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黒い蝶

            ◆




 ピアーデ王国での仮住まいを引き払う。ほんの一月ほどしか居なかったので、大した荷物は無い。


 ノアと名を改めた少年は荷造りに精を出していた。いよいよ明日、ヤマタイ皇国へ向けて発つ。ここで彼は初めて市井の暮らしを体験した。先輩たちに色々と教わり、家事も買い物もできるようになっている。毎日が楽しく新鮮だった。


 何より(あるじ)より魔法の手ほどきを受けられたのが嬉しかった。ノアの今の髪と目の色は、美しい主とお揃いだ。それも嬉しい。


 最近は、1つ年上のヒナと一緒に魔法を習っている。彼女は元々忍びという隠密の修行をしていたから、身体強化に優れている。ノアは魔力が豊富で属性も多い。2人は競うように訓練をして、日々成長していった。



「ノアはいるか?」


 荷造りが終わった頃、主がノアを呼んだ。急いで駆けつける。


「老師の屋敷に行く。供をしろ」


「はい」


 主がノアを供にするのは珍しい。今日は3人の姉たちが仕入れで留守だからだろう。すぐに主の闇魔法“影渡り”でノースフィルド王国に向かった。

 老師の屋敷はノアが復活した場所だ。主に付き従って応接室に入ると、老師と中年の男性が座っていた。ノアはどきりとして足が止まった。平凡な貴族服を着ているが、威厳は隠せない。父であった王だ。




            ◆




 側妃と第2王子が処刑された後、王は密かに息子の遺体の回収を命じた。罪人の墓場に葬るのが不憫だったからだ。せめて平民の墓地に改葬しようとしたが、遺体は無くなっていた。王は側妃の一族を疑い、調査をさせた。しかし盗んだ者も、遺体の行方も分からないまま日々が過ぎた。


 三日前、ついに手掛かりが見つかった。


「老師の屋敷だと?」


 王は報告を持ってきた部下を問い(ただ)した。


「はい。墓穴からわずかに魔力反応が見つかりました。その先にあるのは老師の屋敷だけです」


 魔力反応は途中で消えていたが、方角的に老師宅以外は無いという。現在の宮廷魔法士団長を疑いたくはない。早急に確かめなければ。三日後の夜、王はお忍びで老師を訪ねた。




            ◆




「魔力反応が?これは1本取られたの」


 老師はあっさりと認めた。魔力波検知装置を開発したのは老師自身だ。


「どういうつもりだ。遺体をどこへやった」


 王は鋭く問うた。功臣と言えども罪を許すつもりはなかった。老師は魔道具を取り出すと、それに話しかけた。遠くの相手と話ができる魔道具・“伝話”だ。短いやり取りをし、相手を呼びつける。


「まさかモーリーか?」


「あいつも忙しい。早い方が良いだろう。すぐ来るそうだ」


 茶の一杯も飲み終えないうちに、執事が老師の弟子の到着を告げた。ドアが開き、美貌の青年がつかつかと入って来る。早速詰問しようと顔を向けた王は、彼の後ろの少年に気づいた。どこかで見たことがある、と王は思った。黒髪黒目は珍しい。どこで見かけたのか…。


「何か用か。王よ」


 冷たい美貌には愛想の欠片もない。少年は主が座る椅子の後ろに控えた。


「息子の遺体をどこへやった。なぜ盗んだ」


 怒りを滲ませ睨む。今日ばかりは美しい顔が忌々しい。


「返して欲しいのか?罪人用の墓地に埋めたのに?」


「すぐに埋葬しなおすつもりだった。王族は無理でも、せめて平民として」


 それぐらいしか父親としてしてやれることは無い。そう言うと、なぜか黒髪の少年の目に涙が浮かんだ。


「ノア。下がっていろ」


 執事が少年を連れて出て行った。若き魔法士はぱちりと指を鳴らした。部屋の明かりが暗くなる。彼の前に光が浮かび、1匹の黄色い蛾が寄ってきた。


「何を…」


 蛾は風の刃で斬り刻まれた。テーブルに残骸が落ちる。白く美しい手がその上にかざされた。すると青白い光と共に残骸は黒い蝶に変じていた。黒い蝶は羽をはばたかせて宙に舞った。


「!」


 王は驚きのあまり立ち上がった。死んだ蛾が生き返った。


「お前、まさかジュリアスを…」


 はっと周囲を見回す。護衛に聞かれては不味い。だが護衛騎士たちは立ったまま目を瞑っている。


「認識阻害の魔法だ。何も覚えてはいない」


 気づけば起きているのは王と老師、その弟子だけだった。王は恐ろしさを隠して詰め寄った。


「ジュリアスを生き返らせたな?」


「王は誤解をしている。()()()()()()()()()()

 

「何だと…では先ほどの」


 黄色い蛾を黒い蝶に変えたように、死んだ息子を黒髪黒目に生まれ変わらせたのか。呆然と王は立ち尽くした。人の業ではない。


「遺体を盗んだ罪は俺にある。老師は頼まれて屋敷を貸しただけだ。許されよ」


 美青年は席を立った。とたんに護衛たちは目を覚ました。彼がドアを開けると、黒髪の少年が待っていた。


「帰るぞ。ノア」


 振り返らずに歩み去る主を、少年は慌てて追いかける。その前に王に一礼をして顔を上げた。ほんの数秒、王と少年の目が合う。見覚えのある顔が、笑顔になった。王族として躾けられた仮面の笑顔ではなかった。


 老師にこの一件は不問に付すと言って、王は城に戻った。第2王子について語ることは二度と無かった。


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