第九話 制御
(……これが〈引力〉を使った戦い、か。確かに、戦い慣れていることがわかる)
と、ミリスが考えていると、視界の端に、何かが映りこむ。
――まだ、いるのか!
「チェロっ! 後ろに二匹だ! 同じヤツ!」
チェロルカが振り返る前に、穴から這いずり出た二匹のペリームが、チェロルカに一斉に飛びかかる。
と、同時にミリスは床を蹴って飛び出していた。足を前に出し、すべりこんだ勢いで一匹を蹴り上げる。
――もう一匹は! どうする!
「チェロ、避けろ――!」
と、叫ぶ。……しかし、叫んだ時、すでにチェロルカの姿はなかった。
そこには、何にもぶつからず床に転げる一匹のペリームと、その上から黒い影がひとつ落ちていた。
見上げると、宙高くにチェロルカの姿。
そして、チェロルカは浮いたまま身をひねって一回転。と、ともにヨーヨーの薙ぎ払いを床のペリームに直撃させ、吹き飛ばす。
さらに、宙で体をもう一回転。さきほどミリスが蹴り上げたペリームに向かってヨーヨーを叩き落とした。殻が割れ、ぐしゃ、と床でつぶれる。
チェロルカはすべての動作を終えて、ふわりと着地した。準備運動を終えたように落ち着いており、すこしずれた帽子を直して、ふぅ、と一息ついただけだった。
ミリスはその一部始終をあ然とみていた。
……およそ人のできる動きではない。
〈引力〉のプリムスを巧みに使いこなしているがゆえの動きだ。
引力をゆるめて自身の体を浮かせ、対してヨーヨーには引力を強めて急落下させ、敵に叩きこむ。この使い分けを同時かつ、瞬間的に複数回こなしたのだ。
――プリムスの使い方といっても、様々ある。爆発的な引き出し方、刻むように効率良い引き出し方、そしてそれら緩急の使い分けとタイミング、――といった緻密にコントロールする技術が必要だ。力をただむやみに発動するだけだと、すぐに体力が尽き、動けなくなるのだ。いかに消耗なく効果的に使えるかが、キモとなってくる。それがプリムスの使い手の永遠なる課題だ。
そして、このチェロルカには、そんなコントールを巧みに使いこなす、抜群のセンスを感じさせる。そうでないと、こんな動きはできない。
その、か細い体を考慮しても、あまりある戦闘能力だろう。
(――と、能力を使いこなすのに苦労した私には、より痛感させられるよ……ほんと)
「チェロ、かっこいー!」
と、レインが羨望のまなざしを向けて言った。
「ね? ヨーヨーの力、わかったでしょ!」
と、言ってチェロルカはヨーヨーを掲げてポーズをとった。
「……ヨーヨーっていうか、チェロルカ自身が強いと思うけど」
と、ミリスは正すように感想を述べた。
すると、チェロルカはミリスのほうを向き、真顔になって言う。
「ミリス、さっき、あたしのことチェロって呼んでたよね」
「え、ごめん、つい短いほうが呼びやすくて」
と、突然の指摘についたどたどしく言うと、チェロルカは、パッと笑顔を咲かせ、
「いいよ! これからチェロって呼んで!」
と、わんぱくに言い放った。
「う、ん、それで、いいなら……」
と、押され気味に答えた。本当に明るい子だな……。うらやましいぐらい。
「――ミリス、チェロ! まだだよ!」
ふたたび、レインは警戒の声を上げる。
それを聞いて、二人は穴に向かって構える。
「レイン、どこ――?」
ミリスは目で探りながら問う。
「もう、いる――。すぐ下。――いっぱい!」
えっ? と、聞きなおす前にそれらが姿をあらわす。
そこには、10匹ほどのペリーム。それぞれの触手がうごめき、這い出てくる。
「――うっ」
わりとショッキングな光景だった。その触手の合計本数でいえば100本以上あるだろうか。
それらが身を寄せ合って、うごめいているのだ。
そしてさらに、いつのまにか天井にも数匹、同じようにうごめいている。
――気付かなかったが天井にも穴が開いている。
小さい穴だが、ヤツら一匹ずつなら通れるほどだ。
……多すぎる! チェロと協力したとしても、こいつらをさばききれるのか?
この先に進むには……
と、ミリスが打開策を考えようとしたとき、突然、チェロルカが腕に飛びついてきて、
「きゃあああ―――――っ!」
と、甲高い叫びがミリスの鼓膜をつらぬく。チェロルカは真っ青な顔で全体重をかけてくる、というか飛び乗ってきている。
「――無理ぃ! やだっ! 気持ち悪いぃ!」
と叫びながら、ミリスの腕に顔を押し付ける。
「ちょ、っと、チェロ! 慣れてるんじゃないの!」
と、倒れそうになるのを耐えながら言った。
「いっぱいいるの、だめぇ――っ! ミミズが大量にいるみたいぃっ! 多すぎぃっ! あんなの、見れないぃ――っ!」
……うそでしょ、チェロ。




