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赤と黒

            ♡




 座学の授業を見学して戻ってきたら、皇子と握手していた赤毛の美女が爆弾発言をした。


「ぜひ、結婚を前提に私と付き合ってください」


 周囲にいた人々が驚いて見る。ミナミが目を離した隙に何があったのか。金髪ロリ美少女の次は赤毛のセクシーお姉さんだ。


「断る」


 皇子は安定の鉄面皮で手を離すと、ミナミたちの方へ歩き出した。


「あきらめませんわ。またお会いしましょう。モーリー様」


 後ろから美女が言うが、彼が振り向くことはなかった。




            ♡




「何あれ!お色気ババアか!?」


 帰りの馬車でミナミが怒り狂う。皇子に触ったうえ、プロポーズまでしたことが許せない。


「ミナミ。口が悪い」


「だってヨッシー!今後も会うんでしょ。あんな…」


 美人でナイスバディで色気たっぷりの女と。自信満々な、いけ好かない女と。


「ロッソピーノ伯爵の嫡女じゃろ。魔法士はたいがい変わり者じゃ。気にするな」


 老師がなだめる。


「リコだって嫌でしょ?!」


 のんびりと構えている忠臣娘に同意を求める。


「いいえ。だって、全然宮様好みの女子(おなご)ではありませんから!」


 リコリスは余裕の笑みを浮かべて言い切った。


「黙れ彦四郎。それ以上口を開くな」


「はっ…」


 不機嫌な皇子が、久々に前世の名で呼ぶ。忠犬は口を押えた。


「ヨッシーの好みって…?」


「その話は終わりだ」


 有無を言わせないオーラに、ミナミは口をつぐんだ。




        ♡




 魔法騎士育成計画が始まった。魔法の基礎訓練が終わった騎士から、皇子の地獄の特訓コースに突入する。思い込みが無くなると、騎士たちの魔法力はメキメキと上達していった。

 

 同時に魔法学園で魔道具の使用試験も始まる。皇子を一人で学園に行かせたくないので、ミナミは学園の聴講生になった。平民は学生にはなれないが、襲撃の件の褒美として通えることになったのだ。授業も楽しいし、あの美人を牽制もできる。一石二鳥だ。


 まれに王太子にも学園で会う。皇子と3人で立ち話などしていると、女子たちがうっとりと眺めていた。学園にも推しの会が広がっている。ウィス男爵令嬢が友達を紹介してくれたりして、ミナミは束の間学生生活を満喫していた。


「あなたがミーナさん?」


 ある日、ミナミは黒髪の美少女に呼び止められた。紫水晶みたいな瞳をした令嬢だ。聞けば、王太子の周りをうろつく平民女の噂を聞いて声をかけたそうだ。


「いや、ぜんぜん関係ないです。弓術教えてた時期はあったけど、今は他人です」


「そうだったの。ごめんなさい。お友達が忠告をしたほうが良いって言うものだから…」


 彼女はイザベラと名乗った。王太子妃候補の侯爵家令嬢で、忠告に来たと言う割に気弱な態度だった。二人で高位貴族専用のティールームでお茶を飲んでいる。これも令嬢のおごりだ。


「…本当に友達なんですか?王太子妃って、将来の王妃ですよね?」


 (いじ)めまでいかずとも、舐められてるような気がした。


「多分、私は選ばれないわ。だって髪が…」


「髪?」


 ミナミはピンときた。王家は金髪碧眼ファミリーだ。黒髪は忌避されるのだろう。


「それに属性も地味なの。土と闇だから」


「闇ってどんな魔法なんですか?」


 皇子も持っているが見たことがない。興味があったので訊いてみた。


「物を腐食させたり、呪いをかけたり…忌まわしい魔法が多いらしいわ。だからあまり習えないのよ。影に潜って移動することもできるわ。どちらにしても暗いし…」


「敵の足場を腐食させたら有利になるし、影に逃げられたら暗殺者なんか怖くないじゃないですか」


 使い方次第では無敵な気がする。それに土魔法があれば、魔道具無しでもバリヤーが張れる。魔力が足りなければ魔道具を使えばいいのだ。


「今度、モーリーっていう魔道具作る奴紹介しますよ」


 気弱な王太子妃候補の令嬢に同情して、励ますように言った。


「誰を紹介するって?」


 するとそこに王太子が現れた。皇子とお茶を飲みに来たらしい。イザベラは慌てて立ち上がり、令嬢の礼をとった。


「王太子殿下にご挨拶申し上げます」


「やあ、イザベラ。ミーナと友達になったのかい?」


 殿下が笑顔で声をかける。皇子と令嬢は初対面なので、まずは紹介する。


「イザベラ、こちらはモーリーだ。僕の元弓術指南で、友達だよ。モーリー、こちらはイザベラ・ノバリザイア侯爵令嬢だ」


 王太子は女子会中のテーブルに自分たちの茶を運ばせる。


「何の話をしてたの?」


「闇魔法ってどんな魔法か教えていただいてました」


「イザベラは土と闇属性だったね」


「謎めいててカッコいいい属性ですね!令嬢の黒髪も凄く綺麗だし。黒髪最高!」


 ミナミが持ち上げると、令嬢は赤くなった。


「何を言ってるんだ。お前も黒髪ではないか」


 皇子は呆れて口を挟んだ。無意識に自画自賛してしまっていた。


「あ、ヨッシーとあたしと令嬢で、3対1で黒髪の勝ちね!」


「訳わからん勝負をするな。確かに闇魔法は不明な部分が多いな。俺もまだ手探りだ」


「どんなのができる?今やってみせてよ」


 王太子が無茶振りしてくる。仕方なく、皇子はパチリと指を鳴らした。するとテーブルの周りだけ夜になった。煌めく星が無数に浮かぶ。プラネタリウムみたいだ。


「綺麗…」「そうだね…」


 令嬢はため息をもらした。王太子も上を眺めて驚嘆する。


「…こうして見ると、闇の中の黒髪は美しいね。微かな光でそんな風に輝くんだね」


 王太子が令嬢を見て目を細めた。


「口説くなら2人きりの時にしてもらえます?」


「全くだ」


 珍しくミナミと皇子の意見が一致する。令嬢は可憐な笑顔を見せた。


「俺の故郷では長い黒髪が美人の条件だ。自信をもつことだ」


「モーリー、それ褒めてるの?」


「もちろんだ」


「それ、平安時代の美人じゃん」


 3人でわいわい言い合っていたら、令嬢がますます笑った。


(と、言うことはヨッシーの好みって…黒髪のロングヘアーってこと??)


 ミナミは密かに髪を伸ばすことを決意した。

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