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黒い悪魔

            ◇

 



 王太子達を脱出口に逃がした後、皇子とリコリスは敵の魔法士と戦闘になった。


 50人を超える魔法士を揃えてくるとは、驚嘆に値する。ほとんどの者が火、風、水魔法を操り、なかなか強力な攻撃を繰り出す。

 それでも身体強化を併用する皇子たちには掠りもしない。ミナミがいない今、遠慮なく首を斬り飛ばす。リコリスは雷魔法で敵を丸焦げにしている。止めを刺すことにもためらいは無い。


「あ…悪魔だ…!(かな)うわけがない!」


「黒い悪魔だ!助けてくれ!」


 皇子の紺色の貴族服は返り血を吸い、黒色に変じていた。顔も手も赤く染まり、血まみれの剣は一振りで敵を両断する。悪鬼さながらの魔法剣士に恐れをなした敵は敗走し始めた。もちろん逃すつもりはない。皇子は追おうとした。


 その時、屋根の上で戦っていたリコリスが叫んだ。


「宮様!王城が攻撃されています!」


「何だと?!」


 逃げる魔法士たちを風の大鎌で薙ぎ払って全滅させると、屋根に飛び上がる。遠く王城の上に多くの氷の槍が降っているのが見えた。あそこには王と王太子、ミナミがいる。


(まだあんな大魔法を打てる魔法士がいるのか?)


 舌打ちをして駆け出す。2人の主従は屋根伝いに王城に向かった。着くまでに3回の攻撃が行われる。ミナミが防壁でしのいでいるはずだが、さすがに持ちそうにない。最速で駆け、際どいところでたどり着いた。


「ミナミ!!」


 屋根に空いた大穴から、倒れる寸前のミナミが見えた。周囲を見渡すと、4人の魔法士が魔力を合わせて氷槍(アイスランス)を打とうとしている。


「させるか!」


 皇子の刃が手近な敵を斬る。一角が欠け、魔法は不発に終わった。残る3人が襲い掛かってくる。今までの魔法士と比べて、明らかに手練れだった。リコリスも追いつき、屋根の上で2対3の戦いが始まった。


「ミナミ!防壁を止めろ!俺が張る!」


 王たちを守る防壁を代わる。皇子の魔力はほぼ無限だ。一層厚く頑丈なものに張り直し、ミナミを休ませることができた。その間も敵の氷槍(アイスランス)を叩き落とし、1人を仕留めた。


「何という戦いだ。これが魔法戦か…」


「騎士では役に立たんな」


 騎士団長と王は驚きを隠せない。皇子が相対する敵は風魔法使いで、空中戦となっていた。互いに上から魔法を叩きこもうと激しく入れ替わりながら攻撃し合うさまを、騎士たちは呆然と見つめた。

 リコリスは雷の剣で氷の剣と打ち合っていた。こちらも人間離れした動きで、飛び散る光の残像は通常の視力では追えなかった。


「宮様!」「応っ!」


 五分に見えた戦いだったが、皇子とリコリスの方が上手く連携していた。リコリスが強力な光球(ライト)を出し、目が眩んだ氷魔法使いの腹を蹴ると、風魔法使いにぶつかった。体勢を崩した隙を皇子は見逃さず、炎の大刀で2人まとめてぶった切った。


 リコリスを屋根に残し警戒に当たらせ、皇子は下に下りた。大の字に倒れているミナミに駆け寄る。


「大丈夫か?」


「死ぬかと思ったわ…」


「よくやった。さすがミナミだ」


 青い顔をしているが話もできる。問題は無さそうだ。


「モーリー!初めて見たよ。あれが魔法戦なんだね」


 王太子が握手を求めて右手を差し出す。皇子は血まみれの己の手を見せた。


「止せ。汚れるぞ」


「僕らを守るために獅子奮迅の働きをしたんだ。当然じゃないか」


 血が付くのも気にせずに、手を握る。皇子は苦笑した。


「今日ばかりは早く風呂に入りたい」


「あたしも…」


 ミナミが下から賛同する。リコリスも屋根の上から手を振って答える。


「勝ちましたね!祝勝会もしましょう!」


 笑い合う3人を、周りは複雑な表情で見ていた。図らずも、この襲撃は魔法士の恐ろしさを知らしめてしまった。


 国家の中枢があまりに簡単に危機に晒された。もし王太子の弓術指南が居合わせなかったら、被害は甚大だったろう。


 これを機に王は魔法士の増員と強化に取り組むことを表明する。




             ◆




 老師の魔法士団長復帰が決まった。現団長があの襲撃で死んだからだ。


「正直、儂が居たとしても勝てたとは思えん」


 王城の小さい部屋で、騎士団長、王、王太子の前で老師は襲撃を評した。ノースフィルド王国は騎士の国だ。魔力持ちはたいてい騎士を目指す。魔法士になる者は少ない。魔法の研究も進んでいるとは言い難い。


 そこを突かれたような襲撃だった。賊の正体はまだ不明だが、早急に強力な魔法士に対抗する手段を持たねばならない。王は老師に魔法士育成計画を命じた。


「モーリー(レベル)とは言わん。あの襲撃犯程度の魔法士を最低500名。2年以内だ」


「それは…今の魔法学園のままでは無理じゃ。貴族の子弟のみでは魔法士は増えぬ。そもそも危険な職となる。平民の魔力持ちを鍛える方が早いだろう」


 王の無茶な注文に老師は唸りながら答える。貴族は魔力が多いと言われるが、平民は魔力検査を受ける機会が少ない。実際の比率は不明なのだ。


「いっそ、彼にも協力してもらいませんか?」


「モーリーにか」


 王太子が提案すると、父王は眉根を寄せて考えた。


「私も賛成です。王太子殿下の護衛騎士の強さは証明済みでございます」


 騎士団長も賛同する。


「あの襲撃で一人も死ななかった…よし。モーリーを呼べ」


 王は決断を下した。さらに借りを作ることになるが、彼には救国の英雄となってもらう。

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