第一話 村
はじめまして!
今回の舞台は田舎の村。ゲストキャラは男。
恋愛要素……になるかは怪しいところ。
最後まで読んでいただけたらうれしいです。よろしくお願いします。m(_ _)m
首都から山をいくつか超えた先にある、のどかな村――『ハーベラル』
周囲は山や森に囲まれ、大陸中の資源をまかなうほど自然豊かな環境のもとに据える村である。
ここでは農林業が盛んに行われているものの、周囲の街へのアクセスが悪く人口は控えめという印象だった。
その上、周囲には自然の象徴といえるFRANが多いのも人口減少の一因だろう。
村に置かれた軍基地からは、士官の応援要請を度々発令されており、常にFRANへの警戒をおこたらない。
とはいえ、戦闘士官の任務となるのは農林業者の護衛が主であり、人を警戒したFRANは普段、人里まで降りてくることはほとんどない。本当にのどかで、静かな村である。
「ねえ、ミリス。木がいっぱいだね」
と、透きとおった青い髪の少女が、村の入り口をくぐりながら言った。
少女は大きめのベレー帽をかぶり、白いキャミソールワンピースの上から、すっぽりとケープを羽織っていた。
体はぷかぷかと浮いており、髪の端々がロウソクの火のようにゆらゆらゆらめいている。
――そう、少女は、幽体の姿である。本体は今も病室のベッドに眠っている。
「そうだね、レイン。田舎とは聞いていたけど……これは本格的ね」
と、少女のあとを追って、ゆるくカールのかかった紫髪の女性が言った。
女性は胸にプレートアーマーを装着し、丈の短いジャケットを羽織って、動きやすそうなショートパンツを履いていた。
――女性の名はミリス・ヴェスタ、戦闘士官。
「レイン、ちょっとまってよ」
うきうきしながら進むレインに置いて行かれそうになったので、ミリスは呼び止めた。
レインはその場で止まりながらも、村の中をきょろきょろと見回している。
(田舎でも都会でも、レインには関係なさそう。どこへいっても楽しそうだなあ)
追いつくと、レインの帽子の上には、道中で落ちてきたのだろう木の葉が数枚くっついていたので、後ろからはらいのける。
レインはそんなことはおかまいなしといったように村を見渡している。
ミリスも村の中を見回すと、どこも草木だらけで、道は舗装されておらず、土が固められているだけだった。
道に沿って並んだ住宅はほとんど木造で、道端には林業で伐採されたであろう木材がぎっしり並べられている倉庫があちこちに見える。
「ミリス、この村へは来たことないの?」
「うん。いままで近場ばっかりの任務だったからね。そろそろお金稼ぐためにも遠出もしないといけないからなあ」
と言って、「はあ」と、ひとつため息を漏らす。
それにかまわずレインは目を輝かせている。放っておくと今にもふらふらとどこかに行きそうだった。
「あそこが旅団基地かな。レイン、いくよ」
と、レインに声をかけ、ミリスは歩き出した。
道の先にひときわ大きな施設が見えていた。
(たぶん、あれがこの村の軍基地だろう)
「りょだん? ミリスがしょぞくしてる師団基地とは、なにか違うの?」
と、横からレインが言う。
「首都とか大きい街には師団基地で、こういう小さな村とかに置かれているものは旅団基地っていうんだよ。規模の大きさの違い、かな。
たしか、この村の旅団はもともと若者たちが集まっただけの自警団から始まって、軍基地にまで発展したって聞いたことがあるよ」
「ふうん」
レインは自分で聞いておきながら、気のない返事を返した。
(本当に理解しているのか……)
「そういえば、今回のにんむってなんなの?」と、レインはつづけて聞いた。
「この村の近辺までFRANが浸入してきた形跡があったみたいで、調査したら、近くの森にかなり力の強いFRANが巣くってるってわかったんだって。それで私もそれの討伐のために応援に駆け付けたってわけ」
「また、大変そうな任務だね」
「そうだね。まだ詳細な目撃情報もなくって、どんなやつかもわからないしね。まずは捜索からはいると思う」
歩きながら話している間に、ミリスたちは旅団基地の前まで到着していた。
旅団基地は木造の古びた建物で、門をくぐると、中は木の匂いがたちこめていた。壁や天井に何度か補強された跡が見え、床がぎしりときしむ。
(年季が入ってるなあ)と、思いながらミリスはエントランスを抜けてオペレーションロビーへと進む。
「一等戦闘士官、ミリス・ヴェスタ、任務にて調査討伐隊に加わりに来ました」
「――はい。承りました。戦闘士官の方はさっそく北の、『カム・ラムの森』へ向かってください。森に入ってすぐの補給キャンプで部隊長が待機していますので、指示を仰いでください」
ロビーカウンターを挟んで簡単な手続きを済ませると、ミリスは小型タブレットに送付された周辺地図を眺めながら、ロビーをあとにする。
「森だって! ミリス。どんなところかなあ。おっきな木とかいっぱいかなあ」
ロビーを離れるとさっそくレインが明るい声をかけてきた。
「うーん。FRANがいっぱいいそうだし、虫にもさされそうで、やだなあ」
と、言うと、レインは表情をくるりとひるがえして、ぶすっと口を閉じた。
「……ミリスって、ほんと夢がないよね」
(そんなこと言われてもな。レインみたいに、はしゃげないし)
とか言うと、余計に機嫌が悪くなりそうだったので、声には出さなかった。
基地のエントランスまで戻ってくると、二人組の中年の男が話しながら中へ入って来た。
「一人、森の中ではぐれたんじゃないのか?」
「いや、いい。放っておけ。また、あいつだよ」
「……ああ。例の」
「そうだ。これさえなければ、できる奴なんだがな。いつも勝手にうごくのが悩みだよ」
「隊を組ませてもトラブルばかりなんだって? 注意はうけているはずだろ」
「それで素直に言うこときいてくれるなら、苦労はしない」
男たちとすれ違いざまに、そんな会話が耳に入って来た。
(ふうん。こまったやつもいるもんだなあ)
と思いながらも、とくに気にすることなくミリスは歩を進める。
「ねえ。ミリス。一人ではぐれた人がいるんだって。FRANがいて危険なんじゃないの?」
基地を出るや否や、レインは神妙な顔をして言った。
「私も聞いてたよ。でも、自分から単独行動してるみたいな口ぶりだったし、ほっといていいんじゃないかな」
「でも、危険だよ!」
「地元の士官なら、私たちが心配しなくても、森での戦いは慣れてるでしょ」
「でも、ミリスー……」
それからも歩きながらレインは口を出してきていたが、ミリスは何も答えず北の森へ向かった。




