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スキル

            ♡




 ウルフは4頭いた。ミナミが岩の上でへたりこんでいると、見る間に最後の一頭が迫ってくる


(目をつぶるな!逃げちゃダメだ!…うわ!やっぱ怖っ!!)


 皇子が焦って駆け付けようとしている。ヒーローっぽくて素敵だが間に合いそうにない。


 今こそリベンジの時だ。ミナミは叫んだ。


「消えろ!」


 ウルフが1.5メートルまで近づいた時、ミナミのスキルが発動する。


 突如、獣の身体が消滅した。


「危機一髪…」


 ミナミはようやく目を閉じて息をついた。

 足元にはウルフの牙が散らばり、肉を失った毛皮が落ちていた。


「何だ今のは!?」


 皇子の大声を初めて聞いた。怒った美形はすごく怖い。


「ミーナのスキルよぉ。知らんかったぁ?」


 師匠は知っている。初めてウルフと遭遇した後、狩りで猛特訓したスキルだからだ。


「乙女の秘密ですものー。おほほほほー」


「ごまかすな。スキルとは何だ。なぜ隠していた」


 隠していたわけではない。言わなかっただけだ。


「スキルっちゅうのは魔力持ちにたまに出る能力だよぉ。どれも世界で一つだけって言われとるんよ」


 髭息子が説明してくれる。そして「見せたれやぁ」と横たわるウルフの死骸を指す。


「消えろ!」


 ミナミは死骸に近寄るとスキルを発動させた。ウルフの毛皮と牙を残して血も肉も消え失せる。

 これが彼女のスキルだ。望みの部分だけを消せる。生きててもOKだ。


 全ての処理が終わると、髭息子とおっちゃんがウルフ素材の回収を始める。

 ウルフ4頭分の皮と牙だ。悪くない稼ぎにミナミの顔がにやける。


 皇子はまだ放心している。


「なんと出鱈目(でたらめ)な…」


「雲の上の鳥を撃ち落とすチート野郎に言われたくありません~」


「それよりお前は魔力があるのか?」


 皇子が魔力に食いついた。やはり男子は魔法に興味があるらしい。


「多分ねー。ちゃんと測ったことないし、習ってないから、これしか使えないけど」


 魔法はきちんと修業しないと使えないものらしい。ミナミの夢の一つが魔法を習うことだ。

 以前、試しに「ファイヤーボール!!」とか叫んでみたけど、何も出なかった。独学は無理らしい。


「スキルは自然とできるものなんだって。狩りの時に便利だから重宝してんの」


 すると、眉根を寄せて考え込んでいた皇子が、恐ろしいことを聞いてくる。


「では、俺の血肉を消すこともできるのか?」


「…人殺しじゃん」


 呆れたミナミは顔をしかめた。




      ◇




 ミナミのスキルとやらを目の当たりにした皇子は、菅公との会話を思い出していた。

 『ルクスソリアには魔力があり、魔法というものが存在する』

そう言っていた。

 だが、村人の暮らしはおおよそ皇子のいた時代のそれと変わりがなかった。魔法らしきものを目にしたことは無かったから、忘れていた。


 まさに奇跡の力。

 ミナミは気づいているのだろうか?彼女のスキルがあれば、どんな暗殺でも可能ではないか。


(他にも幾人それを持つ者がいるのか?それはどんな(たぐい)のものなのか…)


 村へ戻る道々、皇子はスキルの情報が欲しいと考える。


(それよりもミナミのスキルは隠すべきだ。手に入れたいと思う人間は多いだろう)


 当の本人は、狩りを終えた安心感から笑顔で跳ね歩いている(『スキップ』というらしい)。


 木こりとその息子は信用できそうだが、他人に話さないよう念を押しておきたい。


「ミナミのスキルだが」


 隣に並んだ時に切り出してみる。


「大丈夫だぁ。誰にも言わんよぉ」


 頷きながら木こりが皇子の言葉の先を読む。そして、また驚きの事実が出てきた。


「モーリーも多分あるよぉ。異世界人への『神の贈り物(ギフト)』って言われてるけんねぇ」




            ♡




「異世界人にしか無い能力なのか?」


 夕食後に皇子が聞いてくる。ミナミは木こりのおっさんが話したと察した。


「ギフトがなんちゃらって話?そうみたいよ。魔力を持ってる人は100人に1人くらいいるらしいけど、スキル持ちはその魔力持ち1万人に一人いるかどうかだって。つまり100万人に1人ってこと?」



 結構いるようないないような。こちらの世界人口が不明なのでよく分からない。


「それほど異世界人は多いのか?」


「いやいや、異世界人の血を引く人に出やすいんだって」


 こちらで子孫を残した人もいたらしい。転移先で結婚など、ミナミには想像もできない。


「どれも違う能力だそうだな?」


「そーらしいね。でもさー中には明日の天気を予知できるとか、カラスの言葉だけ分かるとか、それってどうなのってレベルのも多いらしいよ」


 皇子は考え込んでいる。自分のスキルについて心配しているのかもしれない。


 イケメンで弓が上手くて、ウルフと接近戦できて、この上チートスキルまであったら詐欺のような気もする。


「自分も外れスキルだったらどうしようとか思ってる?」


「いや…。お前はどうやってスキルが分かったんだ?」


 ミナミは2年前の冬に転移した後、春になってすぐにハンターの修業に入った。

 まずは罠を仕掛けて小動物を獲ることを学ぶ。当然、獲物は自分で解体しなければならない。


「ナイフで皮を剥ぐとか内臓取り出すとか、マジで吐きそうで。その時思ったんだー。肉と皮以外消えて無くなれーって。そしたら肉と皮が別々に落っこちてて。いやーあの時はびっくりしたわー」

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