外伝~アスカ大公子物語~ 終話・神の花嫁たち
外伝はこれで終わります。素敵なレビューもいただき、とても嬉しかったです。ありがとうございました!
◇
家に戻ると父と母が待ち受けていた。朝から説教を喰らう。あの元宰相を殺したのは問題だったらしい。
「エルフは数が少ない亜人だ。よって死刑はない。お前なら生け捕りにできたはずだ」
「婚約者がありながらシルヴィア姫と一夜を過ごすなんて!そんな子に育てた覚えはないっ!」
両親のベクトルが違い過ぎて脱力するが、護は抗弁した。
「言い訳はしません。ですが、姫を守る為に殺すしかありませんでした。あと、母上。誤解です。神に誓って間違いは…」
「無かったの?」
あるような無いような。神人となってから多情になってしまった。護の沈黙を母は肯定と受け止めた。ぷりぷりと怒って朝食抜きの刑を宣告される。
「…ともかく。何らかの賠償を求められるかもしれん。金で済むなら良いが」
「それなら大丈夫そうです。実は遭難先でこれを見つけました」
護は収納から島で拾った魔石を出し、父に見せた。
「これは魔石か?大きいな。クラーケン並みだ」
「おそらく魔石を産む山です。大陸から離れているのが難点ですが、ここを神人族の拠点にするつもりです」
ゲートを島と大公家に設置し、母の商会を通して売る。王国にも大公家にも利がある。賠償金も用意できる。
「分かった。…そんなに急がなくても良いんだぞ」
父は子に甘い。居心地が良すぎて実家から離れがたいが、いずれ独立しなければならない。
「はい。でも、式の後には向こうにゲートを作ります」
「そうか…」
親子でしみじみしていると、執事がノックをして入って来た。
「旦那様。エルフ王から護様に召喚状が届きました」
「何だと?」「えっ!?」
護は再びエルフ国へ行くことになった。
♡
国へ戻ったシルヴィアは軟禁されていた。元宰相が殺されるのを止められなかったからだ。
父王に呼び出され議場に行くと、エルフの現宰相に加え、アスカ大公と護もいた。
「座りなさい。今から沙汰を下す」
「恐れながら陛下」
厳しい声で王が言うと、護が発言の許可を求める。
「何だ。公子」
「なぜ姫がこの場にいるのでしょう?」
「民を見殺しにしたからだ」
次代の女王としての義務を怠った。それは罪だ。シルヴィアは 項垂れた。
「まるで私が一方的に彼を殺害したように聞こえます。違う。彼は姫を侮辱し、ゲートの間を破壊した」
「そなたの力量であれば殺さずに済んだはずだ。違うか?」
侮辱ぐらいで貴重なエルフを殺すな。エルフ王は暗にそう言っている。
「要求は何だ。金か。護の命か」
大公が怒りを押し殺した声で訊く。議場に一触即発の張り詰めた空気が満ちた。
「公子に罪は問わない。シルヴィアに10年の追放を申し付ける。神人族で預かってほしい」
「はっ?」
護が驚きに目を見開いた。シルヴィアも父の発言の意味が分からない。
「 エルフ族からはシルヴィア王女を出すってことです。10年の間に子ができれば、ウチの跡継ぎにしたい。まあ才能次第ですけど」
宰相が口を出す。顔がにやけている。
「ちょ…!姫は王太女でしょ?何でそうなるの?!」
混乱した護は敬語も忘れて立ち上がった。
「護。落ち着け。…悪くない条件だ」
「では大公。結納金など詳細を詰めようか」
親たちは別室へ行ってしまった。残されたシルヴィアと護は呆然としていた。
「マモルが好きなんでしょ?バレバレですよ。おいマモル。ウチの姫泣かしたら戦争だからな。覚悟しとけよ」
宰相は笑顔で公子の肩をばしっと打った。正気に戻った護がはたき返す。
「騙したな!?召喚状なんて送ってきて」
「こうでもしないと、くっつかないだろ。お前たち。じゃあな」
ひらひらと手を振り、宰相は議場を出て行った。残された2人は沈黙した。
「…マモル…ごめ…」
「謝らないで。僕は後悔していない」
護は跪いてシルヴィアの手を取った。
「島で言ってくれたこと、嬉しかった。僕の妃になってくれますか?シルヴィア姫」
あんな未開の島に住む予定だけど。恥ずかしそうにプロポーズをする。
「喜んで…」
あれは夢じゃなかった。エルフの王女は、神人族の妃になると決めた。
◇
神殿の聖女の部屋。護は土下座をしていた。目の前の婚約者は目を丸くしている。うっかりエルフの側妃を取ることになってしまった件だ。
「…まだ式も挙げていないのに。ごめんなさい」
目が見えるようになった聖女は、公子の手を取って立たせた。
「シルヴィア姫なら大歓迎です。2人で公子をお支えいたします」
笑顔が眩しい。優しい聖女の言葉に救われた。ついでに拠点となる島を見つけた話をする。
「何もない島です。井戸を掘るところから始めないと。苦労をさせるかもしれません」
今のうちに謝っておく。
「始祖なんですもの。苦労は当然です。海を見るのが楽しみですね」
「聖女様…」
海の様に広い心だ。護は聖女の手を握り締めた。
そうして治癒の仕事、ゲートの管理、島の測量などに精を出していると、あっという間に挙式の日になった。
◇
良く晴れた秋の日に、護と聖女は結婚式を挙げた。王都大神官のオクトが司祭をした。列席者の大半は神殿の関係者で、皆が笑顔と涙で祝ってくれた。今は披露パーティーの最中だ。
「おめでとう。マモル。クレーナ」
シルヴィアも来た。彼女は人族には美しすぎるので、ベールで顔を隠している。
「ありがとうシルヴィア」
「お久しぶりです。姫」
「目が治ったのね。良かった!」
聖女とシルヴィアは和やかに挨拶を交わす。他にも親交のある亜人達がたくさんお祝いに来てくれた。
「マモル…おめでとう…」
ラミアの女王が声をかける。王配のノア義兄も一緒だ。
「義姉上、義兄上。ありがとうございます」
「おめでとう。神人族の件も。力になれることがあれば、何でも言ってくれ」
2人にクレーナを紹介し、姪を探す。先ほどから見当たらない。
「…来ていないの…。マモル…あの子…振ったでしょ…?」
卒業式の日にノーラに告白されたが、断っていた。それ以来音信不通だ。
「すみません。今は余裕が無くて」
「いいんだ。いずれ落ち着くよ」
そうだと良いんだけど。護は神人族の族長として挨拶に忙殺された。
♡
「共に公子をお支えする日を待っております」
久しぶりに会った親友は美しかった。シルヴィアを見る金の瞳は慈愛にあふれている。会ったら嫉妬してしまうかもと不安だったが、杞憂だった。
「…ありがとう。不思議な縁ね。私たちが一緒に生きることになるなんて」
「神と大公御夫妻に感謝をしましょう。あんなに素晴らしい方を生んでくださって」
聖女との出会いを思い出す。大公に失礼な態度を取ったり、片思いしたり。全てが今に繋がっている。
大公妃が手を振って2人を呼んでいる。
「姫~!クレーナ!ケーキ無くなっちゃうよ~!」
「行きましょうか」「ええ」
シルヴィアはクレーナと手を繋いで、家族となる人々の方へと歩いて行った。
◇
多くの亜人の王族が来ているので、護は神人族の拠点を大陸の南東の島にすると発表した。側妃を希望する娘たちは固まった。無人島での開拓生活になると聞かされたからだ。ゲートがあれば確かに行き来はできる。しかしそれぞれの氏族の有力者として生きてきた娘に耐えられるとは思えなかった。
「妃になりたい方は、ぜひお試し体験で来てください。まだ井戸しかありませんが」
護はにこやかに勧誘した。娘たちはその美貌と暮らしを秤にかけた結果、側妃を諦めた。
「私は行くわ!マモル!」
マリエルは諦めない。
「良いよ。ただし侍女なんかは連れてきちゃダメだよ。一人で掃除洗濯料理、全部してね」
「ええ…?」
手下にやらせるつもりだったな。護とて聖女やシルヴィア姫に力仕事をやらせる気は無い。土人形や魔法を駆使して開拓するつもりだ。だがそれは内緒だ。
◇
島で聖女と2人暮らしの数カ月後、シルヴィアを迎える。彼女は王女ながら身一つでやってきた。
「よろしくね!マモル。クレーナ」
「こちらこそ。よく来てくれたね。もう水も明かりも通ってるんだよ」
ゲートで資材を運びつつ、急速に島は整備されている。ただ住人がいないだけだ。
「今日はお二人の結婚式をいたしましょう。私が司祭を務めます」
クレーナは笑顔で申し出る。夫としては複雑な心境だ。
「君の夫なんだが…」
「はい。でも式は大事です。神との契約ですから」
「僕も神なんだが…」
半分だけね。聖女は有無を言わさず式を執り行った。父母の結婚式の司祭をしたのも彼女だ。複雑だ。
◇
魔石の輸出も順調だ。母の“モーリー&ミナミ商会”を継いだ妹が手堅く売っている。その金で神殿にゲートのネットワークも作った。聖女と護は未だに治癒の仕事も続けている。
「ああ。幸せだ…」
2人の妻と充実した仕事。思わず声が出ていたらしい。共に美しい夕焼けを見ていたシルヴィアが笑った。
「老人みたいよ。マモル」
「そう?枯れたら危ないんだ。止めてね」
彼女を抱き寄せ、尖った長い耳に口付ける。夫にしか許されない愛情表現だ。
「護様。ゲートのランプが点滅しています。誰か来るようです」
クレーナが知らせにきてくれる。護は2人と手を繋いで屋敷に戻った。神人族のゲートは大公家と神殿、エルフの王城にしか繋がっていない。
「誰だろう?マナミかな?」
転移許可のシグナルを送ると、魔方陣の上に姪が現れた。
「ノーラ?どうしたの?ラミア族に何かあった?」
心配で訊く。このゲートは緊急脱出用でもあるのだ。ラミアの王女は大きな荷物を持っている。
「まさか家出?」
「違うわよ!…お試し体験、です…」
最後は消え入るような小声で、ノーラは言った。護は思い出した。結婚式で言った亜人の娘たちを断る口実だ。
「忘れてたよ。誰も来ないもんだから」
「家事の修行をしてたの!やっと母上の許可ももぎ取ったし…」
護の拒否を畏れるように下を向く姪の頭をそっと撫でる。
シルヴィアとクレーナを見ると、笑顔で頷いてくれた。
「ようこそノーラ。君が4人目の神人族だ」
「!」
驚いて顔を上げる銀の瞳から、みるみる涙があふれ出る。1人で始めた神人族がもう4倍だ。17歳の若き族長は、新しい妻の涙を優しくハンカチで押さえてやった。
(終)




