表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/129

外伝~トモと友~05 行方不明

          ♥




 トモが去って数カ月後。大公邸では3妃が茶を飲みながら語り合っていた。


「あんなにあっさり出て行くなんて…。さみしい…」


 ミナミはため息をついた。初めはどうなるかと思ったが、トモは子供らに沢山の昭和の遊びを教えてくれた。平成生まれのミナミにはできない芸当だ。学園ではたった半年で全単位を履修し、疾風の様に卒業していった。成績もオール優。さすが帝国軍人だ。


「宮様も本心では手放し難いとお思いだったでしょうに。よく行かせましたね」


 確かにトモを気に入っていた。あの美貌に魅了されず、品のあるジョークを言って気難しい男をよく笑わせていた。


「ユリウスもエルフの都に行ってしまったし。本当に寂しいわね」


 ユリアもほうっと息を吐いた。ミナミは声を潜めて2人に訊いた。


「…それで、付けた?」


 リコリスとユリアは頷いた。


「刀の飾り紐に付けました」


「私は指輪に」


 3妃は黒い笑みを浮かべた。考える事は同じだ。ミナミはトランクに発信機を付けた。あんな優秀な人間、逃してなるものか。


 そこへ夫たる大公が現れた。いつもの影渡りではなく瞬間移動だ。


「ヨッシー?どうしたの?」


「友久の居場所は分かるか?」


 ミナミらは顔を見合わせた。まさにその話をしていたところだった。


「今すぐ連れ戻すぞ。あいつは皇族だ。死んでこちらに転生していた」




          ♠




 花鳥宮友久王かちょうのみやともひさおう。それが天宮友久の本当の名だ。傍系宮家の三男として生まれた。母が内親王だった。成人後、臣籍降下して天宮侯爵となった。位階は正四位。太平洋戦争中、南方戦線で戦死した。


「記憶を消し、別世界に転生する予定だった。だが何らかのミスが起こった。記憶を持ったまま、こちらの少女の器に入ってしまった」


 ルクスソリアの神たる安徳帝は顔を顰めた。


 ここは神界。安徳帝の庵だ。同じく神である菅公が頭を下げる。


「第二次大戦は死者が多すぎて転生ミスもありがちなんだ。許してほしい」


「それを修正する方法は?」


 亜神・アスカ大公は2柱に訊いた。少女の身体と友久の魂を分離することはできないのか。安徳帝が答えた。


「もう遅い。魂と肉体が融合してしまった。一度彼を“復活”させたね?拳銃で自決した時だ。あれが原因だ」


「友久が幸せに寿命を全うすれば問題ないのだろう?」


 短い間だったが家族の様に過ごした。明るく品があり、魔法の才にも優れた人物だった。自分に合う仕事を探すと、笑顔で去って行ったではないか。


「護良の目には良い子に見えたろう。だが君の屋敷を去ってからの足取りが全くつかめない。それはつまり、魔力を1回も使っていないということだ」


 安徳帝は厳しい声で言った。大公は目を見張った。魔法士が魔法を使わない。あり得ないことだ。


「彼はこちらの世界を欠片も受け入れてないってことだ。おそらく帰還方法を探している」


 菅公は悲し気に首を振った。更に安徳帝が不吉な予言をする。


「こちらから地球に帰る術は無い。それに気づいた時、彼は怨霊になるかもしれない」


 急いで屋敷に戻り、妻たちに訊くと、それぞれ発信器を彼に持たせていた。しかし、全て取り除かれていた。大公は舌打ちした。中身は優秀な軍人だったことを思い出す。直ちに王国中に捜索の網を張った。だが友久の行方は杳として知れなかった。




          ◆




 3年の留学を終え、ユリウスは王国に戻った。魔法学の天才公子は古代魔法の研究論文で博士号を取った。弱冠20歳にして王立魔法学園の教師に内定している。


「ただいま帰りました!」


「おかえりー!兄上ー!」


 研究に没頭するあまり、一度も帰国しなかった。大きくなった弟妹を、ユリウスは1人づつ抱き上げて笑いあった。


「トモは?まだ王都に住んでいますか?」


 何よりも先にあの異世界人の少女の消息を母に尋ねる。旅に出ているかも。今すぐにでも会いたい。頬を紅潮させた息子に、ユリア大公妃は沈んだ顔で答えた。


「それが…行方不明なの」


「え…?」


 この3年間、手を尽くして探したが未だ見つからないと聞かされ、目の前が真っ暗になる。無意識に上着のポケットから小箱を取り出す。エルフの都で作らせた婚約指輪だ。ユリウスの瞳の色の宝石がはめ込んである。


 公子は彼女にプロポーズをするつもりだった。




          ◆




 留学先に発つ前夜。ユリウスはトモに告白した。酒の力を借りてだが。


『君が好きだ。僕の妻になってほしい』


 陳腐だが他に言いようが分からない。3年待っていて。きっと研究を成し遂げて戻ってくるから。そう言って華奢な身体を抱きしめた。


『今夜だけな』


 少女は儚い笑顔でユリウスを受け入れてくれた。だから頑張れた。3年後にまた会えると信じていたから。




          ♥




 息子はあの娘が好きだったのだ。ユリア妃は胸を痛めた。なかなか友達ができない、内気なあの子が初めて親しくなった異世界人の少女。何としても留めておけば良かった。


 この3年間、賑やかな大公邸にも微かに影が落ちていた。トモが見つからないからだ。


「母上。私、このお人形にする」


 黒髪の娘が人形を選んだ。今日は外商が屋敷に来ている。広間にたくさんの玩具が広げられていた。子供たちは思い思いにそれらを試して、気に入ったものを買う。


「まあ…金髪の女の子ね。かわいいわね」


「母上と似てる。おめめも青いし」


「そうね」


 ユリア妃は人形の輝く金髪を撫でた。すると娘は不思議な事を言った。


「ユリウス兄さまの匂いがする。トモの匂いも」


「!? 何ですって?」


 衝撃を受ける。夫の血を引くこの子らは魔法感覚が異様に鋭い。人形の毛から魔力波を感じたのだ。ユリア妃は外商にその出所を尋ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ