第六話 頑丈
けわしい獣道を抜けると大きな崖につきあたった。
木々が生い茂る広大な森の一部が見渡せた。遠くにはうっすらと山々の連なりが見える。
「あれ、道ないじゃん。迷ったの?」
と、ミリスが言うと、
「バカか。そんなわけないだろう。何年森の中を歩き回ってると思ってる」
と、ジルは睨みとともに返した。
「そんなのしるかっ!」
「この崖を反って歩けば自然と崖下まで回り込める。さっさといくぞ」
と、下りになった道を指さす。
「ねえ。誰か立ってるよ」
と、道先を見たレインが言った。
崖際でぽつんと、人が背を向けて立っていた。
小柄な背丈で、頭にはヘルメットをかぶり、胴体から足までほとんど隙間なくプレートを覆っている。全身フルアーマーといった出で立ち。
落ちそうなくらい崖ぎりぎりの所に立って、崖下を覗き込んでいるようだった。
それを見ると、ジルは近づいて声をかける。
「おい、お前、そこでなにやってる? そこらの崖は崩れることも」
「――っ! ひやあああああああぁぁ――っ!」
「うおっ?」
急な叫び声に、ジルは目を丸くしてのけぞった。
振り返ったフルアーマーも同じように目を丸くして固まっていた。
「……あ、あの、きゅ、きゅうに声を出さないでくださいっ! お、驚いて死にそうになりますっ!」
「それは俺のセリフなんだが」
全身フルアーマーは、幼げな顔をした女だった。
「あ、マカロじゃない!」
ミリスはそのヘルメットから覗かせた顔に見覚えがあった。
「マカロもこの任務、受けてたんだ」
「ミ、ミリス?」と、怯えた表情のまま言った。
すると、「知り合いか?」と、ジルは眉をひそめて聞いてきた。
「そう。マカロは私と同期の士官で、いつもがんばってるんだけど、ちょっと怖がりで、心配性なところがある子なんだよね」
「……なんでそんなんで戦闘士官やってんだ?」
「失礼なこと言うな! マカロにもちゃんと理由があるんだ! 消極的な性格のせいで、大人になるまでなにかと両親に頼りがちだったマカロは、これではダメだと思い立って、一人でもしっかり生きていけるってことを示すために士官になったんだから」
「……くそどうでもいい」
「それで、マカロ、こんなところで何してるの? 崖も危ないし、後ろからFRANに襲われかねないよ?」
「あ、あ、いえ、わたし、さっきまでFRANと戦ってて……」
「そうなの?」
「はい。でも、この下に……」
と、マカロは崖下に目を向ける。
「ん? ……あれは、武器かなにか?」
私も崖下に目をやると、突き出た岩にナイフのような刃物がひっかかっていた。
崖はほとんど垂直にきり立っていて、かなりの高さになっていた。
「あの、あれは……わたしのお父さんが買ってくれた……お守りがわりの剣で……」
「戦ってたら、落としちゃったってこと?」
「うぅ……はい……」
「あれは、簡単には回収できそうもないか……」
すると、マカロの目からぽろぽろと涙があふれだした。
「……あ、あれが、ないと、わたし、たたかえないんです。拾わないといけないのにどうすればいいのか、わからなくて……。あれがないと、わたし、お父さんになんていえば……。それに、これからどうすれば……」
「お、おちついて、マカロっ。回収する方法、ちょっと、考えてみる」
「おい、何言ってんだ。そんなことに構っていられるか」と、後ろからジルがけだるそうに言う。
「でも……」
「ミリスさん、わたし、なんでもお礼します……っ! わたし、どうすればいいのでしょうか……!」
マカロがそう言うと、私の胸元に顔をうずめてきた。マカロの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「わ、わかった、マカロ。手伝うから、もう泣かないで」
「おい。……お前、流されやすいタイプだろ」
「うるさい。あんたに何がわかんの。それより、ジルも何か考えてよ!」
「やるなら勝手にやれ。俺は協力するつもりはない」
その時、レインがぐい、とジルの眼前に向かっていった。
「ジルさん、わたしも助けてあげたい! おねがい! ジルさんも手伝って!」
と、レインは手を合わせて頼み込むように言って、切ない顔を見せる。
「……」
ジルは目を細めてしばらく無言だったが、やがて、近くにある木に手を添える。
すると、枝葉の間から太いツタがゆっくりと伸びるように降りてきた。
「――木を〈進化〉させて、ロープのように頑丈なツタを作らせた。これなら、人ひとりぐらいは支えられるだろう。あとは勝手にやれ」
「わあ! ジルさん、ありがとう!」
「……おい、ロリコン、それができるんなら、最初からやれよ」
「だれがだ! お前が憎たらしいこと言ってるからだろうが!」
レインが私の袖を引っ張る。
「ねえ、ミリス、ロリコンってなに?」
「レインにやさしくするような危険な奴だよ」
「それ、だめなことなの……?」
つづきは夕方




