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脱出

            ◆




 王太子が異変を感じたのは、執務室にいた時だった。ドンという爆発音が聞こえたかと思うと、すぐに階下から叫び声が近づいて来た。扉がノックも無く開けられ、護衛騎士が飛び込んでくる。


「殿下!襲撃です!」


 すぐさま侍従たちが王太子を囲み、地下の脱出道へと向かう。だがそこへ向かう階段はすでに敵に抑えられていた。仕方なく大ホール奥へ移動し、籠城する。

 護衛騎士たちが奮戦するが、敵は無尽蔵に沸いて出てくる。上級魔法士もいる。たちまち重軽傷者が出てしまった。中には腕や脚を失った者もいたが、ここではろくに治療もできない。

 こちらの状況は伝わっているのか。情報が一切入ってこない中、焦りと不安が広がる。


「下の様子がおかしい?」


 籠城を始めて数時間後、一番外側のバリケードを守る騎士から報告が来る。階下の敵が何者かと交戦しているようだと。


「味方の救援がきたのか?」


「確かめて参ります!」


 騎士が向かってすぐに、扉の外の窓ガラスが割れる音が響く。そして、彼の声が聞こえた。


「太子!どこだ!」


(モーリー!)


 王太子は安堵した。師匠が来てくれた。もう安心だ。そう思ったら、張り詰めた全身の力が抜けた。


 現れた救援はたったの3人だった。弓術指南の師匠と令嬢騎士。


 助けに来たと言う師の姿は返り血で染まっている。抜き身の剣を下げたその壮絶な美貌に、皆声が出ない。王太子の無事を確認すると、彼は深く息を吐いた。どれほど心配してくれたのかが伝わる。


 そして“治癒”で騎士たちの重傷を一瞬のうちに治した師は、王城への脱出の指示を出す。騎士たちは反転攻勢に雄たけびを上げた。

 

 師は先陣を切ると言う。その腕を掴み、王太子は礼を言った。すると思いもがけない言葉が返ってきた。


「礼を言うのはまだ早いぞ。()()


 そして肩に手を置いて王太子の目を見る。驚きと喜びとが映る。互いに友を得た瞬間だった。




            ♡




 皇子を先頭に王太子を囲む陣形を組む。大ホールの扉を開けると、敵が待ち構えていた。賊は王太子宮の使用人の服を着ている。何時(いつ)、どうやってすり替わったのか。ほとんどが男だがたまにメイドも混じっていた。


「どけ!逆賊ども!」

 

 珍しく熱くなっている皇子が風刃(ウィンドカッター)を放つ。前から3列目くらいまでの敵が斬られた。その後は乱戦となった。


「女官さんとか、どうしたんですか?」


 ミナミは王太子に尋ねた。


「先に逃げたと思う。非常時の対応ではそうなってるよ」


「良かった~。心配だったんです」


 のんびり話す場ではないのだが、そうでもしないと現代日本人にはキツい。皇子とリコリスは戦闘民族なのでバンバン敵を殺す。ミナミにはそれはできない。土魔法で団子に閉じ込めるか、水魔法で窒息寸前まで水攻めにするか。せいぜい小規模な爆風で相手を吹っ飛ばすしかできない。

 皇子はミナミをディフェンス要員にした。ならばと守りの魔法には磨きをかけてきた。今も王太子の周囲にはバリヤー状の透明な防護壁を展開している。流れ矢も流れファイヤーボールも弾くはずだ。


 敵の魔法士は結構強い。風刃(ウィンドカッター)で護衛騎士たちが苦戦をしたらしい。だが皇子には遥かに及ばない。彼は敵を剣で切り捨てながら、魔法士に魔法攻撃を喰らわしている。本当は首を斬り飛ばすこともできるが、ミナミの為にあまり残酷でないやり方で戦ってくれているのだ。


 玄関ホールの敵を殲滅する。王太子宮の入り口全てを土魔法で塞ぎ、追手を足止めした。


「この穴から脱出するぞ」


 ミナミは穴の仮蓋を外し、下りやすいように斜めに直して階段を加えた。王太子と100名の護衛騎士全員が下りきる前に、宮殿の入り口を塞いだ土壁にヒビが入る。


「うそぉ。あたしの土壁が壊されそう!」


 先頭から皇子が戻ってきた。リコリスと最後尾で敵を迎え撃つつもりだ。


「ミナミは先に行け!太子を守り抜け!」


「ヨッシー、リコ!待ってるから!」


 ミナミと王太子は穴に下りて逃げる。心配はしていないが、一緒に戦えない自分が歯がゆい。護衛騎士たちと王城まで走りながら、顔を歪めた。


「ミーナ。大丈夫だよ。彼らは強い」


 王太子が慰めてくれる。彼女は無言で頷くと涙を(そで)で拭った。




            ♡




 数分後、王城の庭に着いた。騎士団長がほっとした顔で迎えてくれる。


「殿下!ご無事で何よりです!」


「モーリーたちのお陰だ。急ぎ王太子宮に救援を。彼らが新手を押えてくれている」


 穴から王太子一行が全員出てくると、一人として死者も怪我人もいないことに王は驚いていた。


「全員無傷だと?本当か?」


 騎士団長にざっくり向こうでの戦闘の様子を伝え、ミナミは王太子の側に戻った。まだ戦闘は終わっていない。気を抜くには早い。


 ふと、ミナミは頭上に違和感を感じた。本能的にバリヤーを展開する。勘のいい騎士たちも気づく。


「何だ!?」


 次の瞬間、王と王太子のいる部屋の真上から何かが降ってきた。氷槍(アイスランス)だ。ミナミのバリヤー外の物全てが氷の槍で突き刺され、吹き飛ぶ。


「敵の魔法攻撃です!」


 ミナミの叫びと同時に、第2波が見えた。王と王太子を中心に最大級に頑丈なドームを展開する。その場にいる人間全てをカバーすると、馬鹿みたいに魔力が喰われた。

 

「何だこれは?!見えない壁があるのか?」


 王が頭上で氷槍(アイスランス)が弾かれるのを見て、ミナミを見た。王太子も彼女の魔法だと気づく。


「ミーナ?君が防いでくれているの?」


「ごめん殿下!今しゃべる余裕ないっ!」


 恐ろしく不敬だが非常時なので許してほしい。身振りで皆にもっと集まってバリヤーを小さくしたい旨を伝える。


 第3波、4波をしのぐと、さすがに魔力が枯渇してきた。


(助けてヨッシー!)


 脂汗を流しながら耐えていると、皇子の声が聞こえた。


「ミナミ!!!」

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