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外伝~トモと友~03 だるまさんが転んだ

          ◇




「おねーちゃん。朝ごはんだよ」


 子供の声で起こされる。まだ夢から出られない。大尉は仕方なく起き上がった。ベッドの横に子供がたくさんいる。皆、珍しい客をキラキラした目で見ている。


「君たちは…」


「ナナミだよ」「ユリーシャだよ」「リュカだよ」…。


「待ってくれ。いっぺんには覚えられない」


 一斉に名乗る子らは大公の子女らしい。朝食に招かれたようだが、白い寝間着で良いものか。悩んでいると侍女が大尉の背丈に合った服を貸してくれた。家を出た公子のお下がりだとか。それに着替えて、子らに手を引かれ食堂に案内された。


「おはよう。良く眠れたか?」


 すでに食事を終えたらしい大公が大尉に声をかける。夕べの威圧が嘘のように穏やかだ。


「はい。服まで貸していただき、ありがとうございます。大公閣下」


 大尉も調子を合わせた。どうもこの夢は長くなりそうだ。閣下の世話になる選択肢しか無い以上、大人しくしていよう。妃殿下とも挨拶を交わした。


「おはよう。トモ君。似合ってるねー。うちの長男が子供の時に着てた服なの」


「おはようございます、妃殿下。お世話になりっぱなしで恐縮です」


 子供らも食事は済ませていたらしい。大尉だけ朝食を給仕された。子らはその様子をじっと見ている。食べにくい。だが美味い。大尉は残さず食べた。食後の茶を楽しんでいると、閣下が今後のことだが、と話し始めた。


「こちらのことを学びたければ、教師をつけよう。できれば異世界人と分からぬよう暮らした方が良い」


「閣下の御沙汰に従います。よろしくお願いいたします」


「ずいぶん大人しいな。昨日の威勢はどこへ行った」


「長いものには巻かれる主義なので」


 しれっと言うと、閣下は笑った。妃殿下が心配そうに大尉を見た。何だろう。一昨日見かけた公女が耳打ちをした。


「父上の笑顔。見てもドキドキしない?」


「しますね。蛇に睨まれた蛙のようです」


 公子公女がどっと笑う。閣下も笑って退出を命じた。大尉は子供らと遊ぶことになった。小さな手に引かれながら庭へと連行された。




          ♠




「どう思う?」


 アスカ大公は食堂に残った妻に訊いた。大公妃は少し考えて答えた。


「マナーは完璧。話し方も。将校だったからかな。…ヨッシーに似てる気がする」


「どこがだ」


「堂々とした感じが、何というか貴族っぽい?」


 確かに平民のような雰囲気はしない。威圧に屈しない強さもある。見た目はか弱げな少女だが中身は軍人なのだろう。こちらに送られた皇族ならば2柱に会ったはずだが、その様子はない。ここを地球の外国だと思い込んでいた。


 庭から子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。友久が何か遊びを教えているようだ。既にこちらに順応している風に見えるが、窓から見ていた妻は心配を口にした。


「魅了されなかったね。やっぱ男子なんだ。それが女子になっちゃうって。精神的に大丈夫かな」


「王都に戻ったらリコリスに預けるか。少しは理解してやれるだろう」


 大公夫妻はこの不思議な運命を背負った軍人少女を助けると決めた。自分たちもまた、異世界人として多くの人々に助けられたからだ。 




          ◆




 部屋で本を読んでいたユリウスは、庭からあの少女の声が聞こえるのに気づいた。窓を開けて見下ろすと、弟妹達と見たことも無い遊びをしている。


「だるまさんが転んだ!はいっ!ナナミ公女動いた!」


「えーっ!動いてないもんっ!」


 少女が庭の木に顔を向けている間、弟妹達はじりじりと彼女に近づく。だが妙な呪文を唱え終わって振り返ると、動きを止める。その時動いた者は離脱を言い渡される。すでに何人かの捕虜が少女と小指で繋がっている。ナナミは渋々最後尾の弟と小指を繋いだ。


「だるまさんが…」


「切ったーっ!」


 弟の一人が、少女と捕虜の繋がっていた小指を手刀で切った。一斉に捕虜たちが逃げ出す。そこからはただの鬼ごっこだった。


 ユリウスは窓枠に頬杖をついて遊ぶ弟妹たちを眺めた。金髪の同母妹が彼に気づき、手を振った。


「兄上ー!一緒に遊ぼうー!」


「やだよ!疲れるし、休み明けに試験もあるんだ」


 もう外で遊ぶような年ではない。大声で言い返すと、少女がユリウスを見上げた。捕まえた弟2人を小脇に抱えている。遊びが豪快だ。彼女はユリウスに軽く会釈をした。逃げ出した時に会ったことは覚えているようだった。


 彼は何となく庭に下りた。少女が近づいて来て頭を下げた。


「その節は大変失礼しました。暫くお世話になります、天宮友久です」


 丁寧な謝罪と自己紹介をされる。ユリウスも慌てて名乗った。


「ユリウス・アスカです。こちらこそ、怖い思いをさせてしまって」


 少女は目をぱちくりとさせた。何のことか分からないという顔だ。そして話題を変えた。


「公子も一緒に遊びますか?」


「異世界の遊び?どんなの?」


 彼女の説明を聞きながら、その美しい顔を眺める。王国人より華奢な身体。短く切られた黒髪も両性具有的な妖しい魅力がある。


(どちらかと言うと2人でお茶でも飲んで、おしゃべりをしていたい…)


 ユリウスは邪な妄想をしながら遊びに混ざった。昼食までの数時間を走り回って体力を消耗した弟妹達は、食後、すぐに寝てしまった。ミーナ妃にとても感謝された。

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