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聖女

            ♡




 最近の皇子は忙しい。激務と言って良い。魔法騎士団の訓練と魔道具の検証に加えて、神殿での光魔法修行が始まったからだ。


 学園は夏前の定期テスト期間だった。授業もないので、今日は皇子のお供でミナミも王都の神殿に来ていた。


「光魔法を誰に習ってるの?」


 長い柱廊を歩きながら尋ねる。隣を歩く皇子は神官の服装だ。全く違和感がない。むしろ似合いすぎて怖い。


「先週までは大神官だった。今日から教師を変えると言っていた」


 ゆったりとした白い神官服に黒髪が映える。すれ違う女神官たちの視線が死ぬほど痛かった。




            ♡




「初めまして。モーリー様の教師役を務めさせていただきます、聖女クレーナと申します」


 そう挨拶したのは銀髪の少女だった。凝った刺繍が施された女神官の服を着て、目元をベールで隠している。

 

「宜しく頼む。聖女殿」


「ミーナ様も楽になさってください。今日はご挨拶と、結界魔法の講義だけのつもりですから」


 ミナミは心底驚いた。皇子の美貌に魅了されない女子は初めてだった。おまけにお供(ミナミ)にまで心配りを忘れない。


 聖女手作りの教材を渡され、結界魔法に欠かせない立体魔法陣の説明を受ける。その複雑な陣を皇子は即座に再現してみせた。


「お見事です」


「聖女殿の指導が良いからだ」


 淡々と会話する2人。温度の低さが似ていた。


「今日はここまでにしましょう。お疲れさまでした」


 聖女は立ち上がった。すぐに女神官がその手を取り、ゆっくりとドアまで誘導していく。


(この人、目が見えなかったんだ!)


 彼女の方が先に座って待っていたから気が付かなかった。見えなければ魅了されるはずもない。ちらりと皇子を見上げると、分かっているとばかりに彼は頷いた。


 盲目の聖女クレーナ。幼いころに神殿に捨てられ、ひたすら光魔法を磨き続けた少女。その治癒と結界魔法は神殿随一の実力を持つ。


「本当は貴族の子だって話です。目が見えないから捨てられたんだって」


 草むしりをしてた神官見習いの小僧を捕まえ、小銭で聖女の情報を引き出す。皇子は大神官と別室で密談中だ。


「ひどい親だね」


 ミナミは(いきどお)って雑草を引きちぎった。一応手伝っている。


「貴族は世間体を気にしますから」


「捨て子に光魔法の適性が無かったらどうなるの?」


「15歳まで孤児院にいられますが、その後は…」


 親のいない子供はまともな職には着けない。社会の底辺で一生を過ごす。盲目のクレーナに魔力が無かったら、今頃どんな仕事をさせられていたか。この世界は力の無い者に厳しい。ミナミは改めて痛感した。




            ◇




 今日は大神官5人全員が集まる会議だ。そこに皇子も呼ばれている。


「“聖人”?」


 聞きなれない言葉を聞き返す。大神官達は一斉に頷いた。


「そうです。モーリー様の治癒魔法を受けた者たちから声が上がっております。列聖すべきだと」


「聖人は言い過ぎだろう」


 せいぜい優秀治癒士程度だ。だが大神官達は頑なに列聖を主張する。皇子は根負けした。


「好きにしろ。だが俺は今後も剣を取るし敵も殺すぞ」


「構いません」


 一番若い南部管轄の大神官が笑顔で認める。皇子が治癒魔法を神殿に提供することを、始めは反対していた男だ。だが実際に欠損四肢や瀕死の重病人を治すのを見ると、(てのひら)を返した。

 

「列聖を機に、全土でルクスソリア神への帰依(きえ)を促す祭りを行います」


 南部大神官は利に(さと)いが、手を組むならこれくらい分かりやすい方が良い。


「つきましては、祭りで姿絵の販売を許可していただきたい。聖女クレーナとセットで。これは売れます!」


 何故だろう。ミナミと同じ匂いがする。今生の皇子はよほど商売人と縁があるらしい。




            ◇




「列聖おめでとう!聖人モーリー!」


 魔法騎士団の進捗状況を確認する会議前。どこで聞きつけたのか、王太子が早速揶揄(からか)ってきた。

 

「好きでなるわけではないぞ。言っておくが」


 皇子は不機嫌に答えた。後からやって来た騎士団長や王とも同じやり取りをし、げんなりする。


「だがこれでお前は動きやすくなったぞ。平民よりは聖人の方が聞こえが良い」


 王は満足げに言う。襲撃事件の褒美に叙爵の話があったが、(くだん)の重臣たちの反対で立ち消えになっていた。皇子自身は爵位など望んでいなかった。しかし、宮廷に出入りするための身分が足りなかったのも事実だ。


「聖人が友達だなんて新鮮だなあ」


「何の為に俺が神殿に近づいたと思っているのだ。もう二度と太子を危険に晒さないためだ」


 王国の守りの薄さ。次こそ先手を取る必要。滾滾(こんこん)と、呑気な王太子に説教をする。


「モーリーって爺やみたいだね。そんなに僕のこと心配してくれてるんだ」


「…一度、魔法騎士の特訓に加えてやろうか?能天気王子め」


 若い二人の気安い会話を、王と騎士団長は笑って聞いていた。だが次に皇子が言った言葉に、2人は顔を強張らせた。


「いつまでも俺が側にいると思うな。己の国は自身で守れ」

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