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魔獣討伐

            ◇




 鷲の頭と翼に獅子の身体を持つ魔獣グリフォン。100年以上前の文献にその名があるが、詳細な情報は無い。ただ1頭のグリフォンを倒すのに、多くの騎士が死んだことだけが記されていた。

 今回は領民と兵の機転でハンター数名の犠牲に(とど)まっている。真っ先に襲われた村には神官がいた。彼が光魔法でグリフォンを退けている間に村人は避難が出来た。


「神官の数が揃うまで、領兵数名が重傷を負った。“風刃(ウインドカッター)”で斬られたような傷だった。おそらく風魔法を使っている」


 子爵はグリフォンの能力を説明する。


「厄介なことに空から襲う。矢も届かん。…ただ、馬を怖がる様子だった」


「馬を?なぜだ?」


 意外な弱点に皇子は驚いた。


「分からん。騎馬が近づこうとすると嫌がる素振(そぶ)りをしたのだ」


 そこで子爵は騎馬隊でグリフォンを森に追い立て、神官たちの結界で閉じ込めた。だが日ごとに新たな魔獣が生まれて結界に攻撃をする。たまに結界を通り抜ける魔獣も出始め、それらを押し戻す戦いが繰り返された。


「魔獣は全てグリフォンとやらか?」


「いや。少なくとも3種類いる。10メートルを超える巨人と、青い炎を吐く黒いウルフだ」


「どちらも魔法を使うのか?」


「巨人は力が強いだけだ。大木を振り回し近づけさせん。黒ウルフが吐く火は(かす)っただけでも炭になる」


「弱点は?」


「不明だ。5人が骨を砕かれ、2人の腕が消し炭になった」


 子爵は辛そうな顔で首を振った。部下に重傷を負わせた責任を感じているのだろう。


 もう聞けることは聞いた。皇子は会議の終了を告げると、負傷者の元に案内するように言った。


「…良いだろう」


 子爵は許可した。魔獣の傷を確認するためと思ったらしい。医療班の天幕へと皇子たちを案内した。


 治癒魔法が使える神官は、ほとんど結界維持の為に動けない。負傷者たちは手足を失ったまま放置されていた。


治癒(ヒール)


 皇子は一瞬で全てを治した。見ていた子爵や神官は驚きのあまり声を失う。通常の治癒魔法ではあり得ない欠損四肢の再生だ。隠すべきだが、負傷兵たちを見過ごすことはできなかった。


 神官は涙を流してひれ伏した。


「あなた様はルクスソリア神の()使いです!」


 傷の癒えた兵たちも泣いて喜んでいる。


「時が惜しい。動ける者は魔法騎士団の援護に回れ。お前も結界維持に行け」


 立ち上がる兵と額ずく神官に指示を出す。いよいよ魔獣討伐が始まった。




            ◇




 森の前の開けた牧草地に魔法騎士団が整列した。500名を15の中隊に分け、1隊で1頭の魔獣を受け持つ。


「今から結界内に入る!全員騎乗!」


 主将騎士の号令で一斉に騎士たちが動きだした。彼らの実力を試すため、皇子たちは手を出さない方針だ。


「教官。では行ってまいります」


「ああ。危なくなったらすぐ呼べ」


「はっ!」


 1000名の魔法騎士の中で最も優秀な者を主将とした。まだ若いが的確な判断ができる、浅黒い肌の男だ。


 騎士が森の際まで馬を進めると、異変を察知した魔獣どもが森から出てきた。報告より数が増えている。咆哮をあげながら騎士に襲い掛かる魔獣を、すかさず騎士たちが1頭ずつ包囲した。

 グリフォンの風魔法を相殺し、巨人は足を埋める。黒ウルフの青い炎はバリヤーで防ぐ。騎士たちは魔法で巧みに敵をを足止めした。

 

 攻撃を防がれた魔獣が(ひる)み始める。主将が声を張り上げて指示を飛ばした。


「前衛は防壁を維持しろ!連続攻撃!休ませるな!」


 15頭の魔獣と魔法騎士の戦いは、騎士の圧勝で終わった。グリフォンは魔力を載せた矢で撃ち落とされ、首を落とされた。巨人の身体は魔力を載せた剣で切り裂かれた。黒ウルフも目を潰した上で焼かれた。


「あたしたちの出番無いね」


 結界の外から見ていたミナミが不満をもらす。人は斬れないが、魔獣は殺すつもりだったらしい。


「無い方が良い。奴らの自信になる」


 皇子は満足だった。教え子たちは素晴らしい成長ぶりを見せてくれた。


「魔獣は死ぬと消えると言われてますが、消えませんね」


 水晶球で討伐の記録を撮りながら、リコリスは首を傾げた。老師が死体が欲しいと言っていた。土産にしても良いと思い、皇子は結界に入り、グリフォンの死体に近づいた。


「御使い様。触りませぬように。穢れがうつります」


 あの神官がいつの間にか側に来て、注意を促す。皇子は魔獣の処理法を知っているか訊いた。


「浄化すれば魔石を残して消えるはず。ただ、今は皆魔力切れでして…」


 申し訳なさそうに神官ができない理由を言った。


「では俺がやろう。結界も解いて良いぞ」


 自身の魔力が無尽蔵なので気が付かなかった。皇子が魔獣の死体全てに浄化の光魔法をかけると、神官の言う通り、拳大の宝石のような石が残った。それは触っても良いと言われたので、騎士に拾わせる。


「何という浄化の力…」


 神官はまた涙ぐんで(ひざまず)いた。崇拝の熱い眼差しが鬱陶しい。


 討伐の終了を告げ、子爵の元へ戻る。到着してから半日も経っていない。領兵たちは驚きと喜びの声で魔法騎士団を迎えた。


「今日は領内に泊まらせてくれ。明日、森の調査に向かう」


 騎士に怪我をした者はいなかった。だが強行軍で疲れただろう。子爵に彼らの休む場所の提供を頼んだ。


 皇子たちは子爵の屋敷に招待された。ささやかながら夕食会を催してくれるらしい。リコリスは久しぶりの実家だ。


「母と弟妹たちが、ぜひにと…」


 気恥ずかしそうにリコリスが誘う。ミナミは聞くまでもない。夕食会用の衣装を買いに行ってしまった。


「分かった。招待を受けよう」


 子爵とは良好とは言い難い関係だ。彼の娘を突然奪った仇の自覚はある。あちらからの和解の申し入れだと感じた皇子は、その招待を受けることにした。

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