外伝~トモと友~06 酒場での再会
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妻から手掛かりを見つけたと知らされた大公は、すぐに諜報部を動かした。
人形は王都の下町で作られたものだった。金髪を売った者も特定できた。
「母子寮の子供の毛でした」
大公と3妃に、若い諜報部員が報告する。
「母子寮?何だそれは」
「貧しい母子家庭を支援する為に、聖女様が運営している住居っス」
そこで2つばかりの子供と暮らしているそうだ。驚いた。王都の下町に潜んでいたとは。
「昼間は工場で働いており、夜は酒場でピアノ弾きをしています。源氏名はマリア。以上です」
最後に会った友久の姿と、妓女のそれが重ならない。大公はその酒場に赴くことにした。すると妻たちが反抗した。
「ずるい!あたしたちも行く。変装して行くから。置いてったらストライキするぞ!」
「いや、しかし…」
ごねるミナミらに根負けし、結局、男装した妻たちを連れて夜の街に出た。大公自らも認識阻害魔法で平凡な中流市民に化けた。
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その酒場は王都の下町でも比較的治安が良い地区にあった。市民階級の男たちが商談がてら飲む店だ。ミナミは案内係に銀貨を数枚渡し、舞台が良く見える席を取った。
特段アナウンスもなく妓女が舞台袖から出て来た。長い黒髪を結わずに下ろし、銀のドレスを着た女だ。派手目の化粧で分かりづらいが、トモに見えなくもない。彼女は無言で舞台上のピアノの椅子に座り、弾き始めた。
注文した酒を飲みながら、あまりジロジロ見ないように観察する。ぶっちゃけ誰も聴いてない。BGMだ。
「本当にトモでしょうか?何というか、雰囲気が変わりすぎていて」
小声でリコリスが言った。ユリアも同意する。
「そうね。妖艶?色っぽい?うーん。別人じゃないかしら」
「3年経ってるし。子供いるんでしょ?セクシーになっててもおかしくないのでは?」
「お前らな…」
あけすけな会話に、最も色気がある夫は呆れた。
30分ほど弾くと、女は一礼して引っ込んだ。次は別の楽器を持った妓女が代わった。
「マリアという妓女を」
金を払えば指名した妓女に酌をさせられる。大公は金貨をボーイに渡した。すぐに黒髪の女はやって来た。テーブルの手前で彼女は立ち止まり、ミナミらを見た。いきなり認識阻害を見破られる。
「閣下?妃殿下も?」
やはりトモだった。
「久しぶりだな。逃げる理由を聞かせてもらおうか。友久」
不機嫌な声で大公は言った。トモは席に着き、さりげなく遮音結界を張る。
「ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました。手紙を差し上げられず、申し訳ありません」
彼女は皆の杯に酒を注ぎながら、他人行儀な挨拶をした。
「実は家庭を持ちまして。稼ぐため、ピアノ弾きをしています」
「誰の子だ」
大公は威圧をかけながらストレートに訊いた。トモは動じず、微笑を浮かべて答えた。
「私の子です。まさか出産まで閣下の許可が要るのですか?」
「嫌味を言うな。正直に答えろ。ユリウスの子だな?」
ユリアが身を固くする。子は両親の魔力波を引き継ぐ。想定していたことだ。
「私が1人で産んだのです。そういうスキルだと思ってください」
だから『マリア』か。上手い。ミナミは吹き出した。だが煙に巻かれた短気な男はキレた。
「いい加減にしろ!子をどうするつもりだ!」
「閣下こそ、大公家以外の継承者を排除したいのですか?」
皆は驚いて言葉を失った。そんなこと誰も考えていなかった。トモは交渉を持ち掛けた。
「取引をしませんか。現王に男児が生まれるまで、この国に足を踏み入れないと誓います。魔法で誓約しても構いません」
「ユリウスの子だと認めるのだな?」
「認めませんが、閣下は安心できましょう。我々もです」
大公と軍人の間で交渉がまとまりつつある。その時、ユリアが目に涙を浮かべて訊いた。
「トモ。ユリウスを愛していないの?あの子はあなたを愛してるわ」
ユリウスは彼女を好いている。しかし、
「公子にふさわしいお相手がいるはずです」
ときっぱり言われる。可哀そうなユリ坊。ミナミは泣くユリアの手を握った。リコリスは背を撫でる。夫は仏頂面だ。
結局、常に居場所を教えるという条件で、トモと子供はこのまま王都で暮らすことになった。
◇
変装した大公閣下一行を見送り、大尉は酒場の仕事を上がった。化粧を落として着替える。どこにでもいる下町の女の恰好で母子寮へと戻ると、隣人に預けていた息子を引き取った。もう眠っていた。
「いつもありがとう」
「良い子だったよ。夕飯も全部食べたし」
子守賃を渡して自宅に帰る。親子2人が暮らすには十分に広い部屋だ。大尉は深く息を吐いた。
(殺されずに済みそうだ。良かった…)
3年前、旅の途中で身ごもっていることが分かった。転移した時に匹敵する衝撃だった。ユリウス公子の母親は現王の妹。王子がいない現在、公子が王位継承権第1位となる。この子は公子の弟に次ぐ、第3位だ。
(閣下に消されるかもしれない)
そう思って身を隠した。だが床屋が息子の髪を売ったらしい。そこから足がついてしまった。
大公自ら酒場に現れたのには驚いたが、結果的に交渉ができた。最大の懸念事項は消えた。しかし情報が洩れる可能性もある。大尉は王都を出る準備を始めた。




