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外伝~トモと友~01 大尉、転移する

ユリウス公子×昭和軍人(→転生後少女化)の物語です。物語に出てくる昭和の地名・人名・史実等は大体フィクションです。ご了承ください。

          ■




 昭和18年(1943年)。開戦から2年が経ち、南方戦線の攻守は逆転していた。

 4月、連合艦隊司令官がパプアニューギニア視察中に戦死し、5月には西部アリューシャンのA島が17日間におよぶ激闘の末、玉砕。日本軍の敗色は、日に日に濃くなっていた。


 その年の11月。中部太平洋マーシャル諸島K島の司令部に元皇族が赴任した。花鳥宮友仁王かちょうのみやともひとおう。臣籍降下して侯爵となった天宮友仁(あまみやともひと)大尉である。玉砕必至と思われる孤島に元宮様が着任すると、兵たちの空気は一変した。


「俺たちは見捨てられてなんかいない。こんな尊い方が来てくれたんだ…」


 貴公子然とした大尉はしかし、気さくな人物だった。誤って「殿下」と呼んでしまった兵には、


「殿下はやめてくれよ。次にそう呼んだら、テニスの相手をしてもらうぞ」


 と陽気に笑う。大尉が率いる隊は“天宮中隊”を自称し、優雅な上官を慕った。


 だが翌年2月、ついに米軍部隊がk島に上陸する。島の日本軍は3900名。敵は1万名以上。戦力差は明白であった。k島はわずか3日で落ち、軍守備隊は全滅した。天宮大尉の最期は不明。享年25。死後、海軍少佐に昇進した。




          ◇




 目を覚ますと、病院のような天井が見えた。大尉は身を起こした。大きなベッドや室内の家具は明らかに外国製だ。窓から光が差し込んでいる。時間は午後。暖かくも寒くもない。窓の外に茂る木は温帯に属する広葉樹だ。


(捕らえられた)


 熱帯の島にいたはずだ。司令部の壕を出た時、爆撃で吹っ飛ばされた記憶がある。気を失っている間に移動させられたようだ。


 耳を澄まし、近づく気配が無いことを確認してから、大尉はベッドから下りた。白い寝間着のようなものを着せられている。袖から見える手首が痩せ細っていた。どれほど長い間昏睡していたのか分からないが、身体は問題なく動く。


 静かに部屋を探ると、洗濯された軍服と所持品が箪笥に仕舞われていた。何故か拳銃もあった。弾も入っている。軍刀だけが没収されていた。

 ホルスターに拳銃を仕舞い、腰に巻く。ここが敵地だとすると軍服は着ない方が良い。痩せて小さくなった足は裸足だったが、そのまま脱出する。病室らしき部屋に鍵はかかっていなかった。


(ここはどこなんだ?まさか米国本土じゃないよな?)


 広い洋館だ。高い天井の廊下を慎重に進んでいると、ふいに人の話し声が聞こえた。大尉は大きな花瓶の影に身を潜めた。拳銃を取り出し、身構える。


「オバケなんかいないって」


「だって見たんだもん。白い顔の女の子が寝てたの。誰もいないはずの部屋で」


 ワンピース風の洋服を着た10歳程の女児が2人、廊下の角を曲がってやってきた。整った顔立ちの西洋人の子供だ。


「はいはい。別棟に行ったことがバレたら、母上に叱られるから。確かめたら戻るよ」


「本当だもん!」


 女児らは隠れる大尉に気づかず、病室の方に去った。大尉は思った。子供がいた。軍の施設という可能性は低い。


 再び出口を探して歩き出した。階下に降りる階段の手前で、ついに大人を発見した。 


 民間人らしき男が階段を上って来た。金髪碧眼だ。米国人か英国人か。間の悪いことに金髪の男は大尉が隠れる柱の方に向かってきた。


「動くな」


 見つかる前に大尉は拳銃を男に向けた。彼は驚いたように止まった。


「!」


「出口まで案内しろ。騒いだら撃つ」


 男は目を丸くして大尉を見た。背が高い。見下ろされている。銃を見ても怖がる素振りが無い。それどころか、


「君誰?まさか泥棒?」


 と顔を顰めた。更に階下から幾人もの男たちが上ってくる足音がする。大尉は金髪の男を人質にしようかと考えたが、体格が違いすぎるので止めた。仕方なく廊下の窓の打掛錠を外し、跳び下りた。2階だったので何とかなった。


「ちょ…っ!君!誰か!」


 もはや隠れ逃げるのは無理のようだった。頭上で男が仲間を呼ぶ声がする。大尉は手入れの行き届いた庭園を突っ切り、木立に飛び込んだ。森の様に鬱蒼とした木々の間を走る。やがて敷地の境界を示す塀が現れた。5メートルはある。


「止まりなさい!」


 背後から追っ手が叫ぶ。大尉は塀を背に拳銃を構えた。5人の男たちに囲まれる。どいつも大きい。銃器は持っていない。


(できるだけ殺そうか)


 一瞬迷う。だがどう見ても使用人たちだ。民間人を殺しても仕方ない。男たちは包囲を狭めて来た。


 大尉は銃口を自らの頭に当てた。帝国軍人が言うべき言葉を叫び、引き金を引いた。


「“銃だけ消えろ”!」


 女の声が最期に聞こえた。大尉の意識はそこで途切れた。

 

この夏は、ひょんなことから、戦争に行った皇族の歴史を調べてました。その中で旧宮家出身で臣籍降下後、南方戦線で戦死した軍人さんの話にインスパイアされ、このお話が降りてきました。花鳥宮友久王のモデルです。

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