表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/129

護良改めモーリー

            ◇




「また異世界人かい…て、こりゃまた良い男だね!」


 大家の老女は皇子の顔が気に入ったようだ。

 白い髪を頭頂部で結い上げた、薄い水色の瞳をした女だ。確かに日本人ではない。


「拾ったミナミが面倒見な。家のことをしてくれるんなら好きなだけ居ていいよ」


 小さな体に似合わず、豪気な物言いをする老人だった。


「ごめんねー。おばーちゃん、ツンデレだから」


 ミナミが朝食を並べながら皇子に謝る。

 『つんでれ』が何かは分からないが、老女の親切さは伝わった。


「いや。ありがたい。よろしく頼む」


 皇子は頭を下げて礼を言った。


「服がそれしか無いんだね?ミナミ、後で息子の部屋にあるやつを出しておやり」


「りょーかい」


 老女とミナミは2年を共に暮らしたという。二人は本当の祖母と孫娘のように見えた。




            ◇




 三人での朝食を終え、皇子はこちらの服に着替えた。


 シャツという筒袖の上着を羽織り、ボタンというもので前を留める。その上から黒い胴衣を着ける。下はズボンというぴたりと脚に沿った袴と、膝まである革の沓だ。


「着られた?うわ、めっちゃ似合ってる!」


 ミナミがおおげさに褒める。


「これは婆どのの息子の服なのか?少し大きいな」


 老女が小さかったので、勝手に小さい民族だと思い込んでいた。

 ズボンの(すそ)が三寸ほど余る。


「おばーちゃんの息子さん、騎士さんだったって。きっと大きい人だったんだよ」


「きし?」


「あー武士っぽい人?馬に乗って剣で戦う人」


(いくさ)生業(なりわい)にするもの。こちらでは騎士というらしい。


「死んじゃったんだって。5年くらい前に。おばーちゃんが良いって言ったら、裾上げするね」


「…そうか」


「んじゃ、寒いからこれを上に着て。村長さんちに行こう」


 分厚い毛織物を渡される。コートというらしい。毛皮で縁取られた頭巾がついていて、暖かい。それを着て、雪のちらつく中、村長の家を訪ねた。


「こんちわ~! 村長さーん!いるー?」


 ドアを叩きながらミナミが大声で問う。しばらくするとドアが開いた。


「ほいよー。あれミーナ?例の御仁(ごじん)起きたの?」


 中から、茶色の髪に青い瞳の髭面の大男が出てきた。六尺半以上はある。横も大きい。かの弁慶もかくやという巨漢だ。


「まあ、入ってっちゃ。寒いっしょ」


 村長は二人を招き入れた。




            ◇




「ふーん。ミーナの同郷。(もり)(くち)の婆さんが良いっちゃ()ーたんしょ?おまけに祭壇の客人なら、誰も文句言わんっちゃ」


 村長はのんびりとした口調で、村に留まることを許してくれた。『祭壇の客人』とは、稀に訪れる異世界人のことだそうだ。


「かたじけない」


「冬は暇だし、ゆーっくり慣れれば良いっちゃ。そういや名前は?」


「護良という。好きに呼んでくれ」


「モ…モーリョシ?」


 発音に難儀する村長にミナミが助け船を出す。


「モーリーで。良いよね?」


 後半は皇子に向けての確認らしい。


「構わない」


「分かったっちゃ。モーリーね」


 その時、家のドアを叩く音がした。村長の許しもなくドアを開け、皮衣(かわごろも)のようなものを着た男が入って来た。


「おとといの(あん)ちゃんかぁ。良かったねぇ、ミーナ」


 男がミナミに話しかけ、皮衣を壁に掛ける。こちらも髭の巨漢だ。皇子はこちらの人間の大きさの認識を修正した。


「おっちゃん、ありがとねー。ヨッシー、この木こりのおっさんがうちまで運んでくれたの。お礼言っといて」


 ミナミは急に皇子を妙な名で呼んだ。


(ヨッシー?モーリーではなかったか?)


「おっちゃん、この人モーリーね。しばらくおばーちゃんちで預かるから」


「そんなら安心だぁ。よろしくなぁモーリー」


 木こりの男が右手を差し出してきた。


「こちらこそ世話になった。今後とも頼む」


ミナミが小声で「右手で相手の手を握るの。握手。友好の証」と教えてくるので、握る。


「そんで何の用っちゃ。またボアが出たっちゃ?」


 村長が木こりに問う。男は用事を思い出したように、村長を見た。


「んにゃ。ウルフだぁ。湖の浜で足跡見たぁ」


(こん)冬はでら多いっちゃ。どうすべ」


 二人は狩りの話を始めたようだ。聞いたことのない獣の名に、興味が湧く。

 木こりの男が皇子を見た。


「雪が止んだら狩るべぇ。…そうだなぁ、モーリーも出てくれんかのぉ?」


「俺が?」


 急に誘われて驚く。


「あんたぁ、相当()()()よねぇ?」


 先ほどの握手のことか。皇子は内心、舌を巻いた。


「えっ!?何の話?ヨッシーをウルフ狩りに連れて行こうとしてる!?」


 ミナミが慌てた様子で口を挟んだ。


「ダメダメダメダメ!!!何言ってんの?一昨日(おととい)来たばっかの人を!マジで無いわ!」


(あん)ちゃんなら大丈夫だぁ。良い弓使いの手ぇしとるもん。ええよねぇ?モーリー」


 皇子は頷く。ミナミは不満顔だが、見知らぬ獣への好奇心が勝った。


「弓は貸してもらえるな?」


「明日までに届けるわぁ。練習しといてねぇ」


「助かるっちゃ~。村の男手が足りんで。狩りの支度はこっちでするけん、頼むっちゃ」


 村長も喜んでいた。


 こうして皇子は村の『うるふ』狩りに参加することになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ