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第六話 潜入


「驚かせないでよ、レイン……っ」


 振り返って、小声でクレームを入れた。

 レインは目を大きく見開いて窓のほうを見上げていた。


「い、いま、窓に外に、人がいたような…」


「この窓、結構高い位置にあるし、外に人がいても見えないよ。幽霊みたいに、へばりついてるならともかく」


「だって、……あっ!」


 レインが見ていた窓に、ピシッ、と亀裂が入る。

 ――そして、パリッと乾いた音とともに粉々に崩れる。破片は床にカラカラと音を立てて落ちていった。


 少し間をおいて窓枠だけになったそこに、逆さまになった少女の顔がにゅる、と覗かせる。

 ブロンドのロングヘアーがすべて下に向かって逆立ちしている。

 少女は首を伸ばし、きょろきょろと船内を見渡す。

 ミリス以外の士官たちはすでに通路の遠くまで歩き去っていた。それを確認したのか少女は、


「とぉ!」


 と、短く言って、ふわりとミリスの前に着地した。

 羽根でも生えているかのようにとても軽やかな動きだった。

 そして、そのまま倒れるように四つん這いになってうなだれる。


「ああぁ……もう限界! これ以上くっついてたら、絶対落ちる……」


「あ、あなたは、あの時の……? どこから……?」


 ミリスは戸惑いながらも、地に伏す少女に向かって問う。


 ……顔ははっきりと見ていなかったが、服装や髪から師団基地で見たあの水兵服を着た少女だとわかった。

 でも、なぜ突然ここに現れたのか……ミリスは状況が把握できないといった顔をしていた。


 少女はブロンドの髪をかき上げ、帽子を取り出し、目深にかぶった。

 そして、スッと立ち上がって、


「……人がいなくなるの、待ってたんだけど……」


 と、独り言のようにつぶやいて、ミリスの顔をまっすぐ見る。


「えっと、あたし、怪しい者じゃないけど……、信じて、もらえないよね……?」


 少女は気まずそうに言った。

 少女はこちらのことを覚えていないようだった。

 ミリスはどう答えればいいかわからず何も言えずにいると、


「ねえ、お願い。あたしのことは誰にも言わないでほしいの。この先に行きたいだけだから……」


 と、言って「じゃあ」と振り返り、歩き出そうとする。


「――まって!」


 レインが突然、声を上げた。


「えっ?」


 少女は、反応した。――レインの声に。

 ――この子も、レインの声が聞こえているのか?


「わたし! あなたに協力したい!」


「ちょ、と、レイン……っ」


 レインの唐突な申し出に、ミリスはあわてて制止するように言った。


「えっ? 今の、だれの声? あなたのそばに誰かいるの?」


 少女はとまどっていた。少女からすれば、ミリスの方向から二種類の声が聞こえたということになる。




(――小さな子供のような声は、どこから?)


 ブロンドの少女はいぶかしげな表情で目を凝らす。

 じっと見ていると、目前に立つ女性士官の横の風景がぼやけ初め、じわじわと人の形が浮き出てきて……。


「うっ!」とすこし後ずさりした時には、その小さな子供の姿がはっきり見えるようになった。


「う、ぅぎゃああああああ! オバケぇ――――っ!」


 と、叫び声をあげて飛び跳ねた。




(――やっぱり、レインの姿が見えるんだ……!)


 ブロンドの少女の反応にミリスは確信した。


「ち、ちがうの……! 〈霊体〉になるプリムス、なの!」


 レインは、取り繕うようにあわてて説明する。……私が思うのもなんだけど、それだけで納得するには、わりと無理があるな。


「れ…れいたい…?」


 当然少女は困惑する。


 すると背後から、「おい! なにかあったのか!」と、遠くから男の声が聞こえた。

 さきほどの少女の叫びが耳に届いたのか、一人の士官がこちらに戻って来ようとしていた。


「――あっ、まずい!」


 ブロンドの少女は、はっとして、ポケットから何かを取り出した。

 ――ハンドボール程の大きさの丸い……なにかの機械?


「ついてきて!」


 ミリスは少女に腕を掴まれると、ぐいっと引っ張られる。


 ――いや、少女に引っ張られているというより、自分が近づいていっているような……、


「――え? ちょっ! これ! 何! 体が、勝手に動く――⁉」


 次に少女は、手に持った丸い機械を穴の向こう側に放り投げると、


「てやあっ!」


 と、一声。穴に向かって飛び立つ。


「――う、うそ――」


 ミリスは絶句した。


 どう考えても飛び越せない少女のジャンプ力――。


 腕は少女の手に完全に固定されているように離れず、ミリスも一緒に、穴に向かって飛び出す。()()()()()()()()

 ミリスは一瞬で青ざめ、涙ぐんだ。


(――し――死ぬ――!)


 ミリスと少女は、ジャンプの頂点から、そのままゆっくりと落下し始める――。

 足が宙をぶらつき、服が風を受けばたつき、あらゆる内臓が喉から飛び出そうになる。


(――落下、してるっ! ――でも! ――〝前〟だ――っ⁉ ()()()()()()っ!)


 目をほとんどあけていられなかったが、ミリスは自身の体が()()()()()するように動いていることがわかった。


 二人は空中で急速に方向転換して、発射されたミサイルのように飛んでいく。


 ――そして、少女は、穴を超えた先の床の上まで飛ぶと、ふわりと着地した。

 ミリスも連動し、ふわりと膝をついて着地した。


「……う……いまのは、いったい、どうなったの……?」


 ミリスはへたり込んだまま言った。


 ブロンドの少女はミリスのほうに振り返って、


「急に引っ張ってごめんね。今のは、あたしの〈引力〉のプリムス、だよ。物を引き寄せたり、引っぱったりできるんだ」


 と、淡々と説明した。


「へ、へえ……」


 ミリスは理解しようとするよりも、内臓を縦横に揺らされてみたいな気持ち悪い余韻に頭がいっぱいだった。つまり、吐きそう。


「それより、さっきの士官の人が来ちゃう! 他の人にあたしの姿を見せたくないの。早くこの先にすすもっ!」


「えぇー……」


 ミリスはぐったりとしながら再び少女に腕を引っ張られる。

 少女の走る速度に合わせて足がもつれながら走る。――いや、走らされる。


「わ、わかったから! 私も走るから、この、引っ張るのやめて……!」


「そうだ! あたし、チェロルカ! 走りながらでごめんだけど、名前いっとくね!」


 ……き、きいてねえ。


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