訴えられた皇子
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リコリスを連れて園遊会に戻ると、推しの会メンバーの雰囲気がおかしかった。どうやら皇子とリコリスが抱き合っている場面を、見られてしまったらしい。そこにミナミが現れて3人でどこかへ消えたので、修羅場があったと誤解されていた。
「違う違う!えーっと、ヨッシーを見て気を失いかけたリコリス嬢を、介抱してただけだって!」
「まあ、そうでしたの?」「分かりますわ!初めてモーリー様をお見かけしたのですね?」「ヴィレッジ子爵令嬢も会員ですわね!」
推しの会が活気を取り戻す。
「は、はいっ!私もモーリー様にお仕えしたくて!」
宮様呼びは禁じた。家族を説得するまでは皇子との仲(?)は秘密にするように言い含めておく。
ミナミとて、貴族令嬢が家族と縁を切るようなマネが、簡単にできるとは思っていない。だがそれは彼女が自身でやり遂げねばならないのだ。
(がんばれ、リコリスちゃん)
心の中でエールを送り、園遊会はつつがなく終わった。
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(…と思っていた時もありました…)
皇子とミナミは、一枚の訴状を眺めてため息をついた。園遊会後、一週間もしないうちに皇子が訴えられた。原告はヴィレッジ子爵。つまりリコリスの父上。罪状は“リコリス令嬢を誑かし、貴族籍離脱を示唆した罪”。リコリスの説得は見事失敗したらしい。今は老師も交えて相談中だ。
「老師、こっちの裁判って、どんな感じなの?」
「貴族が平民を訴えることなど、滅多にないがの…。貴族同士の裁判と仮定すると、原告と被告、両者の言い分を聞いて、王が判決を下す」
やはり三権は分立してなかった。
「弁護士っているの?」
「弁護人か。どこの家門も一人は法律の専門家を雇っておるな」
「老師のウチは?いるの?」
「儂は自分でしてきた。この国の法律くらい頭に入っとる」
さすが天才魔法士だ。老師を弁護人にして裁判に臨むことにする。だが証人がいない。リコリスは原告の娘で、被害者扱いだ。裁判の場に来ないかもしれない。
「リコリスちゃんが話してくれなきゃ、絶対負けるよ~。こんなインチキ裁判」
「ヴィレッジ子爵と話すことはできないか?」
ミナミが弱音を吐くと、皇子は自ら説得工作を提案する。
「訴状が出された時点で接触はできん。遅かったな」
老師が残念そうに言う。普通は裁判沙汰になる前に、交渉を重ねるものらしい。こちらが平民だからと舐められている。
(絶対負けん!)
ミナミは奇策に出ることにした。
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リコリスは軟禁されている。その情報は推しの会メンバーから手に入れた。お見舞いと称して、令嬢たちの一団でヴィレッジ子爵邸に押し掛けた。ミナミもその中に紛れこむ。
裁判の件を隠したい子爵は、仕方なく令嬢たちをリコリスの部屋へ通した。
「ミーナ様!皆様も!」
リコリスは涙を浮かべながら駆け寄ってきた。やつれてはいるが元気そうだった。
「申し訳ございません!父が…」
「シーッ!声を落として。皆、後はよろしく」
ミナミはリコリスをバスルームに連れていく。他のメンバーは姦しくおしゃべりを始めた。メイドに金をつかませて、大人しくさせるのも忘れない。
二人きりになるとリコリスは泣き出した。
「宮様にご迷惑をおかけして…。情けなくて死にたいです!」
「死ぬ前に協力しな。あんた裁判来れないでしょ?」
ミナミは貴重な時間を惜しんで本題に入る。水晶球を取り出すと、説明を始めた。
「記憶を映し出す魔道具だよ。これにあんたの最期の映像を入れてほしい」
「…?」
「死ぬとこなんて思い出したくもないだろうけど。ヨッシーの為に頑張って」
皇子の名を出されると、リコリスの目が輝きだした。
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訴状が届いてから1週間後。皇子は裁判のため、王宮に召喚された。弁護人は老師。ミナミは証人としてついていく。裁判が行われる場所は大きな会議場のようなところだった。
裁判官役の王が正面に座り、王の右手側が被告人席、左側が原告席となっている。向こうにはすでにヴィレッジ子爵とその弁護人が座っていた。
子爵はミナミが思っていたより筋肉質な中年男性だった。頑固そうな顔を厳しく引き締めている。皇子たちが議場に入ると、すごい目で睨んできた。貴族服を着た皇子は素知らぬ顔で着席する。
「国王陛下のお成り!」
王が入場し、開廷を宣言する。なぜか王太子を伴っている。
議場には原告側2人と被告側3人、王と王太子にその護衛たちが揃った。
まずは検事役の向こうの弁護人が罪状を挙げる。
「…そのような経緯でリコリス令嬢と接触した被告は、その容姿でもって令嬢を誑かし、貴族籍の離脱を唆しました。おそらくは令嬢を己の支配下に置いて搾取する目的があったと思われます。被害者である令嬢は、園遊会以降、被告の元に行くために支離滅裂な話をしております。洗脳されている可能性もございます」
「ほう。どんな話だ」
明らかに面白がっている王に訊かれると、弁護人は子爵を見た。今度は子爵が進み出る。
「恐れながら申し上げます。聞くに値しない戯言でございます」
「良い。聞かせろ」
子爵は娘の話を端から信じていなさそうだった。王の命令で仕方なく、子爵は話し始めた。




