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ブルーリフレイン~プリムフィアリンク~  作者: ミヤジマハルオ
幕間 ~ある士官の日常・コルトタウンにて~
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(Ⅰ)

 

 僕の名はオリシオ。二等戦闘士官だ。


 僕は次の任務のため、僕はコルトタウンという街に来ていた。


 コルトタウンは首都から西に位置する華やかな商業地区といった印象だ。


 豊かな水源と壌土により、多くの名産品が産出されていると聞いている。


 そして、もうひとつ大きな特徴といえば、街の名前にもなっている〝コルト教〟の総本山であることだ。


 街中には教会がいくつも建立されていて、住民のほとんどが礼拝に通っているという。


 コルト教といえば国をまたいで信仰されている大規模な教えで、僕が生まれ育った片田舎でも小さな教会があったぐらいだ。寂れていて、とても近寄れる雰囲気ではなかった。


 そんなわけで故郷では詳しい話を聞けなかったこともあり、幼い頃からコルト教の教えや、発祥のルーツには興味があった。


 そんなことを考えながら、僕は街の師団基地の休息所に向かっていた。


 休息所は明るい広間で、椅子とテーブルがいくつも並んでいる。腰を下ろしているのは士官だけでなく、お年寄りや子どもまで一般人らしい人も何人か座っていた。


 ここでは街の寄り合い所のような機能もあるらしい。人が賑わう繁華街らしさが垣間見える。


 賑わいを横目に広間の隅のほうに進むと、僕は丸いテーブルに添えられた一脚の椅子に腰をかけた。


 テーブルの向かいには、僕の師、テオさんが座っている。


「オリシオ君。どうだった?」


 テオさんは腕を組みながら言った。


 長い黒髪が肩から流れるように下りていて、髪の間から端正で大人びたが表情を覗かせる。


 軽く顔を上げると、細く鋭い目つきが僕を見据える。でも、どこか遠くを見ているようで、何かを見通しているのではないか、と感じさせる目だ。


「あ、任務のことですか? どうやら僕は山のふもとの警護で、配属につくのは明日からだそうです。テオさんたちはどうでしたか?」


「私はもうすこし中腹のほうに配属されるらしいわ。配属は同じく明日。今日はのんびりするわ」


「コルト山脈は広いからでしょうか。配属箇所も細かく分かれていて、準備も時間かかるようですね。せっかくテオさんと同じ任務に就くことになったのに残念です」


 その時、テオさんの隣から、「ふふっ」と、鼻を鳴らす音がした。


「ねー! テオさんがさー! あんたみたいな雑魚とさあ。一緒なわけ、ないじゃあん!」


 と、ミーアという真っ青な髪をした少女が声を上げた。


「確かにそうですね……」


「ミーアちゃんもオリシオ君と同じ山のふもとの配属だよね?」


 テオさんが冷静な口調で言うと、ミーアはぴたりと口を閉じて唇を噛んだ。


「うう…、そーなんですよねえ! せっかく同じ任務なのに、テオさんと離れるなんて、アタシ泣いてしまいそうです!」


「はやく私と並んで戦えるようにミーアちゃんもがんばらないとね」


 それを聞いて、ミーアはがっくりと首を垂らす。


「うぅ、しかも、オリシオなんかと一緒とか、ほんと最悪……」と、ミーアはこちらを上目で睨むつけなが、低い声でつぶやいた。


 ミーアは僕より後輩だが、なぜか僕にはぶしつけな態度を見せる。僕が弱いから舐められてるんだろうな……。


「でも、テオさんってばかわいそー。やっと長期の遠征から帰ってきたばかりだっていうのに、山の警護なんて、つまんない任務に駆り出されてー」


 と、ミーアが言った途端、テオさんの手がミーアのあごをつかんだ。ミーアの口が歪み、首がすこし持ち上がる。


「ミーアちゃん。任務に面白いもつまらないもないわ。どんな任務でも人々が困っている問題には違いないのよ。それと、オリシオくんとも仲良くしないとダメよ」


 と、テオさんはきっぱりと鋭い口調で言い切った。


「ごめんなしゃい……テオさま……」


 テオさんの手が離れると、ミーアはしぼむようにちぢこまった。


 ミーアがなにか粗相をするたびに、こうなるのは何度も見た光景なのですっかり見慣れている。どうして懲りないのか僕には理解できない。


 しかし、確かにミーアの言う通り、テオさんほどの先輩が無理に受けなくてもいい任務内容だった。


 任務は〝FRANの大量発生による警備〟なのだが、いつもなら街の常駐士官でこと足りるような内容だ。


 しかも、テオさんだけでなく、手の空いている士官は階級問わず任務要請が出ているようだった。


 それほど警戒しなければならないほどのFRANの繁殖期か何かなのだろうか。


 そう思いめぐらせていると、顔の横で栗色の髪がなびいた。ふわりとかぐわしい香りが鼻をくすぐった。


「お姉ちゃん! みて! 湖の入り口で見つけた!」


 そう言って、ミュオさんが得意げに差し出したのは変わったキノコだった。


 ミュオさんは、テオさんの双子の弟で、最近まで僕の任務についてきてくれていた。


 少し変わった雰囲気の人だが、テオさんとも引けをとらない戦闘のセンスと、そして、美麗な顔立ちを持つ人である。


 今回は僕のお世話役ではなく、僕たちと同じくコルト山警備の任務要請を受けてこの街に訪れていた。


「……何それ。変なものむやみに拾ってこないでって、言ってるよね?」


 テオさんは眉をひそめて、静かに言った。


「とっても珍しいキノコなんだよ? それが街に近い所に生えてたんだ。すごいと思わない?」


 そのキノコは派手な赤紫色に染まったカサと、曲がりくねった軸の見るからに奇妙なものだ。


「きゃはっ! ちょー毒キノコじゃん!」


 しょげかえっていたミーアが急に立ち上がり、キノコに近づき、


「クッセー! 食いもんのニオイじゃないしー! マジうけるんだけどぉ! まじミュオってるぅー!」


 と、けたけたと甲高い声で笑いながら言った。


 ミュオから香ったにおいはそのキノコだったのか。つい良い香りと思い込んでしまったが、よく嗅ぐと湿った雑巾のようなクセの強いにおいだった。


「はあ。気が済んだら、さっさと捨ててきなさい。においが周りに迷惑になるでしょ」


 と、テオさんが言うと、ミュオさんはツンとした顔になり、


「キノコからその地の生態系を読むことができるのに。……このキノコの重要さは、お姉ちゃんにはわからないのです」


 と、軽く首を振って、やれやれ、とでも言いたげな風に言った。


 しばらくそんな3人のやり取りを見守ってから僕は口を開く。


「あの、ミュオさんもコルト山の中腹のほうの警備ですか?」


 僕の質問に気付くと、ミュオさんは首だけ振り向いて言う。


「うん。そうだよ。お姉ちゃんと同じ任務は久しぶりだなあ」


 と、ミュオさんは目を細めて懐かしむように言った。


「そうね。それと、ミュオ。もうひとつの任務は忘れてはいないよね?」


「うん。覚えてるよ。時間通り戻って来たでしょ。……これから?」


「そうよ」


「あれ! テオさん、どこかへ行かれるのですか!」


 テオさんとミュオさんの会話の横からミーアが声を上げた。


「ええ。私たちは別件の用事があるから、もう行くわ。オリシオ君、ミーアちゃんをよろしくね」


 と、ミーアと僕を順に見て言った。よろしく、と言われてもな……。


「テオさん! 私もご一緒しますよ!」


 と、ミーアは、すかさず返すように言った。

「ううん。これは今回の警備の視察みたいなものだから、戦闘になる恐れがあるの。ミーアちゃんは明日からの任務のために、今日はしっかり休んでなさい」


「ええー! そんなあ! 今日はテオさんとゆっくり過ごせると思ったのにい!」


 と、ミーアはふたたび、しょげ返った。


 それをよそに、テオさんはテキパキと荷物をまとめて立ち上がった。


「さ、行くわよ。ミュオ」


「じゃーね。ミーア。明日の任務で会えたらいいね」


 と、ミュオさんは手を振って、テオさんと並んで広間を出ていった。


「ああぁ……」


 ミーアは名残惜しそうにそれを見送る。


 テオさんがいなくなると途端に僕たちのテーブルは静寂に包まれる。


「なーんであたしがこんな奴と一緒にいなきゃいけねえんだよクソッ……」


 ミーアは低い声で恨めしそうにつぶやいた。……僕に聞こえるように。


 その顔は歯を食いしばるような表情で、眉間に深いシワが寄っている。


 ミーアはテオさんやミュオさんがいなくとなると、仮面を外したように険しい表情に様変わりするのだ。


「いえ、僕は一人で大丈夫なので、ミーアさんもご自由に過ごしてください」


 と、僕はため息まじりに言った。


 今日一日時間があるとわかった僕は、前から興味あった街の教会へ行ってみようと思っていた。


「言われなくてもそーするっつーの! ていうか、お前さー。テオさん狙ってんじゃねーだろうなあ?」


 ミーアは髪で影になった顔で眼光だけが目立つように睨みつけて言う。


 突拍子もない言葉に僕は首をかしげた。


「……何を言ってんですか。憧れはありますが、そういうのではありません」


「なら、ミュオっちのほうか? あぁん?」


「いや、ミュオさんは……」


 男の人だ、と言おうと思ったが、常識が通じなさそうなので、それ以上言わずに立ち上がった。


「おい! なんだよ! マジなのか! このゲスが!」


「ゲスって……。僕はテオさんたちの指導で戦闘員としてがんばりたいだけです。それ以外、興味ありません」


「はーん……」


 と、納得いっていないような怪訝な表情を見せた。


 正直、僕はミュオが苦手だった。


 この人はどうも〈理論〉が通じない。言動が理屈に合わず、気持ちが読めない。


 他の人だったら感情を読めるのか、と言われれば、そうではないのだが、この人の言動は理屈に合わなすぎて自分のペースがぐちゃぐちゃに崩されるように感じる。


「もう僕は行きますよ!」


 と席を立って、逃げるようにその場を離れた。


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