神殿での魔力検査
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「いらっしゃいませ。ハンターギルドへようこ…」
ドアベルが鳴り、顔をあげた受付嬢は絶句した。先に入った皇子の顔を凝視している。
(出た。イケメンの魅了スキル)
ミナミはとっさに作戦を思いついた。皇子に交渉させよう。
袖を引っ張り、「今度はヨッシーが売ってみなよ。牙1個1万でいいから」と耳打ちする。皇子は怪訝な顔をしながら頷いた。
「売りたい素材がある。まずは登録をしたい」
美男が声をかけると、受付嬢は正気に戻った。
「はひっ!では、この用紙にご記入お願いいたします!」
「分かった」
登録用紙にペンを走らせる姿を、頬を染めた受付嬢が見つめる。
「これで良いか?」
「ザワ村のモーリーさん…お名前もステキですね…結構です」
「登録料は良いのか?」
「あっ!申し訳ありません、1万ゴルドいただきます!」
登録料を支払うと、すぐに会員証が渡された。名刺大の金属のプレートだ。
受付嬢が、再発行には幾らかかるとか細々した規約を話す。皇子はちゃんと聞く。彼女の顔はますます赤くなる。魅了の無限ループだ。
「売却素材は…まあ!ウルフの牙ですね!」
「幾らになる?」
「そうですね…一つ1万ゴルドが通常の価格ですが…」
「ではそれで」
皇子は素っ気なく言う。ミナミはこれが彼の素だと知っているが、受付嬢には気を悪くした様に見えたらしい。
「いえっ!1万5千ゴルドで引き取らせていただきます!」
慌てて価格を上げてくる。作戦成功だ。労せず1.5倍の儲けに成功し、ミナミはほくそ笑んだ。
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師匠の定宿に1泊して、翌日は神殿に向かう。皇子と二人で、いよいよ魔力検査を受ける。
村の祭壇に供物は捧げるものの、そこで祭事は行われない。こちらの宗教については知識ゼロ状態だ。
領都の一等地にギリシア神殿みたいな巨大建築物がある。それが神殿だ。
入り口で魔力検査をしたい旨を申し出ると、白いローブを着た神官が案内をしてくれた。
「こちらのタキア大神殿は王国歴〇〇年に聖人〇〇〇によって創建され…」
男の神官には皇子の魅了が通じなかった。ちゃんと一人10万ゴルドを徴収され、滔々と沿革などを聞かされる。
ミナミは馬耳東風で聞いていたが、皇子は熱心に耳を傾ける。時々質問までしている。信者になる気かもしれない。
「ではルクスソリア神なる神の他にも、多くの神々がいると?」
「800万以上の神々がおられると言われています。ですが位階第1位はルクスソリア神です」
ギリシア神殿に八百万の神。違和感ありまくりだ。
「では魔力検査を行います。検査版に片手を乗せてください」
検査室で説明を受ける。天井の高い広々とした空間に、ガラスの教卓のような机がある。その後ろには3メートルはある謎の彫刻が鎮座している。アテナ女神のような立像だ。
「魔力がある方は、ルクスソリア神の像が光ります。低めの方はおみ足の足首くらまで、高くてお膝くらいでしょう」
某仮装大賞の点数表示みたいだ。ミナミは噴き出すのをこらえるのに苦労した。
まず、ミナミが挑戦する。机には少し出っ張ったところがあり、そこに手を置いた。
何となく貧血みたいに力が抜ける感覚がする。すると像が足元から輝きだした。
「おおっ!」
神官が驚愕する。光は像のみぞおち付近まで達していたからだ。
「もうちょっといかないかな~」
少し残念だなぁと思っていると、興奮した神官が叫ぶ。
「王国始まって以来の魔力量です!500を超えてます!」
足首で20、膝で100、腰で500というのが数値の目安だそうだ。ミナミは大体650~700ぐらいらしい。
「次はヨッシーね。負けても泣くなよ」
「誰が泣くか」
皇子と交代する。片手を出っ張りに置いた瞬間、像が一気に頭まで光りだした。
光は放射状にあふれ出し、白い壁に乱反射する。眩しくて目を開けていられない。
「…!!!!!!」
神官はもはや声も出ない。
「ヨッシー、早く手離して!目がつぶれる!」
慌てて皇子が台から手を離すと、徐々に光は収まった。
「満点だね…」
「そうなのか?」
像が完全に元に戻ると、神官が意識を取り戻す。
「こ…こんな奇跡が起こるなんて。大神官様をお呼びします!少々お待ちください!」
二人をその場に残し、走って行ってしまった。
(これはあれだ、聖女様とか聖人様という名の拉致監禁フラグだ)
ミナミは嫌な予感がした。
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すぐに別の神官がやってきて奥に案内された。
華美な装飾にあふれた部屋に通される。そこに何人もの神官が立っていた。
一人だけ座っていた老人が大神官様だろう。服装も豪華だ。
「ザワ村のハンターだそうですね。もしや異世界人ですか?」
大神官の横に立つ秘書風の男が問う。村人の風貌と違い過ぎるので、即バレた。否定しても無駄なので認める。
「そうデース。こちらのこと良く分かりまセーン。魔力量多いの、問題でしたカ?」
ミナミはあえて無知な外国人を装う。
「問題というか、これほどの魔力量は前例がありません。どうでしょう?神官として、こちらで暮らすのは。待遇は保証しますよ」
秘書神官が想定内の取引を申し出た。二人を神殿に取り込む気だろう。
「悪いが断る」
皇子がにべもなく断る。
「ハンターよりずっと楽な生活ができますよ」
「まだこちらの世界を知らぬ。お主らについてもな」
堂々とした彼の態度に、後ろの神官ズがざわめく。無礼者と思われているに違いない。
「ですが…」
秘書も食い下がる。すると大神官様がすっと手を挙げて秘書を止めた。
「良い。異世界人に無理強いはできぬ。だが客人よ。我々との縁は切らんでほしい」
大神官は穏やかに言った。意外と優しいおじいちゃんかもしれない。
「これが知られれば、厄介なことも起ころう。神殿が力になれることもある」
「分かった。かたじけない」
皇子は大神官に近づくと右手を差し出した。友好の証だと思うが、神官ズは固まっていた。
おじいちゃんは気にせず笑顔で握手してくれた。
やはり皇子は大物だった。




