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第十四話 崩落


「プリズムソード」


 と、チェロとレインが口々に言っていたので、私は「ってなに?」と、聞いた。


 戦闘を終えた私たちは、その場で座り込み、一息ついていた。

 すぐ近くには絶命したシャークーシャの首が転がっている。シャークーシャの肉は、油がのっていて、とろけるような肉質で、栄養価も高いのだが、おいしく調理するには時間がかかるのが難儀である。じっくりコトコト系、だ。それに、これ以上食事をしているヒマはない。ちょっぴり惜しいが……。切り身を持って帰るのも、荷物になるしなあ。


 私は陰でそんなことを考えながら、応急措置キットの中からガーゼとテープを取り出し、レインに渡す。


「うん。宝石みたいで、すごくきれいで、かっこよかった。だから、名前をつけようと思って」


 レインは、私の腕の傷にガーゼを貼りながら答えた。


「……そんな大げさな。ただの蛇の真似っこなんだから」


 私は照れ笑いを浮かべて返す。……氷の刃を作るたびにその技名みたいなのを叫ばないといけないのかな。


「あたしが名付けたんだよっ」


 と、そばに座っていたチェロが誇らしげな顔で言った。

「かっこいいでしょ?」と、聞いてきたが、「よくわからない」とだけ答えた。

 チェロは、つまらなそうな顔を見せる。


 名前のことはさておき、プリズムソード(仮)は、私にとって成長を感じさせるものだった。


 水弾より射程は短いながらも、近距離で素早く立ち回れるし、鍛えていたブレード技術も応用できる。刀身は薄い氷に過ぎないので、見た目より軽いのも利点だ。


 ――そして、なにより、燃費がいい。


 氷剣は当然、鉄でできた普通の刃物に比べれば耐久性はないが、一度生成してしまえば、2,3振り、斬りつけることはできるだろう。一発ずつ消耗する水弾と使い分けるには十分な性質だ。……それに水弾は命中率もあまりよくないし。


「それで、このあと、どうする?」


 と、腕の手当てを終えた私は、チェロに聞いた。


「エンジンルームが気になるかな。作動してる気配はないけど、本当は誰かが沈まないように制御しているのかもしれないって思って。……位置的にはこの真下あたりだと思うんだけど」


 と、チェロは床を見つめながら答えた。


「エンジンを守ってるのが、チェロが探してる友達かもしれないってことだね!」

 と、レインが言う。


 チェロはにっこりしながら「うん」と、うなずく。


 私は「わかった。行ってみよう」と言い、立ち上がる。


 そういえば私が組んでいたC隊の人たちは、無事エンジンルームに辿りつけたのだろうか。ペリームの群れとの戦闘の時に、盛大に床や天井をぶち抜いたことで大騒ぎになってなければいいが……。


 そう思いはせながら、ラウンジの出口に向かおうとすると、


 〝バリイイィ――――ッ!〟


 ――と、突然、湖畔(こはん)のログハウスに雷が落ちたような轟音がラウンジに響く。


「えっ!」


 驚いて後ろに振り返ると、チェロがヨーヨーを引き上げるようにして床板をめくりあげていた。


「チェロ、なにしてっ……!」


 缶詰を開けるように、ぽっかりと穴が開くまで床をめくり上げると、チェロはふぅ、と息をついてから、こちらに笑顔を見せる。


「下に降りるならこのほうが早いかなって思って。階段を探してると、またFRAN(フラン)に襲われかねないし、ね」


 床をぶっ壊すことがクセになったのか、感覚がマヒしているのか、チェロは平気な顔でそう言い放った。


「どうせ、難破しちゃった船だし、だいじょーぶでしょ?」


 私が唖然(あぜん)としていると、チェロは自らフォローするように付け足した。……私に聞かれてもな。私は困らないからいいけど。


 そして、私たちはチェロのヨーヨーを、ロープにつかまるようにして一階へと降りる。



     ***



 ヨーヨーで降りてくると、そこは通路だった。

 周囲の警戒をしたが、FRANの気配はない。レインも特に反応を見せなかった。


 三人とも、通路に着地すると、チェロが口を開く。


「えーと……あった。あそこ、見て」


 チェロが指さす方向を見ると、〝関係者以外立ち入り禁止〟の札をつけたドアが見えた。

 レインがふわりと横切っていき、ドアノブに手をかけると、「鍵、かかってるよ」と言う。すると、


「どいて、ぶち破るよ!」


 チェロはそう言うと、ヨーヨーをふりかぶって、言葉通りドアをぶち壊した。


 ……ドアの中を覗くと、カビと油のにおいが鼻をついた。中の電気はついていた。通路より少し狭い空間に、鉄板の壁と床が続いている。これまでの船内と比べると、塗装もなく、剥き出しの壁って感じだ。

 壁には所狭しと配線やスイッチボックスが並んでいる。奥の方に大きい機械も見える。

 何が何なのか私にはわからないが、とりあえず、人がいないかだけ、確認しよう。


 ドアをくぐって足を踏み入れると、一歩、二歩と進む。


 四歩ほど進んだところで、「まって!ミリス!」と、背後からチェロの声。


 ――え? と答える前に——足が沈む。


「なに――っ!」


 床から足が滑り、目線がガクンと、瞬間、下がる。

 鉄板の床が唐突に傾き、パキンッ、と何かが割れる乾いた音が大きく響いた。

 続いて、配線がちぎれる音、何かの装置や器具が床をひきずる音、戸棚からブリキのバケツやスプレー缶がいくつも転がる音、それぞれが音をかき鳴らしながら床が落ちていく。脳を引っ掻き回すような、耳をつんざく音によって焦燥感に包まれる。


 あっという間に床はほとんど直角に折れた。すでに私の足は、宙に投げ出されている。

 何かにつかまろうと手を伸ばした時には、階下の暗闇に体の半分が沈んでいた。

 部屋の中央あたりを歩いていた私は何もつかめず、手は空気をつかんだだけだった。奥にある巨大な機械さえも暗闇に消えようとしていた。


 ――床全体が崩落している。


(――ダメだ! 落ちるっ! この下は、貨物庫! 誰かが2フロア分の高さだって言っていたが、どれほどの高さだ! ――落ちて耐えられるか⁉)


 暗闇に頭まで沈んだ時、


 〝――ギュウウン〟


 と、ヨーヨーの回転音が近づくと、私の体に食らいつくように張り付いた。

 ビンっと服が引っ張られる。


「――チェロッ! ……だけど、これだと……っ」


 私の声は崩れゆく騒音にかき消される。声は自分の耳でさえ聞き取れない。


 ――ピンッと、ヨーヨーの糸が張った——が、すぐに緩んだ。

 暗闇の中から、かすかにチェロの姿が見えた。落ちる私の重さに耐えきれず、引っ張られ、なだれ込むように宙に飛び出していた。


(そんな――っ! チェロまで――!)




 ――私達は、()す術はなく暗闇を落下していく。


 チェロはヨーヨーを巻き取る推進力で私に近づいてきた。

 そして、私の服をつかみ取ると、抱えるようにして身を寄せる。


「……いま、重力をゆるめて、下に着地する……!」


 チェロは、目を開けていられないほどの風を受けながら、苦しそうな表情で声を出す。


 落下によって重力がかかり続ける私を持ち上げるには、相応の〈引力〉の力が必要だ。とっさにそれだけの能力を発揮するには、チェロとて少し荷が重いだろう。


 ――このままでは、勢いを殺しきれず、ふたりとも地面にぶつかってしまうっ!


 ふたりの服や髪がバタバタと暴れまわる。まわりは真っ暗でなにも見えない。地面まであと、どれほどあるのかも――。


 私は、自身に力を込めるように、口を開く。


「――〈凝縮〉――っ!」


 真下に向かって手を伸ばす。

 ――空気の分子を凝縮して集め、密度を高める。そして、()()()()を生み出す――っ。


 すると、ボッと、体に空気がぶつかる音が増大した。


(――()()()()()()()、すこしでも落下を遅らせろ――っ!)


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


3章終わりまで投稿ペース上げます。

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