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第二話 能力


「お、ミリスじゃん」

「基地から歩いて来たのか? はははっ」


 士官学校からの顔見知りたち二人組の男が、ミリスに気付くと、からかうように言った。

 普段は軍基地内ですれ違う程度で、同じ任務に関わるのは士官学校を卒業して以来だ。


「……」


 ミリスは特に何も返さず、待機中の隊に加わった。


「そういじけるなよ。それにしても、なあ、ミリス。……お前、よくあの能力でやっていけてるよな?」


 無言のミリスに構わず、もう一人の士官も話し始める。


「ミリスのプリムスって、……ああ、あの、〈凝縮〉ってやつ、か」


「そうそう、気体が水になる、っていうあの現象な。――ただ、それだけなんだぜ?」


「卒業してから一年ほど経つだろ? その能力、ちょっとは強くなってないのか?」


 ミリスはツンとした顔で二人の会話を黙って聞いていたが、話しを振られ、ぼそりと答える。


「……変わらない、何も」


 そう言うとミリスは、人差し指を立ててゆっくりと目の前にもっていく。


「――空気中に含まれる水分を取り出し、すこしの間だけ宙に留められる。……これだけ」


 すると、指の周囲から水分が少しずつ集まっていき、ビリヤードボール程の大きさの水の塊が宙に浮かぶ。――そして、力を抜くと、頼りなく地面にパシャリと落ちて地面を濡らした。


「あんたたちの能力よりは、大したことないかもしれないけど、――別に困ってないから」


 と、ミリスは指先を見つめながら、表情を変えず言った。


 二人組は、ほんとかよ、とでも言いたげな表情をして眺めていた。


 


 ――能力。


 戦闘士官たちには皆、いわゆるナイフや銃といった武器とは別に、もう一つ〝強力な武器〟をもっている。

 それは、人それぞれが潜在的に持つ能力を発現させた――〝プリムス〟と、呼ばれる特殊な能力。


 軽口を叩いていた二人組の士官も例に違わず、プリムスを持っている。


 ――片方は、何もない空間に炎を燃え上がらせる〈発火〉のプリムス。

 ――もう片方は、冷気を放ち、周囲を凍結させる〈冷却〉のプリムス。


 どちらもミリスの能力よりも強力と言わざるを得ないだろう。




「おい、なんか前のほうが騒がしいぞ?」


 二人組の一人が何かに気付いたように言った。


「なんか、あったんじゃねーか?」と、もう片方も(いぶか)しげに言う。


 異変に気付くと、ミリスもはっとして洞窟の奥の方に目を向けた。


 すると、前方から一人の隊員が慌てて声を張り上げながら走ってきていた。


退()けえっ――‼ バットだあ――っ‼」


 その声を聞いて、周りの隊員も次々と慌てて下がり始める。


 走ってくる隊員の後ろからは、黒い物体が、何体も。

 ――まるで、巣を突かれた蜂のように、群れになった〝コウモリの姿をした獣〟が向かってきていた。


 (――〝FRAN(フラン)〟だ!〉

 

 ミリスはその獣の姿を一目見て、そう判断した。


 FRAN(フラン)とは一般の動物より凶暴かつ、身体を凶悪に進化させた獣の総称。

 戦闘士官は、このFRAN(フラン)たちと対抗するために構成された部隊なのだ。


 ……そして、今、眼前にいるFRAN(フラン)は、コウモリと呼ぶには引け目があるほど、鷹のごとく巨大で、発達した爪と牙はまるで恐竜のように長く、太く、そして鋭く伸びている。


 ――それが十数匹、同時に飛び立ち、洞窟内を真っ黒に染めていた。


 ミリスは右手でブレードに手をかけ、逆手で抜いて構える。


「お、おい! 逃げないのか⁉」


 二人組の片方がミリスの構える姿を見て思わず声をかけたが、ミリスは先ほどまでの暗い表情はなく、キッとした鋭い目をして、すぐに声を張って返す。


「あのスピードじゃ、走っては逃げられない……! 後ろから襲われるよりは、立ち向かうほうがまだ安全だ!」


 群れの先頭のいる一匹のバットがスピードに乗ったままミリスに急接近し、限界まで口を開け、牙を露出させた。


 瞬間、――ミリスは左足で踏み込み、腰を回し、バットとすれ違いざまに、


〝――シュッ〟 


 ――ブレードを振り抜いた。

 

 すると、バットは口から割かれ頭部と胴体がちぎれ飛び、勢いのままミリスの後方に、ドサッと音を立て地面に落ちた。

 

 ――しかし、バットの群れはそれだけでは当然止まらない、衝突してくるような勢いで次々とミリスに目掛けて飛び込んできている。


「たった一人でどーすんだあ――っ! おまえ――っ!」


 たまらず、二人組の片方――〈発火〉のプリムスを持つ士官が前へ出る。


「おおおおぉ――‼」


 気合を入れる声と同時に士官の足元から炎が燃え始め、たちまち火柱が上がった。


 勢いのまま突っ込んだバットは火をくぐると、

 

 〝――ギャァ〟 


 と、断末魔とともに地面に落ち、バットは焼け焦げて絶命していた。


 その後方で、もう片方の士官――〈冷却〉を持つ士官は、火柱を避けたバットの行く先を塞ぐように立ち止まっていた。


「ふぅ――」


 ゆっくり息を吐き集中する。


 そして――、二~三メートル程の距離までバットが接近すると、


〝ゴオオォーー〟


 と、自身を中心に一気に風が巻き起きた。


 風に当たったバットたちはピタリと動きを止め、バタバタと地面に落ちる。

 ――全身が霜で覆われ、もがくこともできないほどカチカチに固まり、……やがて生命力を失った。


 ミリスも二人の能力をすり抜けてくるバットを、素早い身のこなしで斬り裂いていく。




 群れのほとんどが地面に落ちた頃、ミリスたちに近づいてくるバットはいなくなっていた。




あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます、


FRANフランは動物から進化したものです。だから姿も生態も元の動物に近いものと思ってください。

また、それに対抗するプリムスという人の能力があります。


主人公ミリスの能力は〈凝縮〉です。

コップに冷たい飲み物を注いでできる浮き出てくる水滴。あれが凝縮という現象です。

飲み物の冷たさで周りの空気が冷えて水滴になるらしいです。

――空気を水にする能力って認識で問題ないです。


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