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外伝~トモと友~14 安徳帝との契約

          ◆




「なぜ“復活”できないんです?!兄上!」


 ユリウスは半狂乱で叫んだ。昨日の夕方会ったばかりだ。まだ丸1日経ってない。間に合うはずなのに。


 目の前には愛しい女の遺体が寝かされている。人払いした安置室で、兄が何度か“復活(リザレクション)”を試したが効果が無い。


「分からない。時間が歪められている。トモの蘇生を阻止した者がいるようだ」


 兄は目を閉じて因果律を探った。数秒後、目を開けると驚いたように言った。


「安徳帝とトモが契約をしたようだ。命はその対価だ」


「アントクテイ?誰です?」


 初めて聞く名だった。


「ルクスソリアを知ろしめす神だ。父上と同じく日ノ本から来た。ヤマタイ皇国の始祖でもある」


 その神が何故、トモの命を奪うのか。ユリウスには全く分からなかった。分かるのは、この世のどこにもトモの魔力波が感じられない事だけだ。

 

 兄が父と神界に行ってくると言う。唯人のユリウスにはできることが何も無い。


(まただ。僕は役立たずだ…。トモを救いたいのに…)


 永遠に彼女を失うかもしれない。恐怖に震えながらユリウスは遺体の手を取った。もう冷たくなっている。


「諦めるな!魂を戻すまで器を維持しろ。治癒魔法をかけ続けるんだ」


 兄はそう言うと光の粒子となって消えた。そこへ勇気を抱いた聖女が来た。今でこそ義姉だが、ユリウスも光魔法を聖女から習った。


「聖女様…」


「トモに治癒魔法を。私もお手伝いいたします」


 聖女は勇気を下ろし、トモの額に手を当てた。青白い光が顔回りを照らす。するとそれを見ていた息子が、


「おもうさま。抱っこして」


 とユリウスに言った。驚いた彼は言われるままに息子を抱き上げた。勇気は母の脚に触れた。その小さな掌から治癒魔法が溢れ出す。


「!」


 2歳児が魔法を使った。衝撃だった。こんなに早く魔力を操る例など聞いたこともない。聖女が説明をする。


「この子は天才です。あなた以上かもしれません。見ただけで魔法が出来るのです」


「しかし危険なのでは…」


 魔力が暴走すると体がズタズタになると聞く。父の心配を息子は否定した。


「だいじょうぶ」


 ユリウスは息を飲んだ。聖女の魔力と勇気の魔力がトモの器に流れ込むと、血色が戻り始めた。


「おもうさまも、して」


 己と同じ碧い瞳が見上げる。その強い光はトモそのものだった。


 ユリウスは頷くと、トモに治癒魔法をかけた。今できることはこれだけだ。青白い光が安置室に満ちる。


(早く戻ってきてくれ。トモ…)


 数十分後、聖女と勇気が先に限界を迎えた。ユリウスはその後もひたすら治癒をかけ続けた。





          ♠



 

 友久の死を聞いた大公は息子と神界に行った。安徳帝の庵で友久と交わした契約の説明を求める。


「彼の命と引き換えに、ルクスソリアからの転出を許可した。それだけだよ」


 安徳帝は悪びれずに言う。大公の剣幕に恐れをなした菅公は逃げてしまった。建礼門院が茶を出して、詫びた。


「その子が怨霊化するのが怖かったのよ。ごめんなさいね」


「災いの芽は小さいうちに摘もうというわけか」


 確かにその方が良い場合もある。だが起きてもいない犯罪を裁くようなものではないか。


「いいかい。友久にも利がある取引だったんだ。彼は戻りたがっていた。戻ってすぐに死ぬ運命でもね」


 契約の内容は、友久がこちらで自然死をした後、転生前の瞬間に戻すこと。


 前世の友久は激戦の戦場で死んだ。戻った瞬間死ぬ。それでも戻りたいと言ったらしい。


「なぜそれほどあちらに(こだわ)るんでしょう?」


 護が不思議そうに訊く。大公も妻も地球に執着しない。友久は何を求めているのか。


「本人に訊いたら良い」


 安徳帝が手を叩くと、襖が開いた。その向こうに男が平伏していた。


「閣下。護様。このような結果に終わり、真に申し訳ありません」


「友久なのか…?」


 男は身を起こした。紺色の詰襟の軍服を着た、20代半ばの美しい青年だ。見慣れた少女の面影は無い。だが凛とした涼やかなオーラは友久のものだった。大公はその姿が彼の本質だと悟った。


「花鳥宮友久王と申します。臣籍降下して今は天宮友久侯爵です。帝国海軍で大尉を拝命しております」 


「なぜ死のうとする?向こうに何がある」


 青年は静かに微笑んだ。


「部下がおります」


「だが救えまい。その島で生き残った者はいないそうだ」


 考え直して欲しかった。こちらで勇気やユリウスと幸福に生きて欲しい。友久は大公の目を見て答えた。


「救います。魂を日本に連れて帰ります。そう、安徳帝と契約しました」




          ◇




 異世界で目覚めた時から、いつか必ず戻ろうと決めていた。


 本当は降伏してでも部下たちの命を救いたかった。しかし安徳帝に兵は全て戦死したと聞かされた。遺骨も拾われず、魂は永くあの島でさ迷うとも。あまりに哀れだ。だから大尉は神と契約をした。


「帰してやりたいのです。豊葦原(とよあしはら)瑞穂(みずほ)の国へ」


 水豊かな山河に稲穂が揺れる彼らの故郷に。愛する家族の元に。


「御恩を返せず、申し訳ありません。どうかお許しください」


 大尉は再び平伏した。閣下はため息をついた。


「…勇気を置いていくの?」


 護様が困惑したように訊いた。断ち切れない未練に胸が痛む。


「閣下の猶子として逞しく成長するでしょう。そう願っています」


「時間だ。行くよ友久」


 安徳帝が立ち上がった。大尉も立つ。夢ではない地獄のk島へ。最後に2柱に頭を下げ、大尉は庵を後にした。

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