第三話 探知
ミリスたちを乗せた航空機がコルトタウンの発着場に到着すると、ぞろぞろと士官たちが地上に降り立つ。
ミリスも流されるままに地上に出てくると、久しぶりのコルトタウンの空気を味わう暇もなく、コルトタウンの警察隊に急かされるままに事件現場へ向かって駆け出した。
そして、教会の前までたどり着くと、ミリスとレインは目を丸くする。
「――ミリス! この教会って!」
と、レインは叫んだ。
「そうだ……。よりにもよって、だ」
と、ミリスは小声で答える。同時に険しい顔に変わった。
そこはまさにライオの孤児院がある教会だった。
ミリスたちは教会の前まで近づくと警官隊や士官たちの喧騒が聞こえてくる。
先駆けして到着していたエリオ隊長がなにやら警察隊たちと揉めているようだったが、遠くて聞き取れなかった。
ミリス含む第三部隊が整列すると、隊長が駆け足でこちらに向かってきて声を上げる。
「第三部隊の皆! 状況を確認するから聞いてくれ!」
と言い、片手を上げて続ける。
「――立てこもり犯の男は、すでに教会から逃走した模様! 教会の関係者数名を人質にさらい、街の西にある山、マウンテン・コルトへ向かったようだ! そして、犯人の男は単独ではあるが、FRANを自在に操る力をもっているとのことだ! おそらくプリムスの力と思われる! 何体ものFRANを同時に使役するような能力だ! 大型FRANに乗り、素早い移動が可能! 人質もFRANに抱えさせて去ったようだ!」
そして、隊長は山の方へ視線を移して続ける。
「それにともない、我々士官隊は山の中へ捜索に入ることとなった! 幸いにも、山中では各地点にFRAN警戒態勢による設備の整った駐屯地が設営されている! 君たちはまず、ふもとの駐屯地キャンプへ目指してくれ! 次の指示はそこで追って伝える! 以上だ!」
と、言うと隊長はあわただしくどこかへ走り去ってしまった。
周りの士官たちはざわつきながらも隊長の指示通り、山の方向へ移動を始める。
「ミリス! わたし、ライオの様子見てくる!」
と、さっとミリスのそばを離れて、レインは教会に向かっていった。
「えっ! レイン!」
ミリスは止めようとしたが間に合わず、仕方なく移動する部隊員の間を抜けて、レインを追った。
教会の中は喧騒を極めていた。
シスターや修道士、警官隊や治療を行う衛生隊などでごった返している。壁や床は崩れ、雑然と物があちこちに転がっていた。
レインはその騒然とした事件現場の状況に圧されたのか、入り口付近で動けずにいた。
「レイン、一人で行かない!」
ミリスは眉をひそめて言った。
「ごめん。でも、ひとじちが連れていかれたって……」
「ライオのことじゃないかもしれない。冷静にならないとダメ」
「……うん」
そう言うと、レインは少し落ち着きを取り戻し、ミリスの肩につかまった。
ミリスは改めて教会内の様子を見渡す。
「ライオのことを聞きたいけど……、とても話が聞ける状況じゃなさそうだね」
ミリスは行き交う人たちを避けて教会に隅っこに寄るしかできなかった。
「――おねえちゃん!」
と、声とともに、少年ライオが警官隊の間を抜けて、こちらに駆けてくる。
「ライオ! 大丈夫だったんだね」
と、ミリスが振り向いて言うと、
「うん。孤児院でみんなと固まってじっとしてたら襲われなかったよ!」
と、ライオが答える。
「じゃあライオや孤児院の子たちは無事ってことだよね? よかったー」
と、レインも安堵の声を出す。
「でも、メイアさんが! メイアさんが連れていかれたんだ!」
「メイアさん、っていうと……もしかして最初私たち会った時、ライオを追いかけてたシスター?」
と、ミリスが言うと、
「そう! いつもぼくを追いかけて人!」
「……追いかけさせてるのはライオだと思うけどね」
「そんなことより、はやく助けにいってよ! メイアさんがころされちゃう! おねえちゃん、士官なんでしょ!」
と、言うとライオがすがるように言う。
「うん、わかってる。必ず助けるよ。だから、ライオはここでおとなしく待ってるんだよ。今回ばかりは抜け出したりしたら絶対ダメだからね」
「うん……」
と、素直に返事をしたものの、ライオは唇を噛み、焦っているようだった。
「あ、それと、ライオ。もし知ってたら教えてほしいんだけど、犯人がどんな男かわかる?」
と、聞くとライオはぱっ、と丸い目を向けた。そして、すぐにうつむき、あごに手を当て、すこし間を空けてから視線をミリスに戻す。
「ええと、ぼくはずっと孤児院に隠れてたから見てないけど、犯人は昔、教会ではたらいてた人だってシスターたちが言ってたよ!」
と、答えた。
「教会で? ここの?」
「うん、そうみたい」
「なんで世話になってた教会を襲うようなことを……?」
と、ミリスは首をかしげる。
「知らないよ! 誰でもいいから、こんなことするなんて許せない!」
「そうだね。とにかく、メイアさんや人質の人たちを救助しないと、か。ライオ、情報をありがとう、私たちはもういくよ」
「うー、くそー! クラエルはどこいったんだよ! こんな時に! メイアさんの一大事だっていうのに!」
ライオは、ミリスの言葉をよそに、ぼやきながら地団太を踏んでいた。
すると、土埃が舞って、その足元に何かきらり、と光るものが目に入った。
「ミリス、そこ、何か落ちてるよ?」
と、レインも気付いたようで指をさして言う。
拾って確認すると、金属製のネックレスとわかった。
「……これは、教会のシンボルと似たような形してるな」
と、ミリスがつぶやくと、ライオはミリスの手を覗きこむ。
「それ、教会のロザリオだよ。たぶんメイアさんのだ。ほら、ここちょっと古びて欠けてるんだよね」
と、ライオは言った。
「FRANに連れ去られる時に落としたんだろうか」
ミリスがそう言うと、後ろからレインが指で肩を叩いてきた。
「ねえ。ミリス」
「ん? どうしたの?」
「わたし、シスターのメイアさんを見たことあるからわかるんだけど……、えっと、なんとなく、なんだけどね、そのネックレスから、メイアさんの気配みたいなのを感じる気がするんだ」
「気配?」
「んー。魂の色みたいに、えっと、その人の雰囲気、みたいな」
うまく言葉にするのが難しいのか、レインは口ごもりながら話す。
「そういえば、レインは人の魂を見分けられるんだっけ?」
と、ミリスが助け船を出すように言う。
「うん! そう。――だからね、そのネックレスにも、メイアさんの魂を感じるの!」
レインがそう語ると、ミリスは再び手のロザリオに視線を落とす。
「物に魂……? うーん。それっていわゆる、物に持ち主に宿る、残留思念みたいなものかな。たしかに、教会のシスターのロザリオとなれば強い思いは宿ってそうだけど……」
「それでね、ミリス! わたし、そのネックレスでメイアさんを追えるかもしれないの!」
「え? そんなことできるの?」
「うん。ちょっと遠くからでも魂の……温かみ、のようなものを感じることができるから、このネックレスの魂と同じ魂をたどればできるかもって……。でも、あんまり遠くだとわからないけど」
「ある程度近づけば、正確な位置がわかるってことか。……うん! それだけでもかなり助かる! 犯人は見つからないような場所に隠れてるかもしれないからね」
と、ミリスが言うと、レインはにっこりとして、うなずいた。
(これもレインの〈幽体〉の能力なんだろうか。でも、なんか……匂いをたどる犬みたいだ……なんて、言ったら悪いかな……)
と、ミリスは得意げな顔をしているレインを見ながら思った。
(そういえばレインは襲ってくるFRANの敵意も察して教えてくれる。あれも魂の気配みたいなものを感じ取ってるんだっけな……。レインにとって魂を探知するのは、もはやお手のものなのかもしれない)
ミリスはそう考えながら、ライオの方を振り向く。
「ライオ、このロザリオ、もっていってもいいかな?」
「うん! それでメイアさんを助けられるなら、どうぞ、もってってよ!」
「ありがとう、ライオ。よし、もう行かないと」
と、言って、ミリスは教会を出口へ向かった。
出口をくぐる時にもう一度振り返ると、ライオは拳を上げて見送ってくれていて、「がんばって!」と言ってくれているような気がした。
ミリスは手のひらを見せて返す。
そして、西の山、マウンテン・コルトへ向かって駆けだした。




