表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/129

彦四郎との再会

            ◇




 ミナミが用を足す間、皇子は中庭で待っていた。令嬢たちから逃れられて一息つく。何とはなしに中庭の花壇を眺めていると、強烈な視線を感じた。思わず振り返る。20メートルほど離れた処から、一人の令嬢が皇子を凝視していた。


(誰だ…?)


 巻いた茶色い髪を垂らし、黄色いドレスを着た可愛らしい令嬢だ。年のころはミナミと同じくらいだろうか。

 目を見開き、ただならぬ表情で彼を見つめている。


 ふいに彼女は駆け寄ってきた。その速さが尋常ではない。縮地のように瞬時に距離を詰められ、皇子は飛びのいた。


(この娘、何者だ?!)


 武器は手にしていない。細い二の腕を伸ばしてくるだけだ。狭い中庭で後がなくなった。令嬢は皇子の胴にしがみついてきた。皇子は倒れないよう受け止めた。


 殺気は感じないが、身体強化を使って彼の身体を捕らえた。新手の罠か刺客か。皇子は彼女の肩をつかんで引き剥がそうとした。だが剥がせない。頭を殴り飛ばすか、蹴り上げようかと身構える。その時、令嬢が叫んだ。


「み…宮様!大塔(おおとう)の宮様!!」

 

 見知らぬ娘が、知りえぬはずの称号で呼んだ。皇子は動きを止めた。令嬢は彼の胸に顔を埋めて大泣きしている。


「そなた、何者だ!?」


「うっうっ~、彦四郎でございまずぅ~」


 皇子は衝撃を受けた。村上彦四郎義光。吉野城が落ちる時、皇子の身代わりとなって死んだ側近だ。


「まこと彦四郎か?」


「まことでございますぅ。宮様ぁ~!またお会いできて、嬉しゅうございますぅ~!」


 彦四郎を名乗る令嬢は号泣して離れない。皇子も茫然とその肩をつかんだまま立ちすくんでいた。


「…ヨッシー?何やってんの?」


 そこへミナミが戻ってきた。不審な目で二人を見ている。明らかに誤解をしている。皇子は、そのままの体勢で説明した。




            ◇




「…生まれ変わったら、女の子だった、と」


 何とか令嬢を引き剥がし、場所を庭園の外れの東屋に移す。ミナミは不機嫌な声で令嬢の尋問を始めた。


「そうです!気が付いたら、子爵家の四女に生まれてました!」


 彦四郎はリコリスという令嬢になっていた。涙で落ちた化粧と腫れた目元は、皇子のスキルで戻してやった。


「まさか園遊会で宮様とお会いできるとは!生きていて良かった!ううっ…」


「泣くな。また化粧が落ちるぞ」


「はっ!」


 皇子はまた泣きそうな令嬢を止める。闊達(かったつ)な物言いに、昔の彦四郎が被った。


「この彦四郎、今度こそ宮様を最後までお守りいたします!どうか再びお仕えするお許しを!」


 リコリスが土下座せんばかりの勢いで頼んでくる。ミナミは鼻で笑った。


「貴族の令嬢になっちゃってんのに、どうやって?」


「貴族籍は抜けます!こう見えて鍛錬はしております!」


「アホなの?親が許すわけないじゃん」


「せ…説得いたします!必ず!」


 皇子は沈思黙考した。また異世界人が現れた。しかも己の元側近だ。転生して、姿形(すがたかたち)、性別も違う。前世の記憶は、幼いころからあったらしい。皇子を見て、完全に思い出したと言う。

 だが今の彦四郎は貴族の令嬢だ。平民に仕えるなど、あり得ない。


「…成らぬ。今の俺は只のハンターだ。戦う相手もない。お前は前世の記憶に引きずられているだけだ」


 リコリス嬢は皇子の拒否に青ざめる。だが諦めずに食らいつく。


「それでも!宮様のお側に居とうございます!幼いころから、ドレスも刺繍も好きではありませぬ。剣を振るい、馬で弓を射る方が好きでした。なのに淑女は騎士になれぬと言われるのです!貴族の令嬢など!年頃になれば嫁に行き、子を成すことしか望まれませぬ。こんな一生に何の意味があるというのです…」


 日頃から溜まっていた鬱憤(うっぷん)を吐き出すと、リコリスはまた泣きだした。ミナミはうんうんと頷きながら聞いている。


「分かるよ~。男尊女卑。あんたも女になって、ようやく分かったでしょ」


「はいっ!この園遊会でご縁が見つからねば、隣の領地の放蕩(ほうとう)息子に嫁がされてしまうのです!」


「そーなの?可哀そう。ウチ、今はお給料とか出ないよ?それでも良い?」


「もちろんでございます!」


 ミナミがリコリス嬢に同情して、勝手に話を進める。皇子は慌てて(さえぎ)った。


「待て!なぜそうなる!?」


「だってリコリスちゃん、苦労してんだもん。異世界人同士、助け合わないとね」


「親が許すまいと、お前が言ったのではないか!」


 ミナミを問い詰める。すると彼女は真面目な顔で言い返した。


「じゃあ、ヨッシーが同じ立場だったらどうなのさ。嫌な男と結婚して子供産むの幸せ?」


「…」


「リコリスちゃんの幸せは、リコリスちゃんが決める。ヨッシーの為に命を懸けた人なんでしょ?ヨッシーも命懸けで幸せにしてやんなよ」


 皇子は目を見張った。貴族として生まれたなら、貴族として穏やかに生きる方が幸せだと思った。そんな考えがあるとは。

 

「あたし、今すごく良いこと言った?言ったよね?」


「はいっ!ミーナ様!共に宮様にお仕えしましょう!」


「あ、あたしは雇用側だから」


「え?!そうなのですか?」


 二人の少女が言い合うのを、皇子は複雑な思いで見ていた。彦四郎に再び会えたことは嬉しい。だが共にあることが、本当にリコリス嬢の幸せなのか。彼には分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ