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第四話 山脈

 

 コルトタウンの外壁を西に抜けると、すぐに木々の生い茂った区域に入る。


 道を進むと、たちまちコルトマウンテンの大きな山脈が眼前に広がっていく。


 コルトマウンテンという名前はコルトタウン付近の一部の山を総称したものだ。山脈自体は大陸をまたぐほどの大きさで、場所によっては便宜上、各地区名に沿った名前で呼ばれている。


 山脈全体を総括した名称は、アルトラルゴ山脈。――古代の言葉で、高くて広い、という意味だ。


 自然の象徴である山には当然FRANが蔓延(はびこ)る。山の規模が大きいほどFRANの数も力も比例して強大なものとなっている。資源は豊富であるものの、人が踏み込めるような箇所はほとんどないだろう。


 士官駐屯地が敷かれているものの、それは比較的標高の低い山のふもとに限られていた。すこし奥へ入れば未整地のエリアは数知れない。




 ミリスは、遅れを取り戻すため山道を駆けてゆく。レインはふわりと肩に捕まっていた。


 第三部隊の列の最後尾が見えると、


「ふぅー、間に合った」


 と、つぶやきつつ列にさりげなく加わった。その後は、ふもとにあるという士官駐屯地まで、列の動きに従って歩いていった。




 ふもとの駐屯地に到着すると、各部隊がキャンプ前に整列していた。


 ミリスの第三部隊も並んで整列する。そのまましばらく経つと、キャンプから老齢の男が出て来た。


「士官部隊の諸君、はるばるごくろう! 私は駐屯地を統括する司令をまかされている者だ。よろしく頼む! しかし、急いで駆けつけてくれたところ悪いが、全隊員、次の指示があるまで待機するように! 宿営キャンプは自由に使ってもらってかまわない! 夜が更けそうならそこで休息をとってもらう!」


 と、男は全体に聞こえるように言った。それを聞いてミリスは思う。


(夜が更ける? このまま一日明かすのか? 人質が危険なんじゃないのか?)


 と、眉をひそめて思った。周りの士官も同様に顔をしかめていた。


 一呼吸おいて、司令の男はふたたび大口を開いて言う。


「この先の山奥に抜ける坑道に、例の立てこもり犯が通った形跡が見つかったようだ! しかし、その坑道は現在使われておらず、調査が行き届いていないエリアがある! そのため通行は禁じられている! 調査が済むまで待機とのことだ!」


 そう言うと司令は後ろに振り返ってキャンプへ戻っていった。


「ねえ、ミリス。メイアさんや人質の人……大丈夫なの?」


 と、レインが耳元でささやく。


「うーん……、でも今は待つしかない」


 と、返した。


 周りの士官たちはしばらくためらっていたが、次第に散り散りに宿営キャンプに向かって歩き出した。


 ミリスも歩き出そうとしたその時、突然レインは顔を上げ、ピンと背筋を伸ばして周りを見渡した。


 そして、慌ててミリスの肩を叩く。


「ミ、ミリス!」


「え、どうしたの、レイン?」


 そのレインの様子に、ミリスも驚いて尋ねた。


()()()()()()を感じるよ! この少し先っ!」


「ええ! それ、まさかメイアさん?」


「うーん。メイアさんの魂とは違うけど、でも、怒り……悲しみ、爆発するようなごちゃまぜの感情だよ!」


 と、レインは感じ取ったことを必死に訴えかける。


(なら、犯人か、他の人質……?)


 ミリスはすこし考えてから、


「このちょっと先なんだね? レイン。見に行ってみよう。発見できたなら助けられるかもしれない」


 ミリスはキャンプから離れ山の奥へ向かっていこうと小走りで駆けだすと、


「――そこ! どこへ行くんだ?」


 誰かが背後から声を掛けてきた。振り返ると、男が一人。――遅れて到着した第三部隊隊長、エリオ隊長だった。


「た、隊長! あの、すこしこの先の様子を見たいのですが、よろしいでしょうか?」


 と、おそるおそる山の奥へ指をさして言う。


「……いや、単独で動くのはよせ。この先はすぐ廃坑だ。古びて崩れている箇所があるそうだ。安易に近づくべきではない。様子ならすでに調査隊たちが見てくれている」


 と、隊長は言った。


 その隊長の口調と、顔を近くで見て、ミリスは思い出した。


 この人は、レインと出会った日、廃炭鉱の任務で指揮をとっていた男だ。とても真面目そうで、あの時、遅刻した悪印象をもたれているかもしれないな、とミリスは思った。


(うぅ……。犯人の感情を感じ取れて追えるんです! なんて突拍子なこと説明したら、おかしな子扱いされかねないな……)


 と、ミリスは口ごもって立ち止まっていると、


「あっ! うごいてる! 感情が移動してるよっ!」


 ミリスはレインの大声にびくりと体を跳ねさせた。


「あ……ごめん。大きな声でちゃった」


 レインは口に手をあてて小声で言う。レインをなだめようと顔を上げた時、隊長も目を丸くしてこちらを見ているのに気付いた。


「なんだ? 今の声……は?」


 と、隊長が戸惑いの表情で言った。ミリスはサア、と顔が青くなる。


(――き、聞こえたのか! この隊長に! レインの声がっ!)


 とっさにミリスは口を開いて、


「あ! あっー! すぐ、移動しまーす! 勝手にうごいてすみませんでしたー!」


 と、言いながらその場から小走りでキャンプに向かった。




「はぁ、はぁ」


 ミリスの額に冷や汗が垂れる。


 ミリスはキャンプの中に入り、隅のほうで壁に手をついて呼吸を整える。


 (まさか、隊長がレインの声を聞こえるとは……。師団関係者はまずいなあ。レインが病室の少女とまではわからないとは思うが……)


 と、考えていると、


「ミリス、どうしよう……。あの人、わたしの声が聞こえてたみたいだった……。わたしのことバレたかな? ねえ、病室に戻されるかな? ミリス……」


 レインはおろおろとした様子でささやきかけた。


「……大丈夫。怪しまれても、なんとかごまかすから……。戻されたりしないよ。レインは私と一緒だよ」


 と、ミリスが言うと、レインはミリスの服の裾をきゅ、とつかんで顔を寄せた。


「それより、強い感情の持ち主は、今どこへ向かってるのかわかる?」


「えっと……。今は止まってるみたい? ううん、なんだかうろうろしてるのかな?」


「身を隠そうとしているのかもしれないね。タイミングを見計らってこっそり行ってみよう」


「ミリス、無理しないでね。わたし間違ってるかもしれないし……」


「レインが感じたのなら確認する価値はあるよ。それに、連れ去られた人たちを……助けられるなら、助けたい。そう思うんだ」


「ミリス……、ありがとう」




 ***




 キャンプに入ってから、小一時間程経っただろうか。


 コルトタウンに到着したのが夕刻くらいだったので、あたりはすこし薄暗くなりつつあった。


 士官たちは各々休息の準備を取り始めている。

 レインが察知し続けていたが、感情の持ち主には動きがなく、こちらも鳴りをひそめるのに好都合だった。


 士官や隊長もおおよそキャンプへ入っていっただろう。


「よし、レイン。行こう」


 と、ミリスはそっとつぶやくと静かに立ち上がって動き出した。


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