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第四話 進化


「……それで、お兄さんは、わたしが急に見えたみたいだけど、オバケみたいで怖くなかったの?」


 と、レインは私の前をさえぎるように浮かび立ち、男に向かって話す。


「急に現れて驚きはしたが……、君みたいにはっきり存在感のある幽霊もなかなかいないだろう。透明になるプリムスでも使っていたのか?」


「ううん。わたしは〈幽体〉になるプリムスをもってるみたいなの」


「……こんな奴にもレインが見えるんだ。なーんかヤだなあ」


 と、私は後ろからぼやく。


「あぁ?」


 男にしっかり聞こえたようで、睨みを返してきた。


「そ、それでお兄さんのお名前は?」


 と、男がなにか言い返す前にレインがあわてて聞く。


「……ジル。ジル・ツヴァイクラス。村の旅団の戦闘士官だ」


 男はレインには素直だった。険しい顔のまま答えた。


「えっと、じゃあジルさんも、今回の任務になってる危険そうなFRANを探しているんだね?」


「ああ。どっかの女士官がいなけりゃあ、もっとスムーズに探し出せたろうが、な」


「はぁ?」と、私は男の余計な言葉に反応した。


「でも! わたしたち任務で協力しにきたんだから、手伝えることあったら言ってよ!」


 レインはふたたび私の前に出て視線を遮断する。


「レイン、もうこんなツッケンドンな無愛想男、放っておけばいいよ。獲物を逃がしたことは謝ったんだから、もういいでしょ」


 と、言ってレインの服を引っ張り、歩き出そうとする。


 これ以上、ジルとかいうこの男と関わる必要はないと判断した。


「ああ、もういい。そんなガサツなヘタレに協力なんて求めてねえよ」


 と、男はぼそりとつぶやいた。

 

「くっ、この……! さっきから言わせておけばっ! 好き勝手言って! ふざけんなっ!」


 と、声を上げながら、男に向かって、バッとつかみかかった。


「言いたい放題なのはお前だろ! うっとおしい! だまれこの……っ!」


 男も私のジャケットを掴み上げた。


 鋭い眼で睨み合い、互いに声を出そうとしたところで、


「――もう! もうやめてよっ!」


 レインの一際大きな声に、私たちはびくりとして止まった。


 そして、レインはうつむき、両手を目にあてて、


「うぅ……。協力したほうが、絶対、うまくいくのに……!

 せっかく、わたしが見える人に出会えたのに……っ!」


 うっ、とたじろぐ私たちの前に、レインは涙声でつづける。


「わたしたちは、一人でがんばっているっていうジルさんのこと聞いてたから……協力したいだけなのに……。みんなでがんばればジルさんも助かるって思ってたのに……」


「う……。わ、わかった。協力してくれるなら、頼むよ……。だから、泣かないでくれ」


 と、ジルは気まずそうに答えた。


「ミリスも……、やっとお話しできる人を見つけたのに、このままさよならなんて、わたし、さみしいよ……」


「あ……。レイン、ごめん……。そう、だね。レインにとって数少ない声が聞こえる人だね……。もうちょっと、話、きいてみても、いいか……」


 私とジルは反省するようにつかみかかった手をそっと下げた。


 私達がおとなしくなったのを確認すると、レインは顔を上げて、手をパンっと合わせる。


「わーよかった! じゃーあー、ジルさんがやってた作戦、くわしく教えてよ! 一緒にやってみようよ!」


 と、明るい声を上げた。その顔には一滴も涙のあとはない。


(ウソ泣きか……)


 ……なんか私、最近、レインにいいように動かされているような気がする……。

 妙に悪知恵がついてきてない?


「はあ。しょうがない」と、ジルは諦めたように、レインに迎合して話し始める。


「さっき逃げたモンギィの『親玉』が、おそらく今回、問題になっているやつだ。

 最近、ヤツらは、他のFRANと縄張り争いしているところをよく見る。

 そのせいで、人里近くまで縄張りを広げつつあるんだ。

 その侵攻の早さと、ヤツらの統率のとれた動きから、『親玉』のような存在が指揮をとってる可能性があると、俺はにらんでいる」


 そして、ジルは森の先を指さす。


「だから、さっきの子分らしきモンギィを使って、親玉のところまで案内してもらおうと思ったんだ」


「なんでさっきのやつが都合よく親玉のところに帰るってわかんの?」


 と、私は指摘を入れるように言った。


 ジルはすこし眉をひそめたが、素直に答える。


「モンギィは普通、好戦的だが、さっきのやつは士官たちを見ても襲ってこずに、こそこそと身を隠していた。

 だから、俺ら人間が騒いでる様子を偵察させられていたんじゃないかって思ってな。

 もしそうなら、親玉んとこに報告しに戻るはずだ」


「でも、さっきのは他のモンギィとは体の色が違うみたいだよ。違う種族なんじゃないの?」


 と、レインは首をかしげて言った。


「いや、あれは――」と、ジルは片手を見せる。


「俺の〈進化〉のプリムスで、ヤツの体色を黄色く〝変態〟させた。

 他のモンギィと区別できるようにと、森の中でも目立つようにな」


「ねえミリス、……変態させるって? どういう意味?」

 と、レインは純粋な目をして聞いてきた。


「さあね。変態がお似合いのお兄さんにきいたら?」


「おい、ふざけるなよ、お前!」


 私は言うだけ言って、ふいと顔をそむけた。


 はぁ、一息つきと、ジルは、くりりと目を向けるレインに説明し始める。


「変態というのは……生物が成長するときなんかに姿を変えること、だ。

 カエルや虫が、成長の過程で体の形を変えるようにな。

 俺の〈進化〉の力で、モンギィを強引に成長させて、体を変色させたんだ。

 それが、俺の〈進化〉のプリムス活用法のひとつだ」


 レインはどうやら理解できたようで、やる気の表情で言う、


「じゃあ、今からでもさっきの黄色いモンギィを探して、あとをつけようよ!」


「しかし、さっきの攻撃で警戒を強めただろうからな……素直にまた姿を見せるとは……」


「やってみなきゃわからないよ! 逃がしちゃったおわびに、わたしたちが絶対見つけるからっ!」


 ここまで話しが進んでしまったら、レインは止めるのも難しい。


 私も諦めて、しかたなくジルに協力することにしよう……。気は乗らないが。


「はん、失敗の言い訳にはされたくないし、そのくだらない作戦にのってあげる」


 と、吐き捨てるように言った。


「あー。また逃がされちゃかなわん。攻撃を外すような役立たずはもう帰っていいぞ」


 と、ジルが言うと、私たちはふたたび掴みかかるような勢いでキッと睨み合った。


「やれやれ……」


 と、レインはつぶやいた。


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