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第二話 花

 そのあともレインは海と、街の屋台にはしゃでいた。ミリスはそれを制止しながら、……かつ、時々買い食いしながらも、街の師団基地の前まで到着した。


 その門には『リィームズ師団基地』と、大きな木製の看板が掲げられていた。


 ――この港町の名前は古くから、『リィー()ズ』とされていたが、近年では諸外国でも発音しやすいように『リィー()ズ』と呼ばれ始めている。公式にもその名前で言われる場面が増えてきてはいるが、一部市民の間で、それに反対する運動が起こっていた。そうした圧力があるのか、古くからあるこの軍基地の名称は未だに『リィー()ズ』師団基地と称されているのだ。


 ミリスは、門をくぐった先のロビーでオペレーターと挨拶し、今回の任務の内容を改めて確認する。


 ――今回の任務は、リィームズ師団基地に在籍する海上保安隊からの応援要請だ。

 先日、航海中の一隻の連絡船が難破したとのことで、海上保安隊が乗員乗客の救助へ向かったが、日をまたいでも帰還せず、さらに海上から応援を要請してきたらしい。船内にてFRANが目撃されたという報告だったという。……そして、その後、連絡が途絶えてしまった。

 そこで、ミリスが在籍している首都の本部基地に、対FRAN要員に戦闘士官を要求したというわけだ。

 

 ……ただでさえ、船は苦手なのに、いつ沈むかわからない難破船に乗り込むことになるとは。

 緊急召集だったため、手が空いていたミリスは断れなかった。

 気は向かないが、人命に関わる大事な任務だ。受けたからには全力でやらないとな……。


 任務の確認を終えると、


「ただいま部隊の構成と艦艇(かんてい)の準備を行っておりますので、しばらく基地内にて待機願います」


 と、ロビーの向こう側のオペレーターが言った。


 ミリスは、はい、と返事したあと、案内図を見て士官の待機所の位置を探す。


 すると、後ろからレインが、


「ねえミリス、〝海上保安隊〟ってミリスたち戦闘士官とは違うの?」


「んー。あんまり詳しくないけど……、この基地では、海のトラブルを中心に扱うチームが組まれてて、それが『海上保安隊』って呼ばれてるんだよ。戦闘士官と違って基本的にFRANとは戦わないと思う」


 と、案内図を眺めながら答える。そして続ける。


「この基地にも戦闘士官はいるんだろうけど、数が足りなかったのか、私たちが応援に呼びつけられたってわけ」


「ふーん」


 レインは、興味があるのかないのか、短い返事をした。


「あ、ミリス、あの水槽みて!」


 と、レインの興味はすでに別の物に移っていた。

 廊下の壁にはめ込まれた水槽にふわふわと近づいていくと、水槽に手をついてじっくりと眺め始める。


 ミリスも後を追って、水槽を覗く。

 中に飾られていたのは、魚ではなく、様々な色の花だった。

 ライトで照らされ、とても鮮やかに映えている。


「きれーな花―」


 と、レインは感嘆するように言った。


 ――ミリスはその花を知っていた。この街のお土産屋にある絵ハガキなんかにもよく採用されているし、インテリアとして部屋に飾ったりするものだ。ほとんど枯れないし、管理も簡単で、多くの人に愛されている。ミリスも一度部屋に飾ったことがあるが、三日で茶色く変色させた苦い思い出がある。ずぼらなのが悪かったのか?


「……これは海の中に咲く花で、テュルセルカっていう、コケの一種だったかな」


 と、ミリスは説明した。


「ちゅるしぇるか」


 とだけ、レインは繰り返した。繰り返せてないけど。


 水槽のテュルセルカの花は一般のものより大きく、ひらひらした花びらが幾重にも連なって水の中を揺れている。それが八輪ほど、大小のコケ岩から生えていた。コケ岩は窓のように穴がいくつか空いている。さながら花の竜宮城と思わせるような展示だった。


 ……しばらく、一緒に水槽を眺めていると、突然、

 

 〝――ドンッ〟

 

 と、いう大きな音。


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