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弓比べ

            ♡




 ミナミは不機嫌だった。

 木こりのおっさんが、皇子を勝手にウルフ狩りのメンバーに入れてしまったからだ。


「ヨッシー、危ないよ。ウルフってデカいし、反則級に強いんだよー」


 家に戻る道すがら、狩りには行かないよう皇子を説得してみる。


「どれほど強いのだ?」


 やっぱり男子だ。狩りとか好きそうだ。ミナミはため息をついた。


「やたら脚早いし、口なんか人間まるっと食えそうなぐらいデカいし」


「見たことあるような口ぶりだな」


 ある。去年、森で遭遇した。某アニメの山神様かというくらい大きかった。

 異世界の狼はもはやモンスターだった。


「地球の狼とは全然違うの!死ぬって!」


「心配するな。危ないようなら引く」


「嘘だね。目がきらきらしてんじゃん。うわー行く気満々だ」


 ミナミが指摘すると、皇子は「まあな」と言って微笑んだ。それも反則級に眩しい。


「…あたしも行く。それなら許可します」


 仕方なく了承する。皇子は彼女の保護下にあるから、かなり上から目線だ。


「お前が狩りに?」


「何その足手まといなノリ。ふふん、聞いて驚け!あたしはこの村で唯一の女ハンターなのだ!」


「ハンター?」


狩人(かりうど)ね」


「弓が持てるのか?その細腕で」


(細腕言われた。どうしよう。めっちゃ嬉しい)


 皇子は疑いの眼でミナミを見たが、当の本人は見当違いのことで喜んでいた。


「ヨッシー、明日、弓比べしよう!負けんから!」


 ミナミは皇子に挑戦状を叩きつけた。




            ♡




 こちらの女は父親とか夫とか、一生男の庇護下にいるのが普通だ。

 ミナミには両方いないので、自力で生活費を得る必要があった。


 本来、ハンターは男の仕事だ。でも他に稼ぐ手段がなかった。

 木こりのおっさんが狩りを教えてくれた。おっさんはハンターでもある。


 令和のJKになぜか狩りの才能があったらしい。

 罠や弓矢を使い、ウサギっぽい小動物や鹿っぽい大型草食獣を捕らえ、肉や革を売る。

 おっさんの女弟子というのが、ミナミの村での地位だ。


 はっきり言って弓矢の扱いに自信はある。

 だがウルフに襲われた時は、腰が抜けて手も足も出なかった。

 師匠がいたから助かったが、図太いミナミですらトラウマ級の体験だったのである。


(勝つ…ウルフに勝って、黒歴史を完全に消す!)

 ミナミはリベンジを心に誓った。




            ♡




 翌日。木こりのおっさんが皇子に弓矢と狩りに必要な装備を届けに来た。


「たぶん明日から晴れっからぁ。雪止んだら出るねぇ」


「分かった」


 皇子は弦を引きながら、弓の確認をしている。

 ミナミは糧食(といってもパンと干し肉)の準備が終わったので、練習の的を用意した。

 裏庭の木にランダムな高さに設置する。


「ヨッシー、的できたよー」


 皇子が矢筒と弓を持って出てくる。おっさんも一応、彼の弓の腕を見ていくっぽい。

 雪で視界が悪い。的は大体60メートル先だ。


「見える?けっこう降ってきちゃったね」


「問題ない」


 矢をつがえて弓を構える姿が優美だ。弓道の美を感じる。


 ぴたりと照準を合わせると、矢を放つ。

 タン、タン、タンと立て続けに音がしたかと思うと、的の全てに矢が刺さっていた。

 しかもオールど真ん中だ。


「お見事ぉ。やるなぁモーリー」


 おっさんは満足して帰っていった。


「なんだよー聞いてないよー。ヨッシー弓上手いじゃん」


 ミナミは不満顔で的の矢を取って戻ってきた。


「並みの腕だ。動かん的だしな」


 矢を受け取って、皇子が場所をミナミに譲る。次は彼女の番だ。


「それって外したら並以下って意味?ヨッシー、ケンカ売ってる?」


「昨日から、そのヨッシーというのは何だ。俺の呼び名はモーリーではなかったのか?」


 思い出したように皇子が聞いてくる。


「あー。家族とか親しい間柄は呼び方を変えるもんなの。ほら、三国志の字名(あざな)的な?」


 ミナミ適当な言訳をする。同じ釜の飯を食った仲だ。愛称で呼んでもかまわないと思う。


「村のみんなはあたしのことミーナって呼ぶっしょ?おばーちゃんとヨッシーにはミナミって呼んでほしいな」


「…分かった」


 不承不承(ふしょうぶしょう)という感じでOKが出た。字名ならもっとカッコいいのにしろよとか思っていそうだが、言わない。ミナミは笑顔で愛用の弓を構えた。


「そーれ、当たれ!」


 矢を放つと命中した。

 ミナミも全ての的の真ん中に当てた。


「お前も自慢するだけのことはあるな」


 皇子が褒めてくれる。だがこれでは弓比べにならない。


「引き分けにする?」


「それでもいいが…少し待て」


 皇子は不意に空を見上げる。そして矢をつがえると、弓を引き絞って空に向かって放った。ミナミには何も見えない。


 だが数秒待つと、矢が刺さった鴨みたいな鳥がどさりと落ちてきた。


「なんじゃそりゃー!!矢ぁ飛びすぎやろが!」


「今夜は鳥鍋だな」


 鳥を拾いながら、皇子がニヤリと笑った。呆気にとられたミナミは空を見上げるが、やはり雪雲以外何も見えない。


「チート過ぎる…」


 結果、弓の勝負は皇子の勝ちとなった。

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