王立魔法学園
◇
学園長に面会を申し込み、了承を得た。老師とその弟子の4人は、馬車で王都の郊外にある王立魔法学園に来た。広大な土地を有する、貴族子弟にふさわしい壮麗な建物群だった。
すぐに学園長室に案内される。
「ようこそ魔法学園へ。お久ぶりでございます、老師」
そう言う学園長も老齢と言っていい女性だ。互いに自己紹介をし、茶をふるまわれる。こちらの用件は書面で伝えてある。王命に近い頼みなので否とは言えないだろう。問題は教師の質と借りられる人数だ。
「魔法基礎を教えることのできる教師は20名ほどいます。学校の授業もありますし、交代で1日に出張できる人数は10名が最大になるかと」
学園長は申し訳なさそうに言う。それでもだいぶ助かる。今日は教師の面接と意思の確認をする予定だ。これは老師に任せて、皇子たちはミナミの希望で授業を見学させてもらうことにした。
◇
「こちらは実戦魔法の授業です。護身にもなるので女子生徒も多いです」
野外の訓練場で、火魔法や水魔法で人型の的を攻撃する訓練をしていた。10代半ばの貴族子女が懸命に魔法を飛ばす。数名は的まで届かず、苦戦していた。
「あっ!モーリー様!」
生徒の1人が走り寄ってきた。訓練着は動きやすいよう、男女共通のズボン姿だ。普段はドレス姿の令嬢だろう。見覚えがあった。
「ミーナ様、リコリス様も。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう!ウィス男爵令嬢!いつぞやはありがとうございました!」
リコリスが挨拶をする。園遊会で皇子たちと一緒に王に挨拶に行った男爵家の令嬢だった。ミナミも気さくに声をかけた。
「やっほ~サシャちゃん。苦戦してるね」
的まで届かない方の生徒らしい。令嬢は眉を下げて情けなさそうに笑った。
「魔力量はあるんですが…。人に当てると思うと怖くて」
「分かる!血とか見たくないよね。粉々にぶっ飛んだら嫌だし」
「ミーナ様、普通人間は粉々になりませんよ」
リコリスが修正する。
「令嬢は防御向きの才があるのだろう。手を」
皇子が手を差し出すと、彼女はおずおずと小さな白い手を載せた。右手の中指に開発中の指輪型魔道具を嵌める。
「的を1つ借りても良いか?」
教師に許可を取り、令嬢を的に向かわせた。防壁魔法の張り方を教える。
「あの的を包む透明な壁を思い浮かべてくれ。厚さは30センチだ。ガラスよりも固く、全ての衝撃を弾く壁だ」
「は…はい」
魔道具が彼女の魔力を吸い、的の周囲に防壁魔法を展開する。
「ミナミ。火魔法を打て。強度は弱だ」
「ほいよ」
直系1メートルほどの火球が的にぶつかる。衝撃波が伝わり、教師も生徒も驚いて固まった。
火球が消え去っても的は無傷だった。
「リコリス。雷だ。強度は中」
「はっ!」
リコリスが雷の槍を投げ放つ。防壁は見事それを弾いた。
「すごい…」
令嬢は信じられないといった顔で的を見た。
(やはり防御魔法向きだったな。これほど使いこなせるとは思わなかったが)
指輪を返してもらいながら、皇子は考えた。自分やミナミ、リコリスは強力すぎて魔道具の実験ができない。学園には教師の派遣だけでなく、防御魔法の研究にも協力をしてもらえないか。見学を終え、老師と学園長に相談してみることにした。
◇
「属性以外の魔法を使える魔道具ですか。それはまた…」
学園長は指輪をしげしげと眺めた。老師も皇子の提案に同意した。
「そろそろ実用化に向けてデータを集めたいと思っていたしな。学園の協力が得られれば心強いの」
「問題は安全性です。万が一、生徒たちに怪我をさせたりしたら…」
また訴訟になる。心配する学園長に、皇子は自分の“再生”を担保に交渉する。
「実験には必ず俺が立ち会おう。俺の“治癒”であればどんな怪我でも治せる」
「ですが…」
結局、老師が全責任を負うことで話はついた。
ミナミとリコリスは座学の授業を見学に行っている。皇子と老師は派遣される教師たちと顔合わせを行った。
広い会議室に20名の基礎魔法の教師が座る。皇子はその前に立ち挨拶をした。彼が進み出るとざわめきが起こる。教師の半数は女性だった。魔法の才に男女の優劣はないらしかった。
計画の詳細は老師が伝えている。皇子は襲撃の際の敵方の実力を“スクリーン”に映し出して伝えた。
「…このように複数人の魔力を合わせて大魔法を打つ方法がある。戦いは1対1、という常識は捨ててもらいたい」
「“氷槍”が弾かれてますね?どんな魔法で?」
20代半ばの長い赤髪の女教師が質問をしてきた。
「“防壁”だ。魔力を喰いすぎるので、今のところできる者は限られる」
「さきほど実戦魔法の授業で生徒にやらせてましたよね?」
どうやら見られていたようだ。皇子は指輪型魔道具を取り出した。
「老師と開発した魔道具を使わせた。効率的な魔力変換で防壁を展開できる」
「そんなことが可能なんですか?」
「学園で順次、試験していただく予定だ。その時試してくれ」
説明を終え、会議室を出ようとすると、先ほどの赤髪の女教師が声をかけてきた。
「先ほどは失礼しました。ロッソピーノ伯爵家嫡女、エリザベスと申します」
「ああ」
自己紹介は済んでいる。皇子は出された右手を素っ気なく握った。そこへミナミたちが戻ってくる。手を引こうとしたが、赤毛の女は離さない。髪と同じく赤い唇がとんでもないことを言う。
「モーリー様。ぜひ、結婚を前提に私と付き合ってください」




