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外伝~トモと友~09 おもうさまなの?

          ◇




 この島は天国だ。魔石の輸出で潤う神人族領は、多くの移民を受け入れ急速に発展している。ここでは人種も性別も関係なく仕事にありつける。古い慣習に囚われない、若き族長の意向らしい。


「護様。サインをお願いいたします」


 大尉は族長の秘書の1人になった。昼間だけの楽な仕事だ。簡単な書類を作り、計算し、サインをもらうだけ。給料を貰うのが心苦しいほどだ。


「分かった。トモ、今日の午後は空いてる?」


 族長に紙束を渡すと、予定を訊かれた。


「本日は大公閣下が午後1時にいらっしゃいます。3時に茶会、8時に晩餐会の予定です」


「僕の予定じゃなくて、君の。父とユリア妃が勇気に会いたいそうだよ」


 とうとう来たか。大尉は顔を引き締めた。


「では茶会前に伺います」


「嫌そうな顔して。そんなに父が怖い?」


 魔王の息子が揶揄う。怖いに決まっているだろう。歯向かえば一瞬で殺される。そんなことはおくびにも出さず、


「怖いほどお美しいので。倒れる前にお暇します」


 と適当に流す。族長は魔王と同じ顔で笑った。


「毛ほども思ってないくせに。大丈夫だよ。孫の顔を見たいんだって」




          ◇




 ゲート呼ばれる転移装置から大公閣下とユリア妃殿下が現れた。何度見ても不思議な光景だ。


 閣下と族長が会議に入ったので息子を迎えに行く。幼稚園のような施設で他の子らと遊んでいた。


「ユウキくーん。お迎えよ~」


 獣人の保育士が呼ぶと、息子は走ってきた。泥んこだ。一度洗わないと。


「おたあさま!はやいね!」


「今日は用があってね。では先生。また明日」


 手を繋いで従業員の宿舎に戻りながら、今日あったことを喋る息子に相槌を打つ。島に来てから言葉が増えている。同世代の子供たちと遊べるせいだろう。大尉は息子の成長を喜んだ。


 風呂で泥を落とし、綺麗な服を着せる。そして茶会の30分前に閣下のお部屋を訪ねた。




          ◇




「ご無沙汰しております、閣下。妃殿下」


 膝を付いて正式な礼でご挨拶をする。息子も見よう見まねで膝をついた。


「元気だったか友久」


「おかげ様を持ちまして。紹介させていただきます。息子の勇気です」


「面を上げよ」


 息子がぱっと顔を上げると、ユリア妃がガタリと椅子から立ち上がった。口を押えて凝視する。公子の子供の頃に似ているんだろう。閣下も立ち上がり、こちらに歩いて来た。そして息子の両脇を掴んで持ち上げると、


「ユリウスに生き写しではないか」


 まじまじと顔を見て、呆れたようにつぶやいた。


 視線が高くなった息子は喜んだ。だが、畏れ多くも閣下の頬に触れると、不思議そうに訊いた。


「おもうさまなの?」


 閣下は目を見開いた。大尉も驚いた。


「魔力波を感じるのか。違う。お前の御父様(おもうさま)の、御父様(おもうさま)だ」


「おもうさまのおもうさま。じゃあ、あのひとは?おもうさまのおたあさま?」


 ユリア妃を指さし質問する。


「そうだ。お前は賢いな。勇気」


 閣下は御爺様(おじいさま)御婆様(おばあさま)と呼ぶように、と教えた。次にユリア妃が息子を受け取り、抱っこしながら話しかけた。


「初めまして、ユウキ。あなたの御婆様のユリアよ」


 息子は自分の髪と妃の髪を触り、「おそろいだね!」とはしゃぐ。目を潤ませたユリア妃は何度も頷いた。


「そうね。家族だからよ」


 大尉は1人、居心地が悪かった。あまりにも大公夫妻と息子が絵になっていたからだ。




          ◆




 諜報部の騎士と酒場に行った日から、ユリウスは悶え苦しんでいた。トモに謝りたい。できればもう1度友達からやり直したい。子供の父親として認めてもらいたい。どうすればいいのだろう。


 学園が休みの日に、父に会おうと実家に戻ったが留守だった。仕方なくミーナ妃に礼を伝えに行った。


「ミーナ様。あの…」


「遅い!さっさと変装して。髪は茶髪にしな。さあ行くよ!」


 何も言わないうちに、中流市民の服に着替えさせられた。妃は平凡な商人のおかみさん風の恰好だ。屋敷の裏口から辻馬車で出かける。道中、妃は言った。


「トモと仲直りしたいんでしょ?じゃあ、知ろうよ。彼女がこの3年間、どうやって生きてきたのか。ユリ坊は何を間違えたのか。土下座して謝って、泣いてすがって、それでダメなら諦めな」


「ミーナ義母さま…」


 ユリ坊、と幼い時のように呼ばれ、ユリウスの目に涙が浮かんだ。元異世界人で平民。義母の愛は分かりやすい。


「ヨッシーとユリアは生粋の貴族だから。あたしのいた世界じゃ、出来婚なんて当たり前なんだけどさー」


「デキコン?」


「子供ができてから結婚すること。授かり婚とも言う。生まれてから結婚式する人だっていっぱいいたよ。頑張れ」 


 落ち込んでいた気持ちが少し上向く。父母には十分に愛情を注いでもらったと思う。でも、皇子と王女であった2人はどこか遠い存在だった。優秀な長兄のようにはいかず、今回も大公家の威信に傷をつけてしまった。きっと失望している。


「アホ。威信よりもユリ坊の方が大事に決まってる。トモもあんたも、両方幸せにしたいの。あたしたちは強欲大公家だから」


 そう言って義母はユリウスの頭をくしゃくしゃと撫でた。胸がいっぱいで、何も言えなかった。




          ◆




 馬車が再びあの母子寮に着いた。応接室に通され、管理人がトモと親しかったという隣人の女を呼んでくれた。


「トモの話?あんた誰?」


 女は疑わしそうにユリウスとミーナ妃を見た。


「ユリウス・アスカです。トモの子供の父親です。先日は失礼しました」


 正直に言う。女はぎょっとした。ミーナ妃も自己紹介をする。


「アスカ大公妃ミナミです。安心して。トモやあなたに迷惑はかけないと誓います」


「…何が聞きたいのさ」


 妃の真摯な言葉に、女の警戒が少し緩んだ。


 トモに子がいたことを知らなかった。だから教えてほしい。彼女がどうやってここで暮らしていたのか。ユリウスは女に頭を下げて頼んだ。貴族らしからぬ振舞いに、女は言葉を失った。だが少しずつ重い口を開いていった。

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