、獣の耳と尾を持つ獣人らが一行を出迎えた。


「人魚族の女王よりお聞きしています。人族の方々」


 マリエルの後見かつ護衛という名目で、宿舎には皇子一行と魔法騎士が入った。船員たちは船に残る。翻訳機をいくつか渡したので、会話で困ることはないはずだ。エルフ族は今夜到着予定らしい。シルヴィア姫はそちらの宿へと案内されていった。


「夜は歓迎のパーティーがあります。後ほどお迎えに参りますので」


 兎の獣人はそう言って帰っていった。獣人の見た目は、耳と尾以外、人族と何ら変わらない。五感に優れ、身体強化に特化した亜人だそうだ。ミナミたちは「モフりたい!」と興奮していた。マリエルが連れ合いや家族以外が耳や尾を触るのは失礼に当たると教えると、残念がっていた。


 歓迎の宴には皇子とミナミ、リコリス、ヒナ、ノアで参加する。もちろんマリエルもだ。3人娘たちは皇国で着るつもりで持ってきたドレスを、マリエルは女王が送ってきた小さなドレスを着る。皇子とノアは王太子の専属服屋で作らせた貴族服だ。


「人魚族王太女、マリエル姫と御後見のモーリー卿です!」


 皇子たちが宴の会場に入ると、大きなどよめきで迎えられた。マリエルの姿のせいかもしれない。だが病で押し通すと決めている。


「ようこそ亜人会議へ。主催を務めます、ヴォルフです」


 獣人族の王太子が挨拶に来る。大きな体躯、精悍な顔立ちの偉丈夫だ。皇子はそのがっしりとした手を握った。

 

「マリエル姫の後見役の護良だ。宜しく頼む」


「人族だそうですね。時間があれば、ぜひ手合わせを」


「ああ。社交辞令でなければ、明日にでも」


 挨拶が手合わせとは面白い。狼の獣人だという王太子とは気が合いそうだった。


 次々と亜人の王族が挨拶に訪れる。ドワーフ族の王子だという背の低い青年は明らかにミナミ達3人が目当てのようだ。懐から宝飾品を幾つも出し、娘らに捧げていた。


 ラミア族の王女という銀髪の女は冷たい手を差し出した。ハーピー族の王女は、美しい大きな羽根を皇子の胸ポケットに差していった。


「あれは求婚の印ですわよ。お気をつけあそばせ」


 アラクネ族の王女に握手をしながら教えられる。


「貴女は何の亜人なのだ?」


「蜘蛛ですわ。本当の姿をお見せできなくて残念だこと」


 王女はお近づきの印にと、白いハンカチを差し出す。


「これも求婚ではあるまいな?」


「ほほほ。人族の殿は慎重ですこと。蜘蛛の糸で織られた布ですわ。決して燃えず魔法を弾きます。ぜひ、アラクネ族とお取引を」


 ではミナミに任せる案件だな。皇子はアラクネ族の王女をミナミと引き合わせた。2人は意気投合して早速商売の話を始めた。




            ♡




 アラクネ族の王女とミナミは、魔法を弾く布と人族の嗜好品を交換する約束をした。皇国で商売をしようと仕入れた品が役に立った。ピアーデで回収し損ねた分を取り返すチャンスだ。


 鼻歌交じりにトイレに行く。安全対策で女子全員だ。リコリスはすっかりマリエルの母親役が板についている。幼女の着崩れたドレスを直してやっている。ヒナはドワーフ族の王子にもらったネックレスを困った顔で眺めていた。


「いただいて良かったんでしょうか?凄く高そうです」


「いーんじゃない?王子なんだし。きっと女の子にばら撒いてるんだよ」


 あの王子、金の匂いがする。物作りが得意な亜人には何が売れるのだろう。ミナミがうわの空で廊下を歩いていると、曲がり角で1人の獣人とぶつかった。


「わっ!」


 頑丈な身体に弾き飛ばされ、尻もちをつく。


「すっ、すまない!大丈夫か?」


 大きな手が差し出された。ミナミが尻をさすりながら見上げると、犬耳の獣人がいた。警備の兵士の制服を着ている。


「あー大丈夫、大丈夫。こっちもぼんやりしてたし」


 獣人の男の手を借りて立ち上がる。すると彼は雷に打たれたようにビクっと体を強張らせた。


「君は…」


 手を握ったままミナミの顔を凝視する。またセクハラ野郎か。ミナミは手のひらから棘を出した。


「ごめんあそばせ」


 驚いて手を離した獣人に思いっきりツンツンした態度で言う。獣人は、去るミナミ達を呆然と見つめていた。




            ♡




 その夜。宿舎に帰り、寝ようかとベッドに入ったミナミは、窓の外に気配を感じた。泥棒か。すかさず起き上がり、魔法を発動する構えを取る。バルコニーへと出る窓に何かのシルエットが映った。


「犬?」


 のそりと大きな犬が部屋に入ってきた。おかしい。鍵をかけていたはずなのに。魔法だと気づき、悪寒が走る。


 犬は見る間に人化した。宴会場の廊下でぶつかった獣人だった。上半身は裸でズボンのみ履いている。ギラギラした目でミナミを見つめ、意味不明な言葉を発する。


「やっと見つけた…。オレの(つがい)…」


 ミナミは男に火球をぶつけ、廊下に続くドアへ走った。だが獣人のスピードには敵わなかった。逃げ道を塞がれた少女に男の手が伸ばされた。


「姉さん!逃げて!」


 ミナミの前に防壁が生まれ、男の手を弾く。バルコニーにノアがいる。隣の部屋から助けにきてくれた。怒った獣人は一瞬でノアの前に移動した。長い爪を持つ手がノアの首を掴む。


「ノア!」


 大理石の床に叩きつけられ、ノアは動かなくなった。燃える獣人の目がミナミを捕らえる。絶体絶命の大ピンチだった。


「助けてヨッシー!!」


 ミナミはあらん限りの大声で皇子を呼んだ。

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